7月11日②
※本日二度目の更新です!
隠岐島は処置なしというように肩をすくめ、それから話を戻すようにこう尋ねてきた。
「それで、先輩はアタシにどこに付き合ってほしいんです?」
ああ、そうだった。
俺は用意しておいたとあるカフェのチラシを差し出す。
「実はこれが前から気になっていたんだが、一緒に行ってくれる相手がいなくて困っていたんだ」
「『恋人同士のお客様限定、新作ケーキ』……?」
「その通りだ」
学校から電車で三駅離れた場所にある店で、現在期間限定のオリジナルケーキを販売している。
ただし隠岐島の読み上げたとおり男女ペア限定で、俺一人で行った場合や、信濃に来てもらった場合でも注文することができない。
隠岐島は驚愕したように言った。
「……先輩、甘いものとか好きなんですか?」
「……悪いか?」
「いや別に。意外だっただけで」
我ながら似合わない趣味という自覚はある。
しかし好きなものは好きなのだから仕方ない。父さんの甘党が遺伝したんだろう。
「まあ要するに、アタシは先輩の恋人のフリしてついてけばいいと」
「話が早くて助かる」
新作ケーキを注文するには恋人同伴でなくてはならない。しかし俺には当然そんな相手はいない。そうなると必然的に、誰かに恋人のフリを頼むことになる。
そんな時に思い出したのが隠岐島との点数勝負だったというわけだ。
いちおう白乃に頼むということも考えたが、俺と白乃に血の繋がりがないことは周知の事実だし、うっかりうちの高校の生徒に見られたらややこしい勘違いをされそうなのでやめておいた。
「……あの、アタシの罰ゲームは別にして、これみくり誘ってやってくれません? 多分喜んで乗ってくると思いますよ」
「……? なぜここで須磨の名前が出てくるんだ?」
「色々あるんです、こっちにも」
隠岐島がずいっと身を寄せてくる。
ふわりと漂うミントの香りは隠岐島のつけている香水か何かだろうか。
「で、どうですか。みくり誘うのは」
「どうもこうも、さすがに急にこんなことを頼んだら迷惑になると思うが」
恋人役の演技となると、何の脈絡もなく頼むにはさすがに厳しすぎる。
俺が言うと、隠岐島はげんなりと溜め息を吐いた。
「……ですよねー。ああもう、何でよりによってアタシが……」
まあ、隠岐島だって俺と一緒にいるところを見られれば誤解されてしまう可能性があるのは同じだ。こういう反応をされるのも仕方ない。
「……いちおう言っておくが、嫌なら遠慮なく断ってくれていいぞ。罰ゲームとはいえ無理を言っている自覚はあるんだ」
白乃の友人でもある隠岐島を無理につき合わせるのは本意じゃない。
と思っていたのだが、隠岐島はあっさり首を横に振った。
「ああいや、別に嫌ってわけじゃないっすよ。罰ゲームって考えたらぬるいくらいですし」
「それならよかった」
「ただし引き受けるにあたって一つだけ条件があります」
条件?
何だろうか。こっちが頼みごとをしているわけだし、大抵のことは聞くつもりでいるが――
「このことは白乃と須磨には絶対に内緒にしてください。……放課後に先輩と二人きりで出かけるとか、バレたらアタシは胃痛で死にます」
何だ。この件が白乃たちに知られたら隠岐島に何が起きるんだ。
何だかよくわからなかったが、特に否定する理由もなかったので条件については了承し、放課後の待ち合わせ場所を決めてその場は別れた。
お読みいただきありがとうございます。
文字数を短くしたくて何となく分けていたんですが、特に必要なかったような気がしてきました。ややこしくてすみません。