⑦
──未成年であるということは、それだけで正当防衛が認められやすくなるのかもしれない。
あの、どう見ても過剰防衛にしか見えない行為は、結局のところ正当防衛として認められたらしい。誰がどういう点を鑑みて決めたのか、実際にその瞬間を見ていた僕としては、かなり不思議なのだが。
でもだからといって、別にその誰かが下した決定に対して、異議申し立てをしたいわけじゃない。あの男は確かに人殺しだったようなので、あれだけ殴られても結局死んではいないのだから、まぁ、それなりの報いを受けたと思えばいいんじゃないかとも思うし、それに・・・、あの時に起きたことを明確に、順序立てて話せるほど、僕の意識も記憶も整理されてはいなかったから。
何度もバッドで男を殴りつけながら、少女が浮かべていた歪んだ笑み、あの光景に対して出来る説明なんて、一つとしてないのだ。
振り返ってみると、あの時の記憶は連続していなかった。少女が何度も男を殴りつけていた様が脳内に残っているだけで、それがいつ、どういう状態で終わったのか、全く記憶にないのだ。
気がついたら全てはどうしようもないほど終わっていて、ハルと二人、並んで座っていたのだ。警察署の、だだっ広い会議室の中で。
あれだけ行こうとして、踏ん切りがつかずに行けないでいた交番、それより一段、行くのに勇気を必要とするはずの警察署なんかに気がつけば来ていた現実に、我に返ってふと、笑い出したくなったのを酷く鮮明に覚えている。
あと、中学生にもなっているのにハルに手を握られていて、何度も目の前にいる婦警さんに、大丈夫? と、僕よりもっと幼い子供に対応するみたいな口調で訊ねられていたという記憶も、強烈な羞恥心とともに脳裏に焼きついていた。
手を握ってくれていたハルが、我に返った僕の顔を覗き込んで、大丈夫か? と婦警さんと同じ台詞を、見たこともないほど不安そうな表情で訊ねてきたその記憶も。
僕、ハル、婦警さん、その三人しかいない会議室で我を取り戻し、二人の人間から無事を聞かれている現実に、悪夢から救出された物語の登場人物みたいに豪快に泣き出した理由を、僕は今でも説明出来ない。何かを怖がったわけでも、安堵したわけでも、ましてや哀しんだわけでもなかったのに。
理由の分からない涙は、理由が分からない為、全く止まることなく・・・。
「っていうか、足が良いっていうのが意味不明だよな。足なんて、ただ労働するだけの部位じゃん。知性が感じられないよ」
「・・・いっ、いま、その発言をするっ、オ、マエの神経が・・・、い、いち、ばんっ、意味不明だっつーの・・・」
・・・ただ、泣き続ける僕を慰めながらも、つい口にしました、みたいにハルらしいと言えばハルらしい変態発言に、泣きながらもするっと出た悪態に少しだけ驚きながら、同じだけ、何だか笑い出したいような気持ちにもなっていた。
たぶん、非日常の中にいつも通りの非日常が混じっている、そんな僕の非日常的な日常を僕自身が笑いたくて仕方がなったのだろう。




