初めてのクリスマスと女性アイドルの恐怖4
歩いている最中、なんで一言も話さないのだろうか。ちょっと怖くなってきた。
騒がしかった通路を抜け、人気のない場所に出る。
「遅いよ、あきの。」
そこにいたのは近藤さんと同じような衣装を着ている人4、5人。ちょっと、なんでほかメンバーもいるの?え?ちょっと、本当に怖いんだけど。
「あのさ、雨光さん。」
「はい」
ひ、久しぶりにテレビ以外で苗字呼ばれるからドギマギしてしまう。姫奈やみんなは花とか花ちゃん、だから。
「率直にきく。凜くん、彼女いる?!」
「……は?」
「私、コウキくんの事聞きたいんだけど」
「私は蓮くんがいいわ」
近藤さんの言葉を皮切りに次々と話し出す彼女たち。
「あの。ちょっと待ってください!彼女いるかとか聞きたくて私を?」
「あなた以外にこんなこと聞いてもわからないでしょ。だいたいあなたに聞くのも嫌なのよ。凜くんの前をうろちょろしてるのは目障りでしょうがない」
「あ、はい」
ですよね。わかります
私だって天さんの周りに女いた女は嫌だったし、雑誌で出る天さんの彼女疑惑の方々が嫌で仕方なかった。
姫奈の事も羨ましくて仕方ない時もあった。今は仲良くしてほしいって心から思うけど。
芸能人も一人の男と女だもん。好きな人のそばにいる女なんて嫌に決まってる。
でも目障りって……ぐさってきます。
「で、いるの?彼女」
「あ、いえ、凜、太郎くんに彼女は、いません……」
ここで凜くんなんて呼ぶと火に油。
彼女はいない、間違ったことは言ってない、いないもん。
「好きな人とか、聞いたことある?」
やばい、この質問にはどう答えるべきか。
『私の事が好き見たいです』なんていってみ?ど、どうなるの私。
「どうなの?」
「し、りません」
これが精いっぱいでした。
「じゃあ、蓮くんは」
「かなたさんは?」
皆さんからの質問に全て知らない、いないはず、なんて濁して答える。
蓮さんと姫奈の事はいえない。コウキくん、かなたさんは彼女いないの知ってたけど何も言わない方がいいに決まってる。
「じゃあ、凜くん、紹介してくれる?」
「はい?」
「凜くん、可愛くて猫みたいであのとっつきにくそうな感じがいいのよね」
はい?誰のこと言ってますか??
ほかの方たちも「わかる!蓮くんはー」なんて私そっちのけで話し始める。
凜太郎くんが猫の様??犬の間違いでは?
とっつきにくい?どこが?あんなにじゃれてくるのに?
なんだろう、凜太郎くんの事何にも知らないくせに好きとかおかしくない?
いやおかしくはないの、見た目を好きになって中身を知るのもいい。
けど、そんな自分の勝手な思い込みで凜太郎くんをつくりあげて近づいてほしくない!!
それで近づいて、なんか思ってたのと違う、なんて傷つけるんでしょ?
「たまにドラマで見せる妖艶な、あのかっこいい感じもいいわよね、凜くん!でもプライベートではあんな感じにはなりそうにないけど!」
「たしかに!ドラマのギャップがまたいい!!」
ドラマの凛太郎くん?プライベートでもあれくらいかっこいいよ。
『花、好きだよ』
私に言ってくれた時、とってもかっこよかった。私を天さんから守る時も、心配してくれる時も。凜くんは、かっこいいよ!
「どうしたの?怖い顔して。RAINBOWの花ちゃんは笑顔でいなきゃ。皆の可愛い妹なんでしょ」
「……そんな、あの。すみません」
……何を考えていたんだ。
おちつけ、何をあらぶっているんだ、私。 それにこれ以上荒ぶるとほんとに涙が出そうな気がする。おちつけ。
気づかれないように息を吐く。
「いいよね、あんなかっこいい人たちに囲まれて」
「毎日楽しいでしょ?」
……あれ、すごい嫌味言われてるー。あははは。コワ。笑顔なのに目、笑ってないよ。
演技苦手なのかなって思ってたけどこういう演技、向いてるんじゃないかな、このアイドル様たち。
って、ダメダメ。これ何も言ってはいけないやつだ。
「まあ彼女いないならいいわ!これ渡してくれる?」
差し出されたのは電話番号がかかれた名刺。
「え、凜太郎くん、ですか?」
「そ。よろしく、花ちゃん。」
ドンと胸に押し付けられ思わず受け取ってしまう。いったいなあ、もう。怖いです、あなた!
思わず受け取ってしまっただけなのに、1枚受け取ってしまうとほかの方たちにも同じことをされ、私の手の中には何枚もの名刺。
「……渡しても連絡こないかもしれませんよ。凜太郎くんも、蓮さんたちからも」
「そこは雨光さんの腕も見せどころじゃないかな?」
「そんな事言われましても……」
「いいから渡しておいて。妹みたいなあなたからなら、受け取るでしょ?お友達が本気なんだよ!って演技してわたしてよ」
言い終わりまたグループで笑い話し始める。
あ。この人ほんとに性格悪い人だ。誰と誰がお友達か。
自称サバサバ系とかって昔テレビで言ってたけど、ただの嫌な人ではないか。
アイドルなのに。性格がゆがんでおられる。
凜くんがこの人選んだら本気で絶交してやる。って思うくらいには嫌な人だ。
どうしよう、言い返していいだろうか。言い返したい、できるかな、言い返せるかな?いや、私の性格ならできる!
けど、なんか言い返したらなぜか泣いてしまいそうな自分がいる。
「あの、ですね……」
声を出した瞬間
「あ、いた」
知ってる声が私の耳に届いた。