5月29日
「白乃」
「……なんですか、千里さん」
「今更だが、連絡先を教えてもらえるか」
「……」
「これから家族として暮らしていくわけだし、何かと必要になると思うんだが」
「必要ありません。用があるなら口頭でお願いします」
「なに? あっ、おい待て白――」
一週間ほど前に、俺の通う高校では定期考査が行われた。
テストの合計点数は、上位者のみ廊下の掲示板に張り出されることになっている。
俺が朝学校に行くと、掲示板前には人だかりができていた。
(……いちおう順位を見ておくか)
人垣の最後尾から掲示板を確認する。
順位は――まあ、いつも通りだな。
見るだけ見てその場を離れ、教室に入っていく。
席についたところで前の席の男子生徒が振り向いて話しかけてきた。
「おはよ、千里」
「ああ。おはよう、信濃」
信濃アルフレッド。
日本人とイギリス人のハーフであり、金髪碧眼に加えて非常に整った顔立ちの男子生徒だ。背は決して低いほうではない俺よりさらに十センチほど高い。
異国の王子様、というイメージを切り抜いたような外見といえるだろう。
まあ、日本生まれ日本育ちという生い立ちなので中身はほぼ日本人なのだが。
信濃とは二年連続でクラスが同じこともあってよく話す。
父親が再婚して義理の母と義理の妹ができたことを明かしたのは、今のところこの信濃だけだ。
「中間テストの順位どうだった?」
「前と同じだ」
「ってことは学年一位ってこと? 千里ほんと勉強得意だよねえ」
信濃の言う通り、掲示板に張り出されていた順位表で俺は一番上に名前を記載された。
要するに試験の総合点数で一位だったということだ。
……が、まあ、これは俺の実力がどうこういうわけではないだろう。
「まだ二年の初回だからな。部活をやっている連中が本腰を入れ始めたらわからない」
「謙虚だねえ」
「だいたい、学年一位なんてそういいものでもないぞ」
何せ『現状維持』と『順位ダウン』しか未来がない。
毎回誰かに追い越される恐怖と戦うのはなかなかしんどいものがある。
「いいじゃないか学年トップ。補習がないんだから……」
「お前はもう少し勉強しろ……」
ちなみに信濃はかなり成績が悪かったりする。
こほん、と信濃は咳ばらいをして話題を変えてくる。
「それより、昨日はあのあとどうだった? 噂の白乃ちゃんとは仲良くなれた?」
「まあ、多少は会話ができたんだが……」
「だが?」
「……実は今朝、白乃にLINEの連絡先を聞いたんだが見事に断られてな……」
「わお」
今朝、学校に来る前のこと。
白乃は我が家に来てからまだ日が浅い。周辺の地図も頭に入っていないはずだし、その他にも色々不便なことはあるだろう。
たとえば、『クラスの友人と遊びに行くから夕飯いらない』というような用件を伝えたい場合など、連絡先を教え合ったほうがいいと思ってそう申し出たのだが――見事に断られた。
信濃は難しい顔をする。
「連絡先の交換も断られるって……何でそんなに千里は嫌われてるの? 何かしたの?」
「誓って何もしていない。というか、白乃はうちに来た段階ですでにこうだった」
「メガネ男子アレルギーかな?」
「……そんな症例が存在するのか? なら、次に話しかけるときは試しに眼鏡を外してみるか」
「いや冗談だから、冗談。千里は頭いいのにバカだなあ」
「……、」
俺の半眼など見えていないように、信濃はお気楽な表情でこう続けた。
「ま、気長にやりなよ。人の心は計算や暗記じゃどうにもならないからね」
お読みいただきありがとうございます。
いきなり日間ランキングに載せていただいてびっくりしました。……手汗がヤバい。
それとまた評価も。ありがとうございます。楽しんでいただけるよう頑張ります。
次はラブコメでよくあるイベント……に、なる予定。
今日中に書けたら投稿します。