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違う手のひらと演技と告白



「花はい。かなたくんが作ってくれた」

「凜太郎くんありがとう」


 暖かいココアが体に染み渡る。かなたさん、ナイス甘さ。


「うまいね」

「うん」


 私は凜太郎くんと庭にあるベンチに座ってる。

 11月に入ってるというのに温暖化なのか凍えるほどの寒さはなく、ちょっとの厚着で充分耐えられる。


 だから、もうすぐ始まるドラマのセリフを外で練習しようって思って一人外にいたんだけど、仕事から帰ってきた凜太郎くんに見つかり、「オレがセリフ覚えんの手伝ってやる」といってくれて、今2人でココアを飲んでいる。


 敷地内ではあるんだけどここのベンチは、家から見えない。

集中してセリフ練習したい時にみんなが使うところだと蓮さんに聞いたからここで覚えようと思ったんだ。


横にいる凜太郎くんはココアを飲む手を止め、真剣に私が付き合ってほしいと頼んだ場所のセリフを覚えてくれているみたいだ。


実は蓮さんに「手伝ってやろうか?ドラマじゃ恋人なんだし?」と、からかいながら言われたが、恥ずかしいのといいタイミングで蓮さんの携帯に姫奈からの着信でその話はなくなっていた。


まあ、なくなってよかったよ。心臓壊れるわ。こんな人気のないとこで2人とか……敷地だけど。


「んじゃ、やる?」

「え?覚えたの?」

「まあ。初めてなわけじゃないし」


 立ち上がったと思ったらベンチ近くにある机にココアを置くと私の方を振り返り微笑んだ。


「凜太郎く……」

『美紀話って?』

「え……」


 小さく首を傾げる凜太郎くん。いつもと雰囲気違う……やっぱり、伊達にドラマで主役してないよね。私も頑張らなきゃ。


『あのね、付き合ってください』

『どこに?』

『違う、そうじゃないよ』


 ここ、美紀が翔太に告白するところ……私が、蓮さんに唯一好きだと言えるシーン。

 一度目をそらしてから、相手を見つめて……


『好き』


 凜太郎くんの表情が緩んでいくのがわかる。驚いた顔から次第に照れてるような。


『俺も好きだよ』


 ……こ、れは!!


「も、もういい!!やめよう!!ありがとう!凜太郎くんさすが!!」

「は?」


 早口で言い切る。やばい、演技なのに、演技だけど!破壊力がすごい。

 

 多分、ただの練習で本番ではないっていうことで少し気楽にやりすぎた。

 それにあんな顔の凜太郎くん、初めて見た。凜太郎くんでこれだから……よかった!練習が蓮さんじゃなくて。私、死んでた。


「……花」


 名を呼ばれ顔を上げると、凜太郎くんに見下ろされた。なんか、いつもより真剣な顔で。


「なに?」

「あのさ……っうお?!」

「うわ、びっくりした!!」


 突然鳴り響く携帯の着信音に2人してビクっと肩を揺らした。


「電話?音すごいね。」


 結構大きな音だし、夜中には響く。

凜太郎くんは携帯を取り出し音量を下げるとディスプレイを見る。


「……出ない」

「でなくていいの?しつこいくらい鳴ってるよ?」


 バイブの音が響く。いまだ切れない着信。凜太郎くんが深いため息とともにしゃがみこんだ。

 

「もーーー!こいつしつけーんだもん、やだ!!オレ断ったのに!!」


 嫌だ、もーやだ、と叫んで携帯を地べたに置いた凜太郎くんの前に自分もしゃがみこむ。

 着信はやっとこさ止まり静寂が訪れた。


「どしたの?」

「ん」


 携帯を拾いあげると私の目の前に先ほどの着信履歴を見せてくる。


「見ろってこと?……え?この人から電話くるんだ、凜太郎くん」


 着歴にあったのは、今人気のアイドルグループの女の子の名前。RAINBOWもよく歌番組で一緒になるし、この前かなたさんと一緒にクイズ番組に出てた。

 

特に私は仲良く話したりはしないけど、むしろ話しかけてももらえないんだけども。

蓮さんやかなたさん、コウキくん凜太郎くんはあのアイドルグループから沢山話かけられていた印象がある。


「オレこいつに告白されたの。」

「えっ!?」

「声がでかい!!」


 短く発した、え?!は静寂にものすごく響き、思わず両手で口をふさぐ。

モテるとは思ってたけど、告白された、とか聞くとリアル。

 あれ?この子、あのグループでも特に人気のある子でめちゃくちゃ顔きれいな子じゃなかったけ?まさか振ったの?もったいない。


「告白されて、どうしたの?」

「え?わかんねーの??では問題です。オレが今花とここにいて電話に出ないってことは?」

「……凜太郎くんとあの人はオツキアイをしていない、が正解ですか?」

「はい、大正解。正解した花には……オレが頭を撫でてやろう!!」

「なにそれ!」


 凜太郎くんの手が私の頭に降りてくる。


「いつまで撫でるんですか?」

「オレの気のすむまで!!」


 私の頭を撫でるその手は私の好きな人の手とはまるで違う、ぎこちないような……それでいて優しい、そんな感触だった。



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