トップアイドル争奪戦とアイドル達2
「はーなちゃんーん!!!」
「うわあ!!え?だれ」
「あー!!」
本日、DOTの番組に出演することになった私たちはテレビ局に来ていた。
楽屋に入ろうとした瞬間私は誰かに抱きしめられた。
「オレやで」
耳元で低い声で告げられ、体がびくつく。この声は
「天さん?!ちょ、ちか!!ドキドキするー!!」
「えー!かわええ!!」
振り向けば間近に推しの顔。
慣れない、この近さ慣れない!
「天さん、またっすか。離れてもらえます?」
蓮さんに腕を掴まれる。蓮さんの後ろで凜くんがぎゃーぎゃーとうるさい。
「天。いい加減にしなさいよ」
「あ、天さん、保護者来ましたよ。いいかげん、うちの妹離してもらえます?」
銀さんの声がした瞬間、私を拘束していた腕が離れた。
「もーすぐ抱きしめられんのやめて!」
凜くんが私の肩とか手で払ってくれる。ほんと天さんの汚れ物扱いが酷い。
「はい、とりあえず楽屋はいりましょうね」
コウキくんがさらりと扉を開け中へと促す。
中に入り荷物を置いて一息つく。
凜くんとコウキくんは銀さんにチョコをもらい笑顔で食べている。
餌付け!!
「そうそう、トップアイドル争奪戦、出場おめでとう。」
「あ、知ってたんですか?まだ発表されてねえんすけど」
「うん、ほら一応僕ら2年連続優勝だし、今回、予選も本選もコメンテーターとしてでるからね。なあ、天」
ほら、と私たちにお菓子を配りながら銀さんが話す。
天さんは携帯を触っている手を止め顔を上げ、銀さんの手からチョコをとりあげる。
「そ。自分ら、今日オレらの番組でるやろ?その番組では今日からいろんなアイドルが出演する。それはなぜか!はい、蓮、答えて」
「え?アイドル特集って事っすか?」
「そう!トップアイドル争奪戦に出る、かも、しれないアイドル達が代わりばんこに出る。それで今日がRAINBOWや」
なるほど、トップアイドル争奪戦の為の出演か。今から種をどのチームも巻くってことね。
「んで、天くんたちはいつまでここにいんの?」
ふとお菓子を食べる手を止め凜くんが首を傾げる。
「え?それいう?!」
「うん、だってオレらが衣装着るまでここにいんのかなーって」
「ええやんか!!花ちゃんおるし!」
なあ、と私を見つめる。
うん、今日も推しがかわいい。
「それもそうだね。あとで収録でも会うんだ。そろそろ行こうか。」
すっと銀さんが立ち上がり天さんを促す。
「あ、銀さんはいてもいいっすよ」
「え?なんでオレはあかんで、銀ならええん?!」
「まあ、日頃の行い、かな」
銀さんの爽やかな微笑みに天さんが悔しがる。
「ま、でも退散するよ!このままいったら天がRAINBOWのストーカーになりそうだからね」
行くよ、と天さんの首根っこを掴むと、あーなんてわざとらしく天さんがたちあがる。
「わかった、帰る、帰るから、花ちゃんチュー」
「さっさと帰れ!」
凜くんと蓮さんの声がハモる。
銀さんは楽しそうに笑うと、駄々をこねる天さんを無理やり連れて行った。
「嵐みたいだね、ほんと」
「かなた、塩まいとけ、塩!!」
「蓮さん、天さんは悪霊かなんかですか?!」
コウキくんと凜くんはその言葉に爆笑しむせていた。
DOTが出て行った後、私たちはメイクに衣装を身につけ、出番までの時間をまた楽屋で待つことに。
本日の衣装は、スーツ。
私たちをより多くの人に知ってもらうため、過去の映像と一問一答のコーナーなのでその姿。
意外とスーツって歌の衣装でも着ないから新鮮でみんなかっこいい。
「おれ、スーツきても可愛さ滲み出るのすごくない?」
「コウちゃんすごい!!」
うん、約2名は可愛かった。
「俺、スーツ似合うわ。なあ、かなた」
「それより俺の髪型ちょっとどうなの?これ似合ってる?」
お兄さん組みは鏡の前で前や後ろから自分の姿を見ている。
平和だな。
そんなことを思っていたら、楽屋の扉がノックされた。
一瞬にして顔を見合わせた5人。
また天さんなら速攻閉めろ、なんて言う蓮さんに笑いながらかなたさんがふらと、ドアを開けた。
「やあ」
「……おひきとりください」
かなたさんが速攻ドアを閉めようとする。が、
「まちたまえ!!なぜ閉める」
「いや、なんか、濃い」
隙間に靴を挟み必死に隙間から顔を覗かせる1人の、だん……女性。
「こわ!バラ連、こわ!」
「濃い、まじで濃い」
凜くんとコウキくんが私の横を詰めるように近寄る。
「僕たちは同じアイドルだろ!いいじゃないか!交流しよう!!」
「もうほんと濃いんだよ!バラ連!!」
かなたさんと互角やりあう。閉めたいかなたさんと開けたいバラ連のリーダー、翡翠さん。
なぜバラ連がここに!!
