今年初仕事と成人式と恋の病6
「ねえねえ、コウちゃん、うまい??」
「うまいよ」
「コウ、シチューのおかわりは?」
「いる!」
「御前、袴くらい脱げ!襷掛け崩れてる」
「直して蓮くん!」
コウキくんが帰ってきて早速ごはん。
いつもはキッチン前の卓上机で食べてるんだけど今日はソファー前の机に料理を並べている。
いまだに袴姿のコウキくんの後ろに周り器用に襷掛けを直して袖をまくる蓮さんに、その前でにこにこと笑顔で食事をしている凜くん、甲斐甲斐しく世話を焼くかなたさん。
みんな今日はいつも以上にコウキくんに構ってる。
まあ、私もなんだけど。成人式と誕生日が重なる本当におめでたい日だから。
「コウキくん、飲み物入れとくね!」
「ありがと!」
ほんと可愛い顔してよくたたべる。みんなもだけど。
いまだに育ち盛りなのだろうか。
机の上にあったサラダやオムライス、ほうれん草のバターソテーやその他諸々、料理はみるみるうちに少なくなる。
こんなに食べてこいつらは何故太らないんだ、と心底おもってしまう。
「さて、コウ。今年はDOTののお2人がケーキかってくれたよ」
「ほんと?!たべる!!」
いや、どこに入るの、ケーキ!!あれだけ食べてその体の胃のどこにケーキが入る隙間があるの!!
「お腹いっぱいじゃないの?」
「え?別に?ケーキ分は入る場所取っておいた!!」
「まじか」
思わず口が空いてしまった私を見てみんなが笑う。
「でもまあ、そうだな。先にコウキに誕生日プレゼント、あげようか?」
唐揚げをつかんだコウキくん手が止まる。
「くれんの??さぞかし良い物くれるんだよね?」
「コウちゃん、ハードルあげるのよくない」
「凜には期待してない」
「ひどい!!」
かなたさんに机の上を少し片付けて欲しい、と頼まれ笑い声を聞きながらせっせとお片付け。
いまだにコウキくんと凜くんが食べている唐揚げは残しといて、っと。
机にケーキが乗るスペースができた頃、襷掛けを外し両腕を組んでソファーの上に座り直すコウキくんが目に入った。
「殿様か」
思わす、蓮さんと声がハモってしまった。
「オレ主役!」
「はいはい、んじゃ、誰からプレゼントわたす?」
「はい!!私から!!」
かなたさんの言葉に思い切り手を挙げる。
みんなの注目を掻っ攫った。
「どしたの?花ちゃん」
「いや、私メンバーに誕生日プレゼント渡すの初めてだからなんかがっかりされても困るし1番がいいの!」
「んじゃ、花ちゃんから貰おうかな!」
青い袴がほんとにお殿様だな、としみじみ思いながら可愛い顔してふんぞり帰っているコウキくんの前に正座をして買ったジャージを両手で掲げる。
「お受け取りください」
「うむ。なんて!ありがとう!あけていい?」
「うん!」
お殿様っぽかったのはすぐ終わり、すごく嬉しそうに受け取ってくれて明け始める。
なんか、ドキドキする、気に入ってくれるかな?あの目がチカチカするジャージ。
「あ、これオレがよくきてるとこのじゃん!しかもこの色いいじゃん!オレににあう」
「ほんと?よかった」
ほっと胸を撫で下ろす。
あのチカチカした色でいいんだ、よかった。
「大事に着るからね!花ちゃん!」
「うんっ!」
「んじゃ、次俺が渡そうかな!」
はい、とかなたさんの手から机に小さな箱が置かれる。
「なにこれ?」
あけるね、と包みを剥いで箱を開けるとイBluetoothのヤホンが入っている。
「まって、かなたくん、これ」
「そう、コウが欲しいって言ってたイヤホン!」
まじか!なんていってすぐさま携帯に接続する。
さ、さすが長年一緒にいるだけのことはある。欲しいものは日頃の会話から見つけている。
それは蓮さんも同じみたいだった。
香水はまあ、みんなに買ってたからさらっと渡されたが、持って帰ってきた大きい長方形の箱に入っていたのは、インテリア。間接照明!!
