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8月17日(廃墟の屋上にて)

【ご報告】本作品、ネット小説大賞一次選考を通過!!


 かん、かん、と薄暗い建物の中に足音が反響する。


 それを聞きながら、神谷白乃は内心で苦笑した。


(……最初は不気味でしたが、もうすっかり慣れてしまいましたね)


 場所はとある廃墟。

 より正確に言うなら、すでに使われていない古びた集合住宅だ。

 夏休み初日、夏祭りに行けない白乃を気遣って義兄(あに)である千里が案内してくれた場所でもある。


 この建物の屋上は眺めがいい。

 あの一件以来、白乃はちょくちょくこの廃墟に足を運んでいた。


 階段を上り、扉の前に差し掛かる。

 そこで白乃は足を止めた。


(……開いてる?)


 いつもは閉まっているはずの屋上への扉が開いている。

 まさか誰か先客でもいるのだろうか。

 普段は誰もいないはずなのに。


 白乃が少し緊張しつつ扉の隙間から屋上を覗くと――そこには先客がいた。



「…………、(ぱくぱくぱくぱく)」



「ええ……」


 白乃は思わず困惑した声を出す。


 屋上にいたのは少女だった。白乃と年はそう変わらないだろう。

 その少女は屋上の真ん中にピクニック用のビニールシートを敷き、その上に腰かけて一心不乱に何を食べている。


 距離的に正確には見えないが、おそらくポッ〇ーかトッ〇な気がした。


 かなりの量食べているのか、ビニールシートの上には空箱がいくつも散らばっている。

 あの人物が何者かはわからないが、白乃はごく自然に思った。


(よし、今日は帰ることにしましょう)


 あの少女からは何となく変人の気配がする。

 屋上からの景色が見られないのは残念だが、また来ればいいだけのことだ。

 そんな感じでその場を離れようとした白乃だったが、振り返った際にかかとが扉に当たってしまう。


 ギィイ、と扉が大きな音を立てた。


「ん? そこに誰かいるの?」


 少女が声をかけてくる。

 逃げるのも変な気がしたので白乃は諦めて屋上に出て行った。


「……こんにちは」

「こんにちはー。何なに、きみもここの景色見にきたの? あ、よかったらこっち座りなよ。お菓子あげるよ!」

「ど、どうも」


 人懐っこい声で呼ばれて白乃はおそるおそるビニールシートの上に腰かける。


 近くで見ると少女は相当に整った顔立ちをしていた。髪型はストレートロングで、明るい茶髪は光の加減で金色にも見える。

 顔立ちがやけに幼く、中学生くらいかな、と白乃は予想した。


「はい、地域限定ポッ〇ー。あ、ポ〇キー嫌いだったりする?」

「いえ、そんなことは……いただきます」


 抹茶味の棒状のお菓子をありがたくもらっておく。

 何だろうこの状況、と思わなくもない白乃である。


「(ぽりぽりぽりぽり)あ、なくなっちゃった。次の開けよっと」

(食べるの早すぎじゃないですか、この子)


 白乃がお菓子を一つ食べる間に茶髪中学生(※暫定)の少女は三倍くらい食べていた。小柄な体型からは想像できないペースである。


「きみは何でここに来たの? ここ、わりと穴場だと思うんだけどなー」


 茶髪少女がそんなことを尋ねてくる。


「人に教えてもらったんです。眺めがいいからって」

「ふーん……じゃあ、あたしたちが知り合えたのはその人のおかげだね!」

「そうですね」


 白乃はくすりと笑った。


 かなり警戒心の高い性格をしている白乃だが、気付けば目の前の少女に気を許していた。そうさせるような人懐っこさが目の前の少女にはある。


「あ、やば、あたし待ち合わせしてたんだった」


 しばらく談笑した後、少女は撤収準備を始める。ビニールシートを片付け、お菓子の空き箱は残らず回収。

 最後に中身の入ったお菓子の箱を白乃に一つ手渡してきた。


「これあげる! 知り合った記念!」

「は、はい」

「次会ったとき名前聞かせてねー!」


 少女はそれだけ言い残して屋上から去っていった。


 その後ろ姿を見て、白乃は「嵐のようでした……」と呟いた。





「――ということがあったんです」

「そうなのか」


 その日の夕食時、白乃は廃墟の屋上でのことを千里に話していた。

 白乃が渡されたお菓子の箱を見ながら、千里はふむと唸る。


「確認するが、あの廃墟の屋上で会ったんだな?」

「そうですね」

「それで、そこにいたお菓子好きの少女にこれをもらったと」

「はい。中学生くらいの子だったと思います」

「……………………、」


 千里が考え込むように押し黙る。


「まさか……いや、そんなはずは……」

「……千里さん? どうかしたんですか?」

「いや、何でもない。どうせ俺の考え過ぎだろう」


 千里は誤魔化すようにそう言って、それきりその話題を打ち切ってしまう。


 珍しく煮え切らない千里の反応に、白乃は首を傾げるのだった。

 お読みいただきありがとうございます!


× × ×


 お久しぶりです。

 もうなんか常に後書きにこれを書いている気がします。いまだにお付き合いくださっている皆さまがもはや神様にしか見えません。

 皆さまのおかげでまだこの作品を続けられています。ご愛読、本当にありがとうございます。



 ……実は今回から始まる内容、まとめて投稿したくて書き溜めを作ろうとしたんです。

 ですがそのやり方だと更新がかなり先になってしまいそうなので、もう小出しにでも公開してしまおうと方針を変えました。

 ゆるーく進めていきますので、どうかのんびりお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう更新されないのかと思ってたので嬉しいです。 それと1次選考通過おめでとうございます。 体調に気を付けながら更新頑張ってください!
[一言] 自分のペースで頑張ってください 更新待ってます
[一言] 待ってました。 ゆっくり更新お願いします。
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