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7月11日⑧

※本日二度目の更新です。ご注意を!


 結果から言うと、例のITuber金髪男は『森のケーキ屋さん』を出禁になった。


 警察沙汰にはならなかったが、それは隠岐島が面倒くさがったからだ。

 金髪男の身元はばっちり押さえてあるので問題ないだろう。

 金髪男は店長に何を言われたのか、怯えながら隠岐島に土下座し続けていた。


 もろもろの話が終わったあと、店長からは、



『今日は本当にすみませんでした! 今後こんな輩は二度と店には入れませんので、是非また来てくださいね!

 彼女さんを助ける時のお兄さんの表情がたいへんごちそうさまで――げふんげふん。あ、お代は結構です!!』



 という言葉を頂戴したのち、店を出た。


 ……本当にユニークな店長だったな。


 かくして俺たちは帰路についたわけだが――


「……」

「……」


 隠岐島は依然として無言のままだ。


 き、気まずい……。


 やはり説教などしたのがまずかったか。いや、だがさすがにあれは伝えておくべきだっただろう。


 そんなことを考えていたら、不意に隠岐島が口を開いた。


「先輩」

「な、何だ」

「――アタシって、昔から出来がよかったんですよ」


 何を言ってくるのかと身構えるが、隠岐島の口調は独り言のように静かなものだった。


「美人だし、スタイルいいし、勉強できるし」

「ああ、それはそうだろうな」

「……自分で言うな、とかいうツッコミもなしですか」

「事実だろうに」


 実際に隠岐島は美人だし、勉強も一年のトップだ。昔からそうなんだろうな、ということは予想がつく。

 体型については言及すると失礼な気はするが、まあ、隠岐島を見れば女子の多くは憧れることだろう。


「……素で言ってそうなのがまた」


 隠岐島が何事か呟いたようだったが、俺にはよく聞こえなかった。


 こほん、と隠岐島は咳ばらいをして話を戻す。


「……で、そのせいですかね。アタシ、あんまり誰かに説教されたことないんですよ。親も放任ですし、周りもアタシに文句言ってくるやつとかいないし」

「想像できるな、それは」


 隠岐島は俺から見ても自立しているタイプだ。


 頭がよく、上の学年の教室に平気で踏みこんでくるほど気も強い。


 そんな隠岐島に迂闊に口出しすれば手痛い反撃を食らうこと請け合い。それ以前に、顔立ちの綺麗さに腰が引けてしまう者もいるだろう。


 両親が放任主義というなら、隠岐島相手に説教をするような人間はそういないはずだ。


「だから、あー、その」


 隠岐島は少し言いにくそうにしてから、立ち止まって俺を見る。 


「……ありがとうございました。叱ってくれて」


 わずかに頭を下げて、そう言ってきた。


 俺は目を瞬かせる。


「……嫌われたのかと思っていたが」

「アタシのこと何だと思ってるんすか。自分が間違ってたと思ったら反省くらいします」


 不服そうに隠岐島はそう言った。何だ、別に不愉快に思っていたわけではないのか。


 それなら先輩風を吹かせた甲斐があったな。


「説教をして礼を言われるというのも妙な感覚だが」

「貴重なんすよ。アタシに説教してくる人」

「そうか。まあ、俺でよければちゃんと見ておくよ。隠岐島は危なっかしいからな」

「……子供扱いしてないですかね」


 むすっとした口調で言ってくる。

 そういう仕草を見ると、何だかんだでやはり隠岐島も後輩なんだなという気分になる。


 ともあれ、嫌われていないのなら何よりだ。


 これまで通り接していくことにしよう。


 そんなことを考えた時、俺は気付いた。


 一台の車が前方から近づいてくる。隠岐島が気付いていないようだったので、俺は慌てて隠岐島の腕を引いた。


「隠岐島っ」

「え?」


 隠岐島を引き寄せたおかげで、何事もなく車が通り過ぎていく。


 だが、腕を引いたのが不意打ち気味だったせいか、隠岐島がバランスを崩してこちらに倒れ込んでくる。


 ぽす、と隠岐島の後頭部が俺の胸板に当たった。


「……」

「すまん。車が来ていたから」


 無言の隠岐島に念のため注釈しておく。


 何だか俺がいきなり隠岐島を抱き寄せたような状態になってしまったが、わざとではないので許してほしい。


 まあ、隠岐島なら気にしないか。


 何しろ恋人のフリとして躊躇なく抱き着いてくるくらいだ。多少触れるくらいでは気にも留めまい。


「……」

「隠岐島?」


 何やら隠岐島が無言のまま動かない。思わず名前を呼ぶと、隠岐島は俺を見上げて、


「……いつまで触ってんですかスケベ先輩」

「!? す、すまん」


 まさかの反応に慌てて俺は隠岐島を引き離した。この反応は予想外だ。


「庇ってもらったのは、ありがとうございます。そんじゃ帰りましょう」

「あ、ああ」


 すたすた先行する隠岐島の背中を追う。


 何だったんだ、さっきのは。


 後輩の考えが読めん。


「……くそ、女たらし先輩め……」


 隠岐島が俺に聞こえない声量で何かを呟く。


 後ろから見える隠岐島の耳は、西日のせいか、わずかに赤く染まっていた。

お読みいただきありがとうございます!


たまには白乃以外のキャラクターも書いてみようかな、と思って生まれた隠岐島回でした。

何だか長い話ばかり書いていたような気がするので、次回は短めにしたいところ。

そろそろ夏休みパートです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女レースにエントリーしてしたかな?
[一言] 最近更新が多くて嬉しいです。 続きも楽しみにしてます。
[一言] うーんこの無自覚系たらし… これは落ちましたねぇ笑
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