家とご飯とダンス4
「はあ……も、もう一回お願いします」
「ちょっと休め」
「蓮さん、時間がないんですよ!!あと2日なんです!」
ぜえぜえと肩で息をしながら蓮さんに詰め寄る。
あと2日でお披露目の日。胃が痛い。
「花、歌の方は?」
「だ、大丈夫。あとは4人で合わせて歌ってみてかなってコウキくんが」
凜太郎くんが、ん。と飲料水を渡してくれ、受け取ると勢いよく飲む。
私にダンスを教えてくれてるのは、蓮さん、凜太郎くん。歌は、かなたさんとコウキくん。歌の方は、2人からよくなった、がんばったねとOKをもらった。
「花はあそこのステップからの振りがな……」
「難しくて……」
ひとつどうしてもできないステップがあり、そこができないと次の動作につなげない。そこだけがどうしても昨日からできない。
難しいステップではないらしいんだけど、苦手意識というものはついてしまうと中々取れない。
「凜もう一度見本」
「へーい。花は見てて」
私にタオルを渡すと、凜太郎くんの顔つきが変わり音に合わせて踊り始める。いつもの子供のような凜太郎くんとはまるで違う。何度見てもかっこいい。
RAINBOWのダンスをこんな近くで見るなんて、ファンにはたまらない。……私はファンではないけど。
「ここ、ポイントね!ここね!」
「うん」
「花、それふまえてこれ確認してみ」
「はい」
蓮さんに手招きされて急いで2人の元へ。
「凜と花の動画とったの見比べてたんだがやっぱりここ、手の動きに集中してんな」
「手はマイク持ってんだからだいじょーぶだってオレ言ったじゃん!」
「だってマイク持って踊るなんてそんな事したことないんだもん、意識するよ?!」
じっと凜太郎くんと自分を比べる。いや、敵う訳ないんだけど、明らかに手に意識が持っていかれてる。
「多少の振りミスとかぎこちない動きとかなら俺たちでカバーもできるけど、ここのステップからの振りはしっかりとそろえたいから妥協はできねー……」
どうすっか……と蓮さんが頭を悩ませる。どうしよう、私のせいで蓮さんが悩んでる。練習しなきゃ、練習!!
「大丈夫じゃん?花できるよ」
「凜?」
「凜太郎くん?」
「オレと蓮くんが教えてんだよ?できるって」
なー?と笑顔で私を見る
信じてくれてるんだ、私の事。
「できる、やります!蓮さん、凜太郎くんお願いします!!」
「おう」
「疲れたら言えよ」
「はい」
そこから何時間踊っただろう。汗は滴り、それを吸って服が重いような気もする。
蓮さんと凜太郎くんは私に教えながら、いままで出してきた曲の振り付けおさらいまでやっている。
私も頑張らなきゃ。鏡を見ながら確認する。動きの理屈は分かってる。もうほかの場所の振りは完璧に覚えた。あとはあのできなかったところだけ。
ここはこうで、だから……足が……こう!!
「あ。」
ぴたりと止まる。今できた、できたと思う。
「蓮さん、凜太郎くん!できた!!!」
「え?」
「まじ?」
「見て、みて!!いきますよ!1.2.……」
カウントを数えて……ここで……こう!!!
再び成功して思わず2人を振り返る。
「すげーじゃん!」
「花できたねー!!」
蓮さんが思いきり私の頭を撫でる。蓮さんが笑顔だ!!!ぐしゃぐしゃと撫でられてる私の手を凜太郎くんが興奮気味に握り、できたできた、とぶんぶん振る。
できた、やっと!!
「や、やっとできました!!ありがとうございます!!」
「よく頑張った!あとは俺らと併せて、明日4人で、歌、ダンスを完璧にしたら完成だ」
「んじゃ、併せよ!」
凜太郎くんが音をかける。
出来た、という感覚は自分にいいイメージしか残さないんだなあ。そのあと何度やってもその個所でつまることなく踊りきれる。
蓮さんも凜太郎くんもすごいとほめてくれるから、私の調子は絶好調。
あの日、「このままいけば、私がファンの皆さんに認めてもらえる日も近いと思う!!」なんて、思っちゃった自分を
……ホント殴りたい。