初めてのクリスマスと女性アイドルの恐怖6
「ったく、今度呼び出されたら、おれも行くからね!!」
「ん、コウキくんありがとう。天さん銀さん、ケーキおいしいです」
私たちは楽屋に帰りDOTが持ってきてくれたケーキを食べてながらなにがあったのか話している。
机の上には渡された名刺、色々。
「オレそれいらないからね」
大きな口でケーキを頬張り凜太郎くんが眉間に皺を寄せる。
「花」
「なに蓮さん。」
壁に寄りかかってケーキを食べていた蓮さんが私の背中をトンと叩いた。
「ちょっとこっちこい」
「はい?」
ケーキをもったまま蓮さんの隣へ移動する。
「どうしたんですか?ケーキおかわりですか?」
じっとこちらを見つめてくる。
「……なんですか?あ、ケーキ口についてますか?!」
口元を拭う。え?食べ方汚いとか?
「目、腫れなくてよかったな」
スと手が伸びてきて私の頬を覆う。そのまま私の目元を親指で撫でる。
その指は絶えず動き私の頬を撫でながら蓮さんは微笑む。
な、なんだろう、どうしたら……
「あ、の!ケーキ食べますか!!」
フォークで大きめに切ったケーキを刺し口もとに持って行ってみる。
「でかくね?」
「あ、何も考えずに刺してしまって。凜くんに食べさせましょう。凜く……!」
呼ぼうとしたら手を引かれその大きなケーキを蓮さんが一口で食べた。
「っ、でけえよ」
自分の口元を空いてる手で拭う。未だに片手は頬に置かれたまま。
なんだろう、蓮さんが私の事こんなに長く触るなんて。
「食わせてやろうか?」
頬から手が離れたと思えば私が持っていたフォークを取りケーキに刺すと先ほどと同じくらいの大きさケーキを私の口元に持ってくる。
「……蓮さん、さっきより大きくないですか?」
「まさか。つうか俺の差し出したケーキ、食えねえっての?」
意地悪気に片眉を上げぐいとケーキを近づける。
「なんかいつもと蓮さん違う」
「そうか?んー……なんだろうな、御前が泣いてたの俺が慰め、あ。」
「あ。」
私と蓮さんの間に突然割って入った頭。この柔らかそうな髪の毛は。
「御前……」
頭を上げたのは凜太郎くん。大きなケーキをまたも一口で食べもぐもぐと口を動かしている。
「凜くん?!」
「ん、あ、うん」
「何言ってんのかわかんねえよ、バカ凜」
私の皿と取り持っていたフォークとともに机に置き壁に寄りかかり直す蓮さん。
「オレが凜に行けっていうてん!」
「天さんの仕業っすか」
天さんが私たちの近くに腰を下ろす。
「蓮、オレが好きやって言うてる子とベタベタするん、許した覚えないで?」
「そんなの天さんの許可いるんすか?」
2人とも笑顔で話してるけど、目が怖い。
凜太郎くん喉に詰まったのかお茶をがぶ飲みしている。ほんと。アホだなあ!ぷはっと飲み込む凜太郎くんにティッシュを差し出す。
「死ぬかと思った……!!」
「大丈夫?」
「うん!」
「……なんでそんなに見つめてくるの?」
凜太郎くんにじっと見つめられ少し体が引く。
「もう泣いてないからよかったって思って!!」
両手を握られ凜太郎くんの笑顔全開。くっまぶしい!!
「あ。花、蓮くんにケーキ食わせたんだって?天さんが言ってた!!」
「食べさせたって言うか、なんというか。」
何も考えずにさしだしたからな。
「オレにも食わせて?」
「さっき食べたじゃん」
「あれは蓮くんの持ってたやつじゃん!花がいい!!」
「……もう、仕方ないなあ!」
机に誰かの食べかけのケーキがあったからそれにフォークを突き立て凜太郎くんの前に。
「はい!」
「ん!」
口いっぱいにケーキを頬張る。思わず頬が緩む。凜太郎くんの口は大きいケーキがすっぽり入るなあ!
「おいしい?」
「う、まい!!」
「……かっわゆい!2人とも!」
「え?」
「うおっ!?」
突然凜太郎くんが私の方に倒れてくる、そして私は後ろに。また、打つ!!後頭部!!
