初めてのクリスマスと女性アイドルの恐怖
怒涛の師走が幕を開けた。
なんか毎日がドタバタしていて1日がやけに短い。
歌番組に撮影、雑誌のインタビュー。番組のゲスト出演。なんならライブしますか?なんて言葉も飛び交ってる。分刻みなスケジュールで、キャパオーバーも時間の問題っぽい。
12月も中盤に差し掛かれば、ただでさえ始まっていた正月、年末特番の収録がいくつも重なり始める。中には生放送があったりするから、どれがどの内容だったか覚えていない。
「花さん、生きてますか?」
「い、一応」
「このまま次行きます、移動中にごはん食べて置いてください」
車内で急いでご飯を食べる。
「今年最後の仕事は、大みそかの年末生放送で終了!正月3日間、休み確保しました」
「まじ!?!」
「はい!」
神永さんの言葉にコウキくんが身を乗り出した。
「正月休み……皆でぜったいゴロゴロする!」
かなたさんが変な目標立ててる……。
「花これ舐めて。マスクもしてな」
凜太郎くんがいつもの飴をくれる。……凜くんって呼ぶようにはしたけどやっぱり不意に出ちゃうな、凜太郎くんって。
「のどあめの代わり!あげる」
「いや、そこはのど飴買っとけよ」
「あ、俺もほしい」
「おれもちょうだい!」
かなたさんとコウキくんに凜太郎くんがそれぞれ飴を渡し、あまった1本を蓮さんの前にずいっと差し出した。
「蓮くんはいらないんだね?食べちゃうよ?」
「……皆食うなら俺も食う」
「蓮くんかわいー!」
「うるせぇコウキ、よこせ凜」
「仕方ないからあげるー!」
皆でもらった飴をなめる。
ここ最近、他愛ないやりとりが増えた。たぶん、笑わせてくれたりしてこれは皆の配慮なんだろう。
初めてRAINBOWとして迎える年末年始。忙しくて笑顔がつくれなくなりそうな私を、こうやって皆が支えてくれる。
「神ちゃん今日の残りのスケジュールは?」
「あ、聞きたいですか?」
バックミラー越しに、神永さんが営業スマイルを浮かべる。
ナビの時間を見る。もう19時過ぎてる。
「私、聞かない」
「おれも」
「俺はどっちでも」
「俺はいやかな」
「2対1。連さんどっちでもいいから未カウント」
「俺、聞く!」
「はい皆さんでは言いましょう、この後新曲ダンスレッスンとテレビ収録1本、ラジオゲスト出演が1本ありますよ」
「おお、長い夜だな」
「なんでいったの神ちゃん!!!」
「今日も…0時を回るのか」
「俺寝るわ」
「あ、私も」
凜太郎くん一人、顎に指をおき、ふむ長いなぁなんてアホみたいな事言っている。
聞きたくもないのに聞いてしまった私たちは、凜太郎くんとは反対にがっくりと肩を落とした。
そんな日々が続き、よくわからないまま「明日はクリスマスですね!」と、記者に振られる。驚いた。今日の日付は12月24日、イヴだ。
毎日「年末ですね!」とか「あけましておめでとう!」とか、散々言っていたからか凄く違和感がある。
「待って、あと7日で今年終わるの?もうそんなに時間経った?」
「もー今日が何日か記憶なかった……」
「俺覚えてたよ、クリスマス歌番組、生放送入ってんじゃん!」
皆あほだなーと凜太郎くんは笑う。覚えてた自分はすごい、みたいな顔してる。
「ちげえから!皆わかってっけど、忙しいから考えねえようにしてただけだ」
蓮さんが凜太郎くんの両頬をひっぱり、手を離す。
「ごめんしゃい蓮くん!」
凜太郎くんは痛い痛いと頬をなでる。
記者さんから「本当に仲がいいんですね」なんて言われ、少し照れてしまった。
本日も無事24時をこえて家につく。
皆リビングから動かない。
「ちょっと、皆部屋帰んないの?」
「そこでだらけてるコウちゃんに言われたくない」
「おれ、今ここでジャストフィットしてるから」
「なんだそれ」
5人でテレビもつけずにソファに身をしずめ、話す。
「毎年こんな感じなんですか?クリスマス感ゼロですね」
「まあ、こんな感じだね」
かなたさんが答えてくれる。
「よし、俺風呂入る!……もう少ししたら」
「蓮がおかしくなった」
「なってねぇよ!」
動けない私たち。明日も仕事。早く寝なければ。
「明日、くりすます、生歌番組だけだよね?」
「そーだねー」
コウキくんとかなたさんの会話に耳を傾ける。
そうか、明日は午前中リハでそのあと本番か。間に取材もあったけど、ほぼ空いてるのは確かだ。
皆でクリスマスできるかな。
「花ちゃん、クリスマスパーティーしよっか!」
「ほんとですか?」
思わず身を乗り出す。
「これ逃すとまた忙しくなっちゃうからさ、大みそかまで皆に乗り切るために。って、本当は蓮たちと考えてたんだよ」
「え?」
「御前、RAINBOWで迎える初めてのクリスマスだろ?イヴがこの調子だし、忙しい中で弱音吐かず頑張ってるから。特別に俺ら全員予定あけてやった、喜べ」
「喜びます!うれしいです!」
「明日は誰かにクリスマスパーティーとか、呼ばれても行っちゃダメだよ?」
「うん、わかった」
私の返事に皆が、ならよし!と笑う。
皆のクリスマスプレゼント、神永さんに頼んで用意してもらってて良かった。
「んじゃそうと決まれば今日は寝よう!明日がんばろ!」
「おー!がんばろー!」
凜太郎くんと二人で拳をあげる。
お兄様たちはそんな私たちをみて、単純、と笑っていた。