「もういいわ、とりあえずドアあけてやれ、かなた」
「俺らすぐ本番だからすぐ帰ってよー?」
かなたさんがドアから退くと、足痛いなどと小さくいいながら3人が中に入ってきた。
どこぞの舞踏会にでも行くような英国の貴族のような服を着ている。
何?このまま舞踏会ですか?しっかし……女性に見えない、男装すごい、そして濃いわ。
足をさすっているのはリーダーの翡翠さん。ミルクティー系の髪色に切長の目。ショートカットで長い前髪が下を向いているせいで片目を隠している。
その横で、大丈夫かい?と手を差し出しているのは柘榴さん。王子様のように美しい顔だちにハーフアップにした髪型、漫画に出そう。
そしてその隣で、サラミを食べているのが紅玉さん。バラ連の中で唯一長髪、黒髪。さら、とかみをかきあげる姿は写真の被写体にはもってこいの容姿。つか、なぜサラミ。
あと2人いる。水晶さんと琥珀さん。たしか留学中のはず。ライブとかにはさらりと帰ってきてファンを沸かせている。
濃いわ、名前からして濃い。
「もう大丈夫なの?翡翠」
「ああ、心配をかけたね、紅玉」
「まったく、なんて出迎えだ。翡翠の美しい足が壊れたらどうする!」
3人はドアの前に立ち私たちを見つめる。
「もう茶番はいいからなんの用?」
「コウキくん、茶番ではない、これは日常なのだよ。なあ、紅玉」
「あ、紅玉くん、サラミ持ってんの?頂戴?」
「ああ、いいとも。どれがいいかな」
柘榴さんが話を振ったのに無視して凜くんと話し出す紅玉さん。
「柘榴無視られてんの」
「違う、これは紅玉の愛の鞭なのだよ。なあ、翡翠」
「ああ、そうとも」
蓮さんの言葉に柘榴さんが長いかみを触りながら私たちに向け微笑む。
「んで、なんの用なの?」
「ああ。忘れていた。君たちも、トップアイドル争奪戦に出場するんだろう?」
翡翠さんがきら、と効果音がつきそうなウインクを放ち、かなたさんが嫌そうに手でそれを払うような仕草をする。
「君たち“も”ってことはバラ連も決定な訳?」
「ああ、僕たちも決定している。留学中の2人もそれに合わせて一時帰国する」
「また濃いのがふえるね!てへ」
コウキくんが机に両肘をつき手に顎を乗せ可愛い笑顔で告げる。
「今年の優勝は青バラ連合がいただく。」
「君たちに宣戦布告をしにきたんだ」
3人が綺麗に横並びし翡翠さんが両腕を組み私たちを見下ろす。
「へー、ま、オレらも負けるきしないんだけど?ねえみんな」
凜くんの言葉に私達はうなずく。
「負けません!」
「花さん、君は青バラ連合が似合うと思っているよ。どうかな?移籍とか」
「しません、濃いので!」
ばっさりと切り捨てた私に蓮さんが手を叩いて爆笑する。
「花ナーイス!」
「ていうかね、俺らそろそろ本番なんだけど」
かなたさんが楽屋の壁掛け時計を指差す。
本番まで残り30分を切っている。
「翡翠、そろそろ僕たちも帰ろう。歌の収録の時間が近づいてきている」
「そうだな。」
大袈裟に腕時計に目をやり衣装についているマントらしきものを靡かせドアの方を向く。
「じゃあ、花さん、勧誘はまたにしておくよ。君の男装もよく似合うだろうね。」
「いえ、結構です」
「気の強い姫君だ」
柘榴さんの言葉に思わず鳥肌が立ってしまった。
「じゃあ、皆さま、またお会いしよう。アディオス!!」
言うだけ言ってバラ連は楽屋から出て行った。
私達は脱力し机に顔を預ける。
「つ、つかれた」
「DOTといいバラ連といい、嵐かよ」
「バラ連濃すぎ」
「ほんっと、心折れないわ、あいつら!!」
「サラミはうまかったけど、それじゃまだ足りないー、つーかーれーたー!!」
みんなが、何度もうなづく。
私たちは本番5分前まで誰1人として机から顔をあげようとはしなかった。




