MVとド緊張の初演技6
コウキくんとは日中に中庭で撮影。これは思いのほかコウキくんの演技に引っ張られてうまくいった。
かなたさんとは廊下。これも褒められた。
凜太郎くんとはさっき体育館で。これはなんかドッと疲れてカメラチェックは凜太郎くんにお任せした。
「最後は蓮さんか」
動機も収まりやっと落ち着きを取り戻した私は次の撮影の為、蓮さんと共に教室にいる。
カメラは勝手に回されるらしく今回は掛け声すらない。なので今回の撮影はどこまでも自然体でいいそうだ。
「疲れたか?」
「はい」
「きっぱり言うな」
窓際一番後ろに座っている私の前の席に蓮さんが座る。
2人で綺麗な夕焼けを見つめる。
教室にも夕日が差し込む。長い撮影も私はこれで最後。
「綺麗だな」
「え?!」
突然の言葉に勢いよく蓮さんを見る。
「なんだよ」
「え、いや、今綺麗って」
「あ?夕日綺麗だろうが」
人差し指で窓を指差す。
あ、夕日ね、夕日。私じゃなくて夕日か。
「お前は綺麗ってタイプじゃねえだろ」
ふっと鼻で笑われる。
なんだよ、人の考えてること読んでるんじゃないよ!!
「でも家でみんなで見る方がいいな。」
「……蓮さんってそんな事言うんですね?」
「は?御前だって撮影よりも楽な格好でみんなで飯食いながら見る方がいいだろうが」
また蓮さんは窓の外に目を向ける。
夕日に当たって、「眩しっ!」とか言いながら眉間に皺を寄せて……それでも見つめている蓮さん。
「……かっこいいですね」
「は?」
「あ。声出てました?!」
素っ頓狂な声をだし私を見つめる。
……声に出てたのが恥ずかしくなり思わず下を向く。
「自分で言って照れてんじゃねえよ」
「いたっ!」
ピシッと額を弾かれて痛みで額を抑え蓮さんを睨む。
「ばーか!」
楽しそうに笑い始める。
……こんな笑われ方すると撮影だってことを忘れそう。
「バカはバカって言う方なんですよ?」
「うっせえよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
私は子供か!!!
「って、こんな撮影じゃ終わんねえな。」
「え?なっ!?」
私の額にあった手を取り、そのまま器用に繋がれ……蓮さんの顔の方に持っていかれたなと思ったと同時に私の手……蓮さんの唇に触れた気がした。
「あ、あの……」
「カット!!!お疲れ!よかったよ!!」
「お、やっとかかったか、カット」
ぱっと手を離し立ち上がり背伸びする蓮さんを目で追う。
再び動機が激しくなり、心拍数急上昇。
「花、終わりだって!あー疲れた」
「あ、さ、さっき、あの」
手と蓮さんの顔を交互に見つめる。
「あ?あー。俺の事かっこいいっていうから、サービス。」
「はあ!?」
ああ、疲れたと蓮さんは監督さんの方に歩き出すが、私は動揺からかそこから立ち上がれない。
「どおよ、俺の演技。これくらい出来ねえとドラマの仕事はこねえぞ!って、どんだけ顔赤いんだよ、面白れえ!」
そう言い捨て笑いながら私を置いて教室を出て行った。
私の動機はまだまだ収まる気がしない。
純情をもてあそばれた気がする。
そのあと5人でカメラチェックなどしばらくやっていたらいつの間にか私の動機は収まり、疲労感のみが私の身体を埋め尽くした。
すべてをやり終えたころにはもう暗くなっていた。
神永さんに送ってもらいみんなで家へと帰りリビングに。
「疲れたー」
「今日もうなんもしねえ!!」
「お風呂明日……」
「飴、食べるのもだるい」
「私、もう動けません」
凜太郎くん、かなたさんは床に寝ころんでいて、蓮さんは一人用ソファーで思いきり背もたれに体を預けてる。コウキくんと私は広いソファーの端と端で肘掛に持たれている。
「いつもこんな感じですか?」
「そ。撮影はいいのよ。撮影は。あとのチェックとかでつかれんの」
かなたさんがだらけきったまま教えてくれる。
「花ちゃんは初めてだから余計疲れたでしょ。大丈夫?」
「一応生きてる。お腹すいたけど作るのめんどくさい」
コウキくんと話すけど2人して起き上がらない。
「でもお腹すいたなー。どーする?」
「どうするって……あ。かなた、出前。出前とろうぜ」
「あ、蓮がいい事いった。出前にしよう。凜、電話して」
「えー?オレ?」
しょうがないな、と凜太郎くんが起き上がり電話を始める。
アイドルが、ピザ。なんか、面白い。
ピザが届けば、さすが男性。もう起き上がってがっついてる。
私はというと、疲れすぎて体は起こしているものの、動きたくない。
「花ちゃん、はい」
「あ、ありがとうー!!」
コウキくんが何枚か皿にとってくれて運んでくれる。優しい。
「あのMVできたらすぐ見たいね」
「見れるの?」
「そりゃ、オレらが見なくて世間に出せないでしょ?」
私の発言に、みんなが答える。
「な、なんか初演技を見るのって恥ずかしい」
「そう?花ちゃん、結構できてたよ?」
「あ、かなたくんも思った?おれもおもった!」
「ほんと?!」
かなたくんとコウキくんが褒めてくれる。
「花は、意外と重いって印象」
「いま、なんと?!」
重い……だと?!
凜太郎くんの言葉に思わずピザを置く。
「あー、凜は花持ち上げたんだっけ」
「うん!でも楽勝だけどね」
フォローなのかな?いや、凜太郎くんはフォローだと思ってないだろう。
そうか、アイドルは細くなきゃいけないのか。もうこのピザ食べられない。
「れ、蓮さん。これ食べます?」
「あ?」
「ダイエット、しなきゃ」
すすっと机の上で皿を滑らせる。
「食えよ。今からもっとたくさん仕事するし、踊るし歌う。嫌でもやせるって」
「なんかそれもそれで」
「今だけだぜ?デブでいれんのは」
「デッ?!」
「蓮、口悪いよ」
「デブじゃねえよな、肉づきがいいんだもんなー、花は!!」
「はあ?!」
この次男末っ子コンビめ!!フォローという言葉しってんのか、ほんと!!!
「ほんと花ちゃんって素直というか、扱いやすいっていうか!」
コウキくんの言葉にみんなが笑いだす。
くそ、こいつら……
私は蓮さんの方へと差し出したピザを引き戻し掴む。
今にみてろ、絶対痩せるし、体力つけてやる!!!!
私はピザ一切れ口へと思いきり押し込んだ。




