犬とアイドルと友達と2
「おかえり蓮くん、花ちゃん!かなたくん」
「おっかえりー!」
家に帰りリビングに入ると鍋も支度をしていた凜太郎くんとコウキくんが笑顔で出迎えてくれた。
「凜、コウキ!久しぶりだな。仕事は?」
「終わらせてきた!」
2人の声がハモる。
部屋中にはおいしそうな匂いが漂っている。幸せ!
「花ちゃん、荷物、部屋に置いてきたら?蓮はもういったよ?」
「蓮さん、早っ!」
周りを見ればほんとに蓮さんはいない。早いなあ。
私も自分の部屋へと上がる。3日ぶりの部屋。なんんかものすごく長い間離れていたような気もする。
整理整頓しながら安心感からか、少し眠い。かばんの中身を出すだけ出して床暖が暖かいなーとその場に寝ころぶ。
あ、まぶたが重い。何度も開けようとしてるのに下がる。意識とびそう、鍋、鍋が私を待っている、なんて思ってたらいつの間にか私は夢の世界に旅立っていた。
どれくらい寝ていたんだろう……ゆっくり目を開ける。ん?あれ?
机に肘をついて何かを読んでいるこの柔らかそうな髪の毛は……
「り、んたろうくん?」
「ん?起きた?」
「なんで、いるの?」
ゆっくりと振り返った凜太郎くんは小さく笑う。
「メシ。出来たから呼びに来たんだけどアホみたいな顔して寝てたから起こすのも可哀想だなーって思って起きるまでここで台本読んでた。」
「アホって失礼」
体を起こし凜太郎くんの横に座りなおしてみたけど、まだ頭がぼーっとしてるから机に頭を預けて凜太郎くんを見る。
「凜太郎くん」
「んー?」
肘をついてその手の上に顔を置き私の方を見下ろす。
「私この3日間凜太郎くんと遊べなくて寂しかった」
「花、それ……」
「コウキくんとじゃれあえなくて寂しかった。かなたさんの笑顔見れなくて寂しかった」
「はいはい、今オレらいるでしょー?」
ポンポンと軽く頭を叩かれる。
「電話あんまり取れなくてごめんね」
「いーよ。蓮くん電話してきてくれたから」
「ん」
あの3日間凜太郎くんは自分の仕事の合間に何度も電話してきてくれた。
けど本気の演技が初めてだった私はNGをだしたり、撮影を押させてしまったりと色々と忙しくタイミングよく凜太郎くんの電話を取る事が出来なかった。
「心配してたって蓮さんから聞いたよ」
「だって天さん女ったらしだもん」
「そっち?」
蓮さんとは違うぎこちなさでずっと頭を撫でてくれる。癒し系ワンコ。
「何もされてない?」
「何も……」
ふと思い出す。「デートしよな」「男として見てな?」あ。だんだん顔が熱くなってくのがわかる。違う、冗談、あれは冗談。
「花?」
『凜、花ちゃんの事好きやろ』
「!!」
「ん?」
不思議そうに眉を寄せ私の顔を覗きこんでくる。
ものすごい思い出しちゃったじゃん。
「ち、かい!」
「いつもこんなもんじゃん!」
「いいから!」
ぐいと相手の肩を押し頭を起こす。目覚めたわ、完璧に!
「よくわかんないけど、メシ!食お。みんな花起きるのまってたからさ!」
台本を持ち立ち上がると私に向けあいてる手を伸ばす。
おちつけ私、蓮さんにいわれたじゃん!「天さんの話は真に受けるな」って。
「花、いこ!」
向けてくれる笑顔は3日ぶりで、さすがアイドル。可愛いじゃん。
手をとり立ち上がる。
「今日の鍋はオレとコウちゃんの自信作!はーらへった!!」
手が触れ合ってたのは10秒にも満たない。けど、わかることもある。
背が高いからやぱっり手も大きい。
凜太郎くんをおって下に降りる。眠ったおかげでこの漂うご飯の匂いは……よだれ垂れそう。
「あ、やっときた」
「おせえ、花!!
