家とご飯とダンス5
「吐きそう」
「吐いてきてもいいですよ」
「冷たいです!!」
本日お披露目の日。今はRAINBOW4人がライブ中。それをステージの端で神永さんとみてるんだけど……
言葉を失うくらいの熱気。ファンの皆さんの楽しそうな顔、メンバー4人の歌、ダンスにただただ緊張と吐き気はピークを迎える。
「こ、ここに出るんですか?私」
「ええ。」
うえっ……私はずっと胸を撫でている。どうか吐きませんように。
盛り上がったまま、「ありがとう」と4人がはけてくる。
「花!もうすぐ出番だけどだいじょー……え?死にそう??」
「生きてる、多分。」
汗を拭きながら凜太郎くんが話しかけてくれたんだけど、私がすごい顔してたのか、凜太郎くんの驚いた表情にほか3人も寄ってきた。
「生きてなさそうな顔してるけど?」
「大丈夫?花ちゃん、もうすぐ出番だけど?」
「花、緊張してっとできるもんもできなくなんぞ!」
「……あ、緊張増してきた。余計吐きそう」
会場ではアンコールコールと拍手。
「みなさん、そろそろアンコールのお時間です」
「ああ。花、その不細工な顔、1曲終わるまでに何とかしろ!!」
「失礼です!!」
はあ?!なんだとこら!キッと蓮さんをにらむと、笑いだす。
「ふはっ!その顔できんなら、これ以上の心配はいらねえな!」
蓮さんが私の頭をぽんぽんと優しくたたく。
「結構花ちゃんって、扱いやすいよね?おれも今度また花ちゃんであーそぼっと!!」
「ま、花ちゃん、結構いい度胸してるから、俺はあんまり心配してないかな!」
コウキくんが笑い冗談めいて言い、かなたさんにマイクを渡される。
「や、やば、マイク持ったらまた緊張……」
「大丈夫大丈夫!間違ったらオレ笑ってあげるからさ!あと、飴あげる」
とんと凜太郎くんが背中を叩いてくれる。
4人が舞台ソデに立つ。先ほど私をからかってた4人はもういない。
会場の熱気は再びピーク。
やばいやばい、アンコール1曲目。揺れる会場。撮影は隅々からされており、報道陣はしっかりとライブを見てこのあとの発表に備えている。
やがて、曲が終わりトークへ。
「いよいよ、言うときですね」
「口から心臓でそうです……」
心臓ははち切れそうなほどドキドキ言ってる。
「そーいえば!皆さんにお知らせです」
「俺たちに新しい仲間がふえました」
来た、あ。もう心臓でちゃう。
会場は盛り上がる。
「意外と盛り上がってますね?」
「は、はい」
だけど盛り上がっていたのはほんの一瞬。
「俺たち新しく5人になります」
「しかも仲間に入るのはなんと女の子!」
“女の子”、この言葉が響いた途端、会場中のどよめきを確かに感じた。
悲鳴にも似たなにかが会場を埋める。「どんな子―??」と聞いてくれるファンもいるようだが、大半は罵詈雑言。阿鼻叫喚。
「花さん、まだ顔見せてないのになかなかの嫌われっぷりですね」
「やめてください、わかってました、こうなるコトは!!!!」
“女っていやだ”、とかそんな言葉が飛び交う。
「じゃあ、紹介するね!花ちゃん出ておいでー!」
こちらに向かって手招きをするかなたさん。むり、無理!出られない!!
ファンの声は収まらない。私の足は動かない。
「花さん!!」
「は、はい」
「腹を括ってください!!あなたは今からRAINBOWの雨光花になるんです!」
「あ、足が動かないんです……」
踏み出したい気持ちもある、けど足が動かない。怖い。
「花さん。これはお仕事です。あなたはRAINBOWに“就職”したのです。仕事は責任を持つものです。」
「神永さん……」
わかってる、これは仕事。私のRAINBOWとしての初仕事。でも……
「花!!」
「!!り、凜太郎くん?」
会場は相変わらず騒がしいのに、マイクを通してないのに、凜太郎くんの声が聞こえる。
「おいで!」
笑顔で手招きする凜太郎くんは家にいる時の様。
「こいよ、おせえんだよ、バカ花」
「蓮さん……」
「はーやーく!こないと俺、歌教えた意味なくなっちゃうけど?」
「かなたさん」
「花ちゃん、一緒に歌お!間違ったら笑ってあげる!」
「コウキくん……」
4人がいつもの家にいる時の笑顔、いつも通りに話して呼ぶから、緊張は解け私の動機は収まる。
腹を括れ、就職だ。投げ出すならもっと早く逃げればよかったんだ。逃げずに今ここにいる。それは奇跡に近くて……4人は舞台では「はーやーく」と呼ぶみんなの姿。
「……神永さん、いってきます」
「ええ、始動楽しみです」
「はい!!」
私は早く4人の元に行きたくてそこから駆け出した。