まさか間接照明を自分で運んで帰っていたなんて驚いた。しかもそれをみたコウキくんの目がすごい輝いている。
「あれ、すごい高いんだよ」
「え?」
照明を眺めているコウキくんと蓮さんの後ろで私とかなたさんが話す。
「あー、昔っから欲しい、って言ってた照明?」
「知ってんの?凜くん」
「うん雑誌に載って他たのをオレに見せてくれたの。その時買おうとしてたんだけど受注受付がすぐ終わってて買えなかった、って言ってた」
「なるほど」
コウキくんの確かこういう照明系好きだったな……初めて会った時も社長に照明頼んでたし、部屋にはこういうインテリアが多い。
部屋の照明買おうとしたらもらったことあるし。
「やばい、おれ、興奮!!花ちゃんからもらったのも嬉しいし、かなたくんからのも欲しかった。蓮くんのはまじでびっくりした!!いやー幸せ!!」
にこにことソファーに戻ってきて座り直す。
「ちょっとまって!オレ、オレまだ!!もう終わったように言わないでよ!!」
「だって凜飴でしょ?」
その言葉に目が泳ぐ。
ああ、飴なのか。
「……いつものの方がオレから貰ったってわかっていいじゃん」
耳と尻尾が垂れた大型犬みたい。ちらちらとコウキくんとソファーの下の机を見る。
「ははっ、ちょうだい!凜!」
ばっと顔を上げソファーの下に手を突っ込み、うれしそうにいろんな飴が入った袋を掲げ、コウキくんの太ももの上においた。
「はい!オレがね美味いと思った飴なんだよー!」
「ありがと、凜の選ぶ飴うまいから好き!んで凜もすき」
「オレもコウちゃん好きー!!」
微笑ましい、なんて微笑ましいんだ。あ、またお父さんがけいたいカメラで撮影をしている。
「さて、みんなのプレゼントもコウキに渡った事だし、銀さんと天さんからのケーキ、食う?」
いつの間にかケーキの箱を持って立っている蓮さんを4人で見上げる。
「用意がいいな、蓮」
「まあなあ!お兄さんはこうでなくちゃ。つかこれ、重てぇんだけど。何?このケーキ」
机にケーキが置かれる。
貰った時にも思ったけど、これ何号?大きいんだけど。
みんなでソファー前のテーブルを囲んで前のめりにその箱を見る。
「んじゃ、見ちゃおーか!」
「俺らも見てないからな、中身。よし、凜いけ」
そろりそろりと中からケーキを引き出す。
そこには見事なチョコレートのデコレーションケーキ。
チョコレートの飾り細工にイチゴをメインにしたフルーツ。サイドまで生クリームとホワイトチョコの細工。
プレートには『コウキ ハッピーバースデー』と書かれている。
「チョコだ!」
「すっげ、これ。そりゃ重いわ」
「天さんと銀さんにお礼言わないといけないね」
「これ絶対美味いよ!」
「こんな大きいケーキ食べるの初めて」
誰も食べる事なくずっと見つめている。そんな中、にょき、と指がケーキに刺さりデコレーションの生クリームをすくう。
「いただきます」
「あ」
コウキくんが指についたものを舐め、目を見開く。
「え、うま、これ」
「えーオレも食べたい」
「ちょっと!!取り分けるから!フォーク持ってくるから!!」
私の言葉なんて聞かず凜くんとコウキくんがまた指を突っ込む。
ケーキの側面えぐれはじめたじゃない!!
「俺も食いたい!」
「蓮さんまで!!」
結局その後かなたさんと皿とフォークを取りに行ったんだけど、戻ってきた時には8分の1は食べられてて、仕方ないのでそのケーキでDOTにお礼の写真を送った。
その日は夜遅くまで誕生日を祝い続け、朝方近くにリビングで寝落ちした私たちは、仕事の時間に迎えにきた神永さんにこっ酷く怒られたのであった。
「御前らは馬鹿か!!」
「すみませんでした」
◇◇◇




