アイドルはテレビ越しがいい2
「……あの……」
怖くて腕に力を籠め軽く引く。
「いきなりすみません。腕大丈夫ですか?うちの社長が、あなたの話を聞いてみたいそうでお時間ありますか??」
急に笑顔になったと思ったら、話しながら社長さん?の手を私から離してくれた。
「じ、かんはありますけど……」
「よかった。……つかぬ事をお聞きしますが。スーツを着てここにいたってことは……面接、とかですか?」
「え?あ、そうですが……」
まあ、こんなテレビ局で、就職活動です!!って前面に押し出したようなスーツ姿の人は…………あたりを見回しても……新卒が多いわけでもないこの時期にいないよね。
「それはお疲れ様です。」
「あ、ありがとうございます」
優しい笑顔に、つい気が緩む。
「就職に困ってるなら、うちで働けばいい」
「え!?」
「社長……」
お兄さんは社長さんの顔を見て、「いつも勝手に!!」なんて怒ってるが……え?就職ゲット??まさかの??
怪しい人にはついていくな、と教わってはいるものの、話した感じいい人そうだし、なにしろ楽に就職口が見つかるかもしれない!!
「……と、言うことですので、うちの事務所に一緒に来ていただいてもいいですか?」
「あ、はい!」
思わず即答してしまった。
「そんなに即答して平気ですか?」
くすくすとお兄さんは笑う。
普段なら警戒心120%なんだけど、悪い人たちには見えないんだよね……しかも、就職先ゲットかもしれないし。
「……あ、危ない方々ではないですよな?」
一応……聞く。
「大丈夫ですよ。でもそうですね。申し遅れましたが私はこういうものです。」
お兄さんが名刺を渡してくれる。
「……サンズオンプロダクション?!」
「ええ。こちら、社長の陽村です。」
開いた口がふさがらない。
サンズオンプロダクション。今所属事務所のRAINBOWの人気がすさまじく、業界のなかでメキメキ頭角を現している事務所だ。
「そして私が、神永と申します。今から……失礼。お名前をまだ聞いていませんでしたね。」
「え、あ。雨光 花です……。」
「雨光さんを事務所にご案内します。何かあれば私どもを訴えるなりしていただいて結構ですので、ぜひいらしてください。就職の話にもなりますので。」
にっこりと笑う神永さんの笑顔が嘘には見えなくて私は頷き……サンズオンプロダクションへとむかったのだ。
まあそれからは、高給とか、自由出勤だの好条件を出され、就職、固定給に目がくらんだ私は、「この契約書にサインしてもらえると今からでも働いてもらえます」との、とらえ方によっては神のような悪魔のようなその言葉にのせられ……拇印まで押して契約を交わしてしまったのだ。