家とご飯とダンス3
え、ご飯おいしい。今食べているのはロールキャベツにグラタン。ここのご飯は、ケータリングなどを持ち帰ることもあれば、適当に手が空いている人が作る事もあるらしい。
今日のご飯はかなたさんとコウキくんが作ったらしい。
「花ちゃんどーお?おいし?」
「はい、とっても!」
「そりゃよかった。な、コウ」
「そうだね!おかわりしたかったらいって、まだまだあるよ」
「コウキくんおかわり!」
「凜、いつもながらよく食べるね」
「かなたでもコウキでもいいからさー!俺もおかわり入れて!」
「蓮くんもいつも通り」
わいわいとにぎやかな食卓。久しぶりだな。 一人暮らしは家にいると人と会話なんてしないから静かなことに慣れすぎてた。しゃべる時はテレビに突っ込む時くらい。
「花、御前明日からレッスンだから」
「え?」
少し前の自分を思い出していたら急に現実に引き戻された。
「神ちゃんから聞いてない?1週間後ファンの人の前で、曲と花ちゃんお披露目会!」
箸をくわえてコウキくんが、まさか知らなかった!?なんて驚いてる。
ええ、知りませんでした、今知りました。一気にご飯味なくなったんですが!!
「神ちゃんが言ったと思ってた。頑張って?報道陣も来るし、結構広い会場でライブ形式でするらしいから」
何人ぐらいかなー報道陣。なんて話しながら、私を見つめてにっこりと笑うかなたさん。
「……1週間」
1週間で歌、ダンスを覚えなきゃ。見せられるよなものにしなきゃ……手を伸ばしコップの中身を一気に飲みほす。
「大丈夫だよ、花ちゃん!失敗したらおれ、笑ってあげるね!」
「え」
コウキくんがものすごくかわいい笑顔で言ってくる。あ、この人がこの中で一番悪魔かもしれない。
「死ぬ気で頑張ってくれんだろ?なあ?」
するどい目つきで蓮さんが私を見る。
「も、ちろんです。やるからには死ぬ気でやり、ます……」
言ってるうちにどんどんと声が小さくなりあたまが下がる。自信ない。怖い、不安しかない。
「死ぬ気でやるんだろ?んな、なさけねえ声出すな」
蓮さんの言葉に思わず顔を上げる。怒られる……と思ったんだけど、意外と蓮さんは普通でご飯を食べている。
「花が死ぬ気でやるって言ってんだ。俺はその言葉信じるし、間違ってもいいから努力はしろ。何かあれば俺らがいる」
「蓮くんって口悪いけど優しいよねー」
「うるせえ、凜太郎。お前の飯食うぞ!!そのロールキャベツもらってやるよ」
「やだやだ!!!」
食べる気はさらさらなかったのか、簡単にロールキャベツ争奪戦の決着はつき凜太郎くんが残りひとつのロールキャベツを一口で食べる。
「凜、御前ねえ……ゆっくり食いなさいよ」
「もっと味わってよ!」
「凜太郎早く食わねえと、その残ったのも食うぜ?」
「んー!!だ、だめ!!」
「蓮、凜で遊ぶんじゃないよ」
再びじゃれ始め、笑いがあふれる食卓。
ホントに仲良いんだな。テレビの中だけだと思ってた。この中に自分が入って、申し訳
ないやら、楽しみやら、複雑な気持ちになる。
「花、それ食べねーの?」
「え?」
「それ」
凜太郎君の箸がさしているのは私のロールキャベツ。私とそれを交互に見つめる。
「あ、食べる?いいよ?」
「やった!」
いただきます、と嬉しそうに頬張る凜太郎くんを見つめる。ほんとおいしそうに食べるな。ご飯もののCMやってる意味がわかるわ。
「花ちゃん。もうおなかいっぱい?」
かなたさんが、微笑んだままこちらを見る。
「はい!おいしかったです!」
「そ?そりゃよかった」
かなたさんの笑顔に自分もつられる。なんて気の利くお兄さんなんだろう。
「今日いっぱい食べて明日からいっぱい動こうね?」
「……は、はーい」
露骨に目をそらしてみる。怖い、明日が怖い。
「ふふ、花ちゃんってなんか小動物みたい」
急にかなたさんに言われて再び見つめる。
なにかを想像しているのか小刻みに肩が揺れて、笑いをこらえている。
「小動物ですか?」
「うん、なんか、リスとか、ハムスターとか。可愛い」
「お前なあ」
「え?蓮はおもわない?かわいーじゃん、花ちゃん」
「おもわない」
そんなバッサリと。
「まあ、小動物見たいっていうのはなんとなくわかるかな!」
「んー……オレまだわかんない」
4人は再び話し出す。
蓮さんにはバッサリ、かわいいとは思わないって言われたけど、かなたさんはかわいいよと4人で話してるときに言ってくれてる。
こんなかっこいい人にかわいいって言われて、微笑まれたら……そりゃファンになる!!なってしまう!!
かなたさんのファン……ん?ファン?……気づいてしまった。
RAINBOWにはたくさんのファンがいる。人気は右肩上がりでファンも増えている。そんな中、そこに女の子が入る……想像してみる。
うん、私なら推しの近くに何にもできない足をひっぱるような女がいるなんて嫌だ。……私、やばいかも。
「わ、私、死ぬ気で練習して頑張るから!!」
「え?うん」
「おう、」
「がんばれ?」
「ん?」
ふん、と気合を入れ直し、きょとんとしている4人を前に私はおなか一杯のどこへやら。目の前にあったご飯を再び口へと運んだのだった。