アイドルはテレビ越しがいい3
そしてあの契約から2日目。
私は今。あの時の自分にビンタをしたい。
「どういうことですか……」
いま私は神永さんと事務所の一室で話している。
就職の詳しい話をするからといわれてここにいるけど……
「契約通り、就職ですが?」
ぴら、と持ってた紙を私に近づける。
確かにこれは私がサインしたもの。
「騙されました。」
「騙された、なんて人聞きが悪い。ちゃんとした契約ですよ。就職です。サンズオンプロダクションのアイドル、”RAINBOW”所属。雨光花になる。というね。この前話した通り、ちゃんと所属部署まで用意しましたよ。」
ああいえばこう言う……神永さんに口では勝てない。
確かに、あの契約書にサインした日。そのあと社長、神永さんとカラオケに行き、3時間ほど歌い、社長が「歌うまいね。花ちゃんにはいい部署用意しておくよ」なんて言ってたのは覚えてる・
だからって……
「社長自ら、あなたをRAINBOWにいれたいと直々にご指名です。」
「だからって、アイドルとか……無理です」
「ボーナスすごいですよ」
「!!ボ、……」
ボーナス……いや、騙されるな。アイドルなんてもの、こんな私みたいな不純な動機でするもんじゃないし、今に人気上昇中のアイドルに女子1人はいるなんて、いつか誰かに殺される!!
「とにかく、無理です」
「給料も奮発するし……あ。花さん、一人暮らしですよね?RAINBOWに所属していただければ、お部屋も用意させていただきます。もちろん……家賃はいりません」
「……今日はなにする予定ですか。一応聞きます、一応。」
家賃なしのお部屋を用意なんてさすが、サンズオンプロダクション。
……一応、今のところ言うことは聞こう。
まだ逃げ出せる。正式に入ります!!なんて話したわけではない。……ちょっとRAINBOWのメンバーが見たいとかそんな理由もある。別にファンではないけど。
「今日はRAINBOW4人にあっていただきます。」
「え」
いきなりきた。
歩き出す神永さんの後を追うようについていく。
「大丈夫ですよ。あの4人には花さんの事お話してありますから」
「はあ……って、神永さんも一緒に行くんですか?」
「もちろん。私はRAINBOWのマネージャーですので。なので花さんのマネージャーということになります。」
「そ、そうだったんですか!?」
「はい。ですので、社長、あの4人よりはくれぐれも問題行動など起こさないようにお願いします」
「…………顔怖い」
「見間違いでしょう」
にっこりと笑い私の前を歩く。私は神永さんの背中についていく。
今からRAINBOWに会う。ファンじゃなくてもRAINBOWにのことはよくテレビで見るし、名前くらいは知っている。
相道 かなた 《あいみち かなた》
北川 蓮 《きたがわ れん》
谷村 コウキ 《たにむら こうき》
佐久間 凜太郎 《さくま りんたろう》
RAINBOWはこの4人組みのアイドル。
可愛い系だ、かっこいい系だ、癒しだとか、なんか、よく聞くけど……ファンじゃないから名前くらいしか知らない。
むしろ私がファンなのは…
「花さん。ぼうっとしてますが、今から4人に会うの大丈夫ですか?」
「え?あ、」
気づけば神永さんが不思議そうに私を見ている。
「き、緊張します」
「大丈夫です。先ほども言いましたが、花さんの事は話しています。さ。行きましょう。この扉の向こうに4人がいますので」
軽くドアをノックし、ゆっくり神永さんがドアを開く。
私の緊張はピークに達した。