「花が起きなかったんだもん!」
「食べようか」
「うん!」
机では鍋がグツグツと煮えている。
いつもはテーブルと椅子で食べるんだけど今日は床に座りみんなで鍋をつつくらしい。
私と蓮さんは向かい合って座り蓮さんの横にはコウキくん。私の横には凜太郎くん。そしてかなたさんは鍋奉行として鍋の監視に勤しむらしい。
「いただきまーす!」
しっかりとお出汁のきいたお鍋。暖かい部屋、楽しい食卓。
3日間のお泊りの時、蓮さん、天さん姫奈とごはんを食べてた。それも楽しかったけど
「蓮くん!そのお肉狙ってたのに!」
「コウキが取るのおせえんだよ!」
「あー!!蓮くんに取られたからってオレの肉とんないでよ、コウちゃん!!」
「まだあるから落ち着いて食いなさい!」
「花、これやる!」
「お豆腐よりお肉がいいです!」
「んじゃ、花にはこれあげるー」
「凜太郎くんのネギはもらいません!!」
うん、今が一番楽しい。
「蓮くん。天くん、ほんとに何もしてない?花大丈夫だった??」
私はお肉争奪戦から一時離脱しチョコレートを食べていた。
そんな時急に凜太郎くんが蓮さんに聞いたもんだから
「ゲッホ、ゴホ」
思いきりむせた。
「何もって、何!!」
「天さんに頬にキスされてた。」
「かなたさん!!?」
「へえ」
うわ。コウキくんの目が怖い。
「花、天くんに近寄るなって言ったじゃん!」
「近寄ってない、私からは!決して!!」
ぱっと蓮さんを見れば、斜め上を見て「確かに」と思い出すそぶりを見せる。
「近寄ってないけど、花ちゃんは天さんにほっぺにチューされたの?」
「……なんか引っ張られたから。気づいたら」
「蓮くん」
コウキくんの言葉に蓮さんが短く「ああ」と答え鍋を食べ続ける。
取り調べうけてるようなんですけど、私。
「ほかに、何かあった?」
鍋を見つめていたかなたさんの目がこちらを向く。
「いえ、あの」
「蓮」
「……本気か冗談かわかんねえが花の事狙ってるってよ」
「は?」
凜太郎くんのこえがワントーン下がる。
「ったく、あの人は」
はい、と推されにお肉などを盛ってくれてるけどかなたさんの笑顔が怖い。
チョコをおいてまたお肉を食べ始める。
「花、天君とデートすんの?」
「え?」
「今、蓮くんから天君にデートに誘われてたって聞いた」
「蓮さん!!何でも話すのよくない!凜太郎くんのが怖い!」
「こんなもん、黙ってたっていつかばれんだよ。隠しててなんで言わなかったって怒られんのと今洗いざらいしゃべんのどっちがいいんだよ」
「い、今でいいです!」
正座に座りなおす。私の行動を見て口パクで、バーカといって笑いだす蓮さん。
「んで、すんの?デート」
「え?……まあ、推しとデートとか夢のようだけどあんなトップアイドルと歩くなんて恐れ多い」
「あのさ、一応おれらも売れてるアイドルってわかってる?」
「あ。」
そういえばRAINBOWもアイドルで人気上昇だったわ。いつも一緒にいるから
「忘れてた」
「忘れないでよ」
「ごめんごめん、これあげるから許してね」
コウキくんのお皿にウインナーを入れると笑いだしてしまった。
「デートするのはいいけどちゃんと、どこにいつ行くのか、連絡しなさいよ」
「許すの?かなくん!!
「あのね、凜。花ちゃんが、行くな、だめって言われましたーなんて天さんに言ってごらん。絶対勝手に連れて行かれる。」
「そんな事するの??」
蓮さんとコウキくんが頷く。凜太郎くんまで頷いてる。
「じゃあ、行くとなったら必ずお話します。」
「よろしく」
「……凜太郎くんの、顔怖いんだけど。なんか怒ってる?」
「別に」
「凜太郎くんにもちゃんと言うからね」
「いいよ、コウちゃんと蓮くん、かなたくんにいえば?」
なんかめっちゃ怒ってるんだけど、なんで?私は何故怒られた。
「かなたくん、ご飯いれて」
「はいはい」
あの後も、凜太郎くんは私と話す時だけ冷たかった。
何で私が凜太郎くんに怒られなきゃいけないのよ!!