家とご飯とダンス6
喉が渇いた。汗やばい。心臓がさっきとは違う意味でドキドキしてる。
さっきまでは舞台に立てないとまで思ったのに……緊張してたのに。歌って踊って、曲が終わった後4人がハイタッチしてくれて……会場を見れば「曲よかったよー」とか声をかけてくれる人もいて。でも……私が入ってるのが嫌そうな人の顔もみえちゃったし、嫌だって声もいまだに聞こえるけど……なんだか、わけわかんないほど今は気持ちいい!
「楽しかった?」
ふいにかなたさんに話しかけられた。
「たのし……うん、楽しかったんだと思います!」
「そ!」
会場にファンの皆様がいる状態で、ステージ上に机と椅子が用意され記者会見の為5人で座っている。私が真ん中、その両隣がかなたさんと蓮さん。その横に凜太郎くん、コウキくん。
「何が楽しかった、だ。全然出てこなかったじゃねえか」
「そりゃ!緊張してましたもん!!」
「なかなか面白かったよ、花ちゃんの緊張具合!カメラ写ってないかな?見て笑いたい!」
「コウキくん、やめて……」
……と、普通に話しているものの、なんだろ、落ち着いてきたら、
「なんなの、あいつ」
「コウキと楽しそうとか、むかつく」
「よかったー、凛の横、あの女じゃなくて」
あーあー、聞こえる。ファンの本気の声。
わかります、わかってます、私も推しの横に女座ってたらむかつきますし、なんなら女と話してるのすら見るのは嫌ですよね!!わかります!!でも、でも、仕事なんです……!!
先ほどとは違う汗が背中に伝う。これは冷や汗だろう。視線が痛い、わかってます、ごめんなさい!!
「花ちゃん」
「え、は、はい?!」
素っ頓狂な声出た……
「記者さんからの質問、聞いてたのかな?」
「す、すみません」
視線が怖くて聞いてませんでした!!
私が焦っていると笑い声が聞こえてきた。
「ふふふふ……」
私たちは一斉に横を向く。笑ってたのはコウキくん。
「ご、ごめ、わらって!だって、花ちゃんさっきから顔面白いんだもん!!」
ごめんと笑いをこらえようとしてるのはわかるが、いっこうに肩の揺れは止まらない。
「ちょ、コウちゃん、もう笑わないで、オレも、オレ……ぶはっ!!あははは」
「コウ、凜、御前らなー、ったく。」
両端2人はもう笑いがこらえられないご様子で、かなたさんが、ため息をついているのがわかる。
そして爆笑中の年子の末っ子組に観客は可愛いと騒ぎ出す。
「まあ、いんじゃね?そんな深刻な会見でもねえし。これくらいの方が楽しくていいだろ。なあ、かなた」
「あーもう、普通の会見を求めた俺もアホだった」
なんか、あっという間に空気を換える人たちなんだな……。ふと記者さんたちの顔を見ると先ほどより優しい表情になっている。会場も先ほどより空気は悪くない。
和んだ空気に私の会見も滞りなく進み始めた。
とくに私の事なんて興味なさそうなファンの人達も、蓮さんたが、「はい、そこの子!ちゃんと聞いて??」なんて、ファンの子に笑顔振りまくもんだから、すさまじく注目されてはいる。いろんな意味で。
「死ぬ気で頑張ろうと思いますので、これから先を見ていただければと思います。もちろん、4人の足だけは引っ張りません!!」
次から次へと質問される。そろそろ疲れてきた。
「そろそろ、質問も最後くらいにしてもらえます?花ちゃん、初めて歌って踊ってこんなに見られて囲まれて、明日倒れたら俺らが困るので!」
ね?とかなたさんが私を見る。ほんと気が利くいい男!!相道かなた!!!
「花、爆睡してるとほんと起きないから確かに困るー。起こすの苦労するんだもん」
「わかる、それめっちゃくちゃわかる、凜!!あと寝言うるさいよね、花ちゃん!」
「御前らもあれ、聞いたのか、すげーよな、寝言」
「うるさいよ、ちょっと!!」
「え?起きないとは?寝言?一緒に寝たことが??」
記者がみんなの言葉にすぐさま反応する。
「あ?これ言っちゃまずかったやつ??」
凜太郎がかなたさんと蓮さんを交互に見つめる。
「花ちゃん、神ちゃんになんか聞いてた?」
「一応聞いてましたけど、みんなと住んでるっていうのは少しの間内緒に……」
「えーーー!!!!」
一気に騒がしくなる会場。
「え?え?」
「今のは御前が悪い」
「え?」
「おれは言ってないよ?一緒に暮らしてる、なんて!」
「え、ちょ、コウキくん?!」
「花ちゃんは人を煽る天才か何かなわけ?」
「か、かなたさん??」
「楽屋で寝たとか言い訳できたのに!まじおもしれー花!!」
「はあ?!」
神永さんを見れば、グッジョブといわんばかりに親指をたてこちらに向け開き直ったように見える。
記者は焦る私と、面白いと爆笑する4人を写真、カメラで撮り、ファンからは再び罵詈雑言の嵐。
「……私、もうRAINBOWやだ」
「え?もう今更やめるなんて無理でしょ」
「花ちゃん、はい、記念写真!」
「あーもう花面白い!」
「ホント、バカな女!うける!」
翌日の新聞の一面、テレビのどのチャンネルでも、悟りを開いたような表情の私と爆笑をしている4人が映し出されていた