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7月11日(点数勝負)


「とうとうこの時が来ましたね先輩」

「ああ。決着をつけるぞ、隠岐島」


 休み時間の階段の踊り場。


 人けのないその場所で、俺は白乃のクラスメイトであり友人でもある隠岐島凛と対峙していた。


 俺と隠岐島の手にはそれぞれ十枚の答案用紙が用意されている。


 何をしているかといえば、要するに例の点数勝負である。


 期末テストの答案がお互いすべて返ってきたので、いよいよ決戦の時というわけだ。


「そんじゃルールの確認です。『①科目ごとではなく合計点数で勝負』、『②負けたほうは勝ったほうの要求を呑む』でいいですよね?」

「ああ。それで問題ない」


 隠岐島の言葉に頷いておく。


 この点数勝負、俺と隠岐島の学年が違うのでややこしいことになるかと思いきや、国、数、英、理、社の五教科ならテストの数が変わらないのでそのまま合計点数を比べられる。


 まあ、国語×二(現代文/古文)、数学×二、英語×二、理科×二、社会×二科目の合計十科目という点は同じなんだから問題ないだろうというわけだ。


 もちろん細かい違いはあるが、今回はそのあたりは気にしないことにしている。


「それじゃ合計点を一斉に言いましょう。せーの、」


 俺と隠岐島は手に持った答案用紙を相手に突きつけ――



 俺:971/1000

 隠岐島:959/1000



「げっ! 負けてる!?」

「悪いな、隠岐島」


 僅差ではあったが俺の点数のほうが上回っていた。


 どうにか先輩の面目を保てたようだ。


「先輩どんだけ勉強したんですか……こっわ……」

「隠岐島も似たような点数じゃないか」


 平均点でいえば一点差くらいなのにこの反応はどうかと思う。


「っていうか、ええ……? アタシ結構勉強したんですけど……まさか負けるとは……」


 悔しげに隠岐島がぶつぶつ呟いている。

 隠岐島もテスト対策には気合いを入れていたようだが、それは俺も同じだ。あっさり負けては先輩の沽券に関わることだし。


 はー、と溜め息を吐き、気持ちを切り替えるようにして隠岐島は尋ねてきた。


「ま、負けは負けですし認めますけどね」

「潔くて何よりだ」

「そんで先輩、このいたいけな後輩にどんな要求をするつもりなんですか? ……ってか先輩、アタシにしてほしいことって何かあります?」


 純粋に疑問に思うような隠岐島の言葉に、俺は即座に頷いた。


「ある」

「エロいやつ?」

「隠岐島には俺がどんなふうに見えているんだ」


 いかに俺が健全な高校二年の男子であっても白乃の友人に手を出すような真似はしない。


「冗談です。それで、どんな内容なんですか?」

「あー……。その、だな」


 しかし困った。


 考えたには考えたんだが、これは言い出すのに少し勇気がいるな。


「……ちょっと、何で言いにくそうなんですか。もしかしてホントに変なこと頼もうとしてます?」

「変、というほどではないと思うんだが……」


 言いよどむ俺に隠岐島が不審そうな顔をする。


 休み時間も短い。いつまでも迷っていても仕方ないか。


 俺はごほんと咳ばらいをし、


「俺が隠岐島にしてほしいことというのはだな」

「はい」


 俺はわずかな緊張を押し殺して告げた。



「――付き合ってほしいんだ」



「……えーっと」


 その一世一代の告白に対して隠岐島は意外な言葉を聞いたように目を瞬かせる。


 無理もない。こんな話を急にされたら誰だって戸惑うだろう。図々しい要求だと思われてもおかしくない。


 しかし今しかないのだ。

 この願いを聞き届けてもらうには、このタイミングしか。


 隠岐島は少しの間考えるように腕を組んだあと――



「……要するに神谷先輩にはどこか行きたい場所があって、それは一人で行けるような場所じゃないうえに信濃先輩みたいな友達や白乃も誘いにくいから罰ゲームの名目がある私にそこに一緒に行ってほしい――ということで合ってます?」



「? 他に何があるんだ?」

「うわあ……」


 隠岐島が露骨に引いたような顔でこっちを見てきた。


「そんなことばっか言ってるから女たらし眼鏡先輩って呼ばれるんですよ」

「俺はそんなあだ名で呼ばれているのか……?」


 心外すぎる。いつ俺が女子を誑し込んだというんだろうか。

お読みいただきありがとうございます。

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