金平糖とプレゼント
デート当日、午後、17時40分。
「何を着ればいいのかわからない!!」
部屋で叫ぶ。
仕事を終わらせ家に帰ってきたのはいいけど何を着ればいいのか迷う。
あと半月もすればクリスマスで外は寒い。
「厚着?でも着ぶくれる?でも寒いのは嫌だ……」
誰かに聞こうにもこの家にはいま誰もいない。
推しの横に立つのだ、いちおう可愛い恰好はしたい。
昨日みんなにも服装を聞いてみた。ひどかった。
着る毛布でいけば?とか、ジャージでよくね?とか、なんかもう参考にならなかった。
一応、スカートに今はやってるっぽい物を合わせて……寒いからタイツ……なんて結局無難な格好に。
「はあ……サンタさん、服のセンスくれないかな。」
なんて馬鹿なことを考えてると、チャイムが鳴った。時間をみればもうすでに18時、5分前。
だれ?なんて、そんなの天さんに決まってる。RAINBOWと神永さんはチャイムなんて鳴らさない。それに……電話ならしすぎ!
「はい!」
電話に出れば、来たよー開けてやー!なんて気の抜けるような天さんの声。……推しが今日可愛い。
あ、服装……まあいいか、これで!階段をおり玄関を開ける。
「花ちゃん!寒い!!」
「天さん、冷たい!!」
開けた瞬間、天さんに抱きしめられる。服冷たい、寒い!!」
「車で来たんじゃないんですか?」
「え?ああ来たよ、けどほらこの時期もう暗いやろ。ここに15分前くらいにはついてたんやけど花ちゃん支度してるやろなって思ったし、一番星出てたから外でそれ見てた」
私から少し体を離して、鼻が赤い天さんが笑う。
どうしよう、推しが!!天使!!
「んでね、オレ、花ちゃんの為に星つかまえてん!手だして!」
「星?」
「捕まえるん構苦労したんやで?」
「ふふ、どういうことです?」
「ちょいまち」
私から離れると、ポケットに手を入れわざとらしく大袈裟に何かを取り出した。
「両手出して!星あげる」
わけがわからないまま両手を出すと天さんの手から何かが私の元に落ちてきた。
「オレから花ちゃんに星のプレゼント!」
「星って」
手のひらに小さくかわいい透明な小瓶の中にいろんな色の金平糖。
「金平糖ですか?」
「そ!夜空の星捕まえたと思ったら、手のひらで金平糖に変わってん!!」
大事に食べてや?と笑う天さん。え?もうちょっと推しがかわいすぎる!!!
トップアイドルでこんなにやさしくて可愛くてかっこいいとか、なんなの!!
天使だ。
「うれしいです、ありがとうございます!天さん、優しいですね!」
「そ?」
「はい!」
「ほな、お返し、チューでもええよ?」
「は?」
「ありがとうのチューやな!」
……そうだった、この人、簡単にキスする人だった!!
「しません!!あ、鞄とってくるんで、ここで待っててもらっていいですか??」
話をかえて出かけようと思ったけど、鞄もコートも部屋に忘れた。
「え?中入れてくれへんの?」
「天さん、見えないとは言わせませんよ?」
私は玄関横の壁を指差す。天さんは額に手を当て指差す方を向いた。
「知ってた、しってて見えないふりしてたんに!!」
そこには大きな紙が貼られてて、『天さんここから立ち入り禁止』と書かれている。
「なんやねん、これ!!」
「コウキくんと凜太郎くんの力作です!昨日の晩作ってましたよ」
「リビングくらい入ってもええやろ!!」
「天さん、ここ見えてますよね」
私は自分の真下を指差す。そこにも
「知っとったわ!」
天さんこれ以上入らないでください、の文字。これはかなたさんと蓮さん作。「あの人横見ながらさらっと入ってきそうだから、ここにもいるな」って昨日言ってた。
「あいつらいるの?」
「いませんよ、みんな出てます。」
「ふーん。」
「じゃあ、待っててください!すぐ降りてきますから!!」
「いってらっしゃい」
私は天さんに見送られ自分の部屋へ荷物を取りに向かった。