強い衝撃が来ると思ったけど、あれ?この匂い……
「いてえ」
「蓮さん?!」
「うお、花が目の前!!」
私が倒れたのは蓮さんの胸。前には凜太郎くん。その上にはこの現状を引きおこした張本人……
「あれ、凜がラッキースケベしてる」
「コウキくん!!」
この状況……コウキくんが凜太郎くんに抱き着いて私に向かって倒れ、私は蓮さんによって後頭部が守られたって事?!
「あーあ、可愛い俺の弟と妹が将棋倒し」
「かなたさん、笑って携帯で写真撮ってないで起こして!!」
かなたさんは笑ったまま携帯のカメラの連射音が聞こえる。
「RAINBOWは仲いいな、ほんと。なあ、かなた」
「そうですね、銀さん」
落ち着いて言ってる場合じゃない、私思いっきり蓮さんに寄りかかってる。ん??あれ?私のお腹に回った手は、誰の……?
私のお腹には多分腕が回されている。
私の上で話している凜太郎くんとコウキくん。凜太郎くんの手は私の肩と、蓮さんの膝……コウキくんは両手を投げ出して凜太郎くんの上……天さんは「お前ら離れろ!!」とコウキくんを引っ張っている。
え、と、言うことは……ばっと顔を後ろに向ける。
「蓮、さん?」
「……ちけえよ顔。」
ぎゅっとお腹に回された腕に力がこもるのがわかる。なん、で?
「花、花!」
「はい?!」
凜太郎くんに呼ばれ、勢いよく振り向く。
「この、お腹にある手、花のじゃないよね?」
「え?」
それは蓮さんの手のはず……
「この腕……蓮くんの?」
私を見た後凜太郎くんの視線は私の後ろに注がれる。
凜太郎くんの私の肩を掴む手には少し力が入った。
「花にクリスマスプレゼント」
「どんなプレゼントなの、これ」
「RAINBOW1、かっこいい俺だからできる事だな」
これは多分からかってる口調のはず。目の前の凜太郎くんは笑ってないけど。
肩掴まれて後ろ向きにくくて動けない。
「……いい加減起きなさいよ。そろそろ帰ろう」
かなたさんがあきれ顔で私たち4人を覗きこむ。
「ほら、コウも凜も。花ちゃんも。蓮もね」
「かなた……ああ」
お腹に回った腕がなくなる。
「コウキ、凜、僕が起こしてあげよう」
銀さんがコウキくんたちを起こし、私は天さんに「ほら」と腕を引っ張られやっと起きれた。
「ほんとに帰るよ。DOTもそろそろ出番前の調整してもらわなきゃ」
時計を見れば結構いい時間。ちびっこは寝てる時間だ。
「んじゃ、帰って僕らのかっこいいところ見たらいいよ」
「花ちゃん、テレビの前でうちわとか振ってくれてもええねんで」
DOTが笑いながら言うもんだから、私たちもふっと息を抜く。
「えー。おれそんな花ちゃん見るのやだー!!」
「コウキも振ってよ、うちわ!で、かなたに動画でも撮ってもらって送ってよ!」
「え……銀さんがいうなら、まあ」
「コウキ、ひどない?!」
おおげさに落ち込む天さんにくすりと笑てしまう。周りをみれば凜太郎くんたちも笑ってる。
よかった、さっき空気こわかったから。
「じゃー、かえろっか、花!」
「うん!」
DOTに挨拶をし、私たちは帰路についた。
帰る間際、「花ちゃん帰るの寂しい!!」と叫んだ天さんを銀さんが叩いたのはちょっと面白かった。
帰りの車で蓮さんをみれば目が合う。合うと、「ばーか」とからかうように舌を出す。……いつもの蓮さんだよね、うん。先ほどの事は忘れよう。
あれだ、姫奈に会えなくて私と姫奈を重ねた、だけ、かなー、なんて……
そんな事を考えてると私は神永さんの運転の心地よさに寝てしまった。
そしてそのままRAINBOWとして初めてのクリスマスは終わった。
◇◇◇




