違う手のひらと演技と告白4
「それではシーン4いきまーす」
撮影が始まると一気に緊張感がます。
「花、姫奈と天さんの演技、見てろ」
「はい」
今は姫奈と天さんのシーン。劇中この2人は恋人同士。外のセットで手をつないで歩く2人。さすが絵になる。
けど蓮さんは今どういう気持ちなんだろう。
「蓮さん」
「ん?」
私の呼びかけに答えてくれたけど蓮さんは私をみない。姫奈をずっと目で追ってる。
そんなに姫奈が、好きですか?
「なんだ?」
「蓮さん」
「だからなんだよ」
一瞬こちらを向くと少し笑っていつものように私の頭を撫でてまた姫奈へと視線を戻す。
撫でる手は止まったが私の頭に置いたままの手。
「……もう、いつまで置いておくんですか、この手!」
演技の邪魔にならないように話す。
「ん?ああ、御前俺専用の腕置きじゃなかったのか?」
「ひどい」
蓮さんが肩を揺らして笑いをこらえてるのを見ると私まで笑いが込み上げてきた。
「んで、花。」
「はい?」
「オレと遊んでんのもいいし、かっこいいオレ見ててもいいけど、御前推しみなくていいのかよ?」
「はっ!!そうでした」
すぐさま目を天さんに向ける。隣で「凜もアホだけど御前もアホ」と蓮さんの声が聞こえてくる。
ちらと横を見上げれば笑ってはいるものの目は姫奈、というか2人の演技を見ている。
蓮さん、私が姫奈よりもうまく演技できたら褒めてください。そんな一言を口にできないまま私たちはそのシーンを見つめていた。
「蓮、花ちゃん、どうやった?オレの演技」
「かっこよかったです!!とても!!」
「ほんまに?ありがと」
「あ、かっこいい……」
「ちょっと、天さん花とらないでください!花、ヒナは?ヒナもよかった??」
「姫奈、可愛かったよ!」
「やった!!」
演技を終えた2人が話かけに来た。姫奈はもともとかわいいから今回の可愛い系女子の役がとてもはまってるし、天さんのスーツ姿を拝めて私は胸がいっぱいです。
「姫奈ちゃん、天さん、それ。そいつ返してください」
「花ちゃん?」
「はい、ちょっと台本確認したいとこあるんで」
蓮さんが台本を丸めて持って私の頭をそれで軽くたたく。ポコンと気の抜けた音がする。
「えー?オレ花ちゃんと話すの楽しみにしててん。なんでさっきやっとかへんの?蓮」
「天さんが花にちょっかい出すと思ってたから、いまやるんすよ」
「御前、ちょっと生意気やなあ?」
「今更っすか?生意気ついでに花にちょっかい出すのやめてもらっていいっすか?うちの末っ子が泣いちゃうんで」
「いーやーや!」
天さんと蓮さんがじゃれてる。えー、かわいいよ、この2人。
なんて、目の保養をしてたら姫奈がスッと私の横に立った。
「姫奈?」
「いいなあ、花。蓮ちゃんにあんな事言われて」
「あんな事?」
「花を返してとか、ちょっかいださないで、とか」
「姫奈」
しゅんとして肩も下がってる。
「え、あ、でも、私が見たことのない蓮さんを姫奈はいっぱい見てるじゃん??ファンの子も見れないしさ!」
だって、私に向ける顔とは違う顔してるよ、蓮さんは。
「蓮ちゃん、姫奈のことちゃんと好きだよね?」
「え?そりゃそうでしょ。さっきもずっと姫奈の演技見てたよ?」
「ほんと?うれしい!姫奈、蓮ちゃん大好きだから!って、こういうこと言えるのは花の前だけ!私、花の事も大好きだよ!」
姫奈の顔がぱっと明るくなる。姫奈が笑ってよかった!
「あ、花にお願いがあるの」
「何?私にできるならやるよ??」
姫奈はいい子だ、とても。私は姫奈が好きだ。ただ、友達の彼氏を好きになった私がいけないんだ。
姫奈がもっと嫌な子だったらよかったのに。
「あのね……」
「……あ、うん、わかった」
「ありがとう花!大好き!」
姫奈は耳打ちし、返事を聞くと私に一度抱き着き微笑み、そのままメイクなおしへと向かった。
姫奈の背中を見送り、天さんと蓮さんを見る。今は真面目な顔して台本を2人が覗き込んでいる。
「はあ……」
姫奈は好きだ、ほんとに。いい子だから。
でもさ「あのさ、この撮影であんまり蓮ちゃんと2人きりになれないかもしれないから、ちゃんと姫奈の事好きか、蓮ちゃんに聞いてほしいの!!」って、これ何の拷問?え?
好きに決まってるし、蓮さんなら姫奈があいたいって言ったら意地でも2人きりの空間を作るよ!!絶対作ってくれる。
でも、姫奈の事も好きだから……聞くけどさ。
私は今笑えてますか?
かなたさん、コウキくん……凜太郎くんに会いたい。ああ。すでにホームシック。




