6月14日
※本日二度目の更新です。
六月十三日、午後七時。つまり昨夜。
第一回・神谷家家族会議が開催された。
……要は白乃に対するお説教である。あとは秋名誠についての情報共有。
白乃は二年間隠し続けた例の盗撮写真のことも含めて、すべて香澄さんや父さんに明かした。自分が男性恐怖症であることも。
父さんは白乃の話を聞いたあと、ごく短い苦言を呈した。
親を頼れ、一人で抱え込むな。内容はそんなところだ。
男性恐怖症について聞いたせいか、ややぎこちなかったような気もするが、父さんはおおむねはいつも通りだったと言っていいだろう。
一方香澄さんは――
「どうして私に言わなかったの?」
「それは……母さんのことが心配で……」
「なら自分でどうにかできる自信があったの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「自力で対処する考えもないのに情報を手元で握りつぶした自覚はある? あなたがやったことは単なる現実逃避と同義よ。何の解決にもならないばかりか問題を無意味に大きくして千里君まで巻き込んだわ」
「……ご、ごめんなさい……」
――という具合の淡々とした説教を白乃に小一時間ぶつけ続けた。
俺はこの日初めて香澄さんを怖いと思った。
表情がぴくりとも動かないし声の抑揚も一切ない。普段とは別人だ。どうでもいい話だが、香澄さんと白乃は怒ったときの顔が似ているんだなあと思った。
秋名誠については、もう心配いらないと言っていた。
写真はすべて香澄さんが消したらしい。
具体的にどんなことをしたのか、何を言ったのかは教えてもらえなかった。正直知らないほうがいいような気もした。
ともかく。
そんな会議をもって、秋名誠にまつわる一件は解決した――はずだったのだが。
白乃の様子がおかしい。
「白乃、今日の朝食は」
「サラダとベーコンエッグとトーストです。それでは」
「あ、ああ」
という朝食前の廊下でのやり取りであったり。
「白乃、今日の料理も絶品だな。いつもありがとう」
「いえいえ。それでは私はお弁当を詰めなくてはいけませんので」
「あ、ああ……」
という朝食中のやり取りであったり。
「白乃。そろそろ食材の買い出しをしておく必要があると思わないか?」
「そうですね。冷蔵庫の中身も乏しくなってきましたし」
「よし、それなら学校帰りに買い出しを――」
「――私がしておくので、千里さんは先に帰っていてください」
「い、いや、一人じゃ大変だろう」
「いいえ一人で大丈夫です。千里さんはお気になさらず」
「しかしだな」
「あ、すみません。私そろそろ学校の準備をしないと」
「白乃? ……白乃!」
というキッチン前でのやり取りであったり――
ぱたぱたぱた、と自室に戻っていく白乃の足音を聞きながら俺は思った。
(……避けられているだと……っ!?)
最初は気のせいかと思ったが明らかに避けられている。
さっきから白乃がまったく目を合わせてくれない。何だ? 俺は一体何をしたんだ?
もともと白乃は話しかけても淡泊な反応を返してくることが多いが、今日はそれとも違う気がする。なんというか、妙によそよそしいのだ。なぜ今更そんな接し方を?
「……うーむ」
今日は起きて最初の会話からこの調子なので、原因があるとすれば昨日だろう。
昨日。
となるとやはり、秋名誠絡みだろうか。――まさか、と俺は目を見開く。
さっき遠ざかって言ったはずの足音がまた近づいてくる。
見ると制服姿に着替えた白乃がリビングに入ってくるところだった。スクールバッグを持っているのでもう家を出るのだろう。
「それじゃあ千里さん、私は先に」
「待て白乃!」
俺は慌ててそれを制した。びくっ、と白乃が肩を跳ねさせる。
「な、なんですか?」
「何ですかも何も……ええい、逃げるな白乃」
なぜかじりじりと距離を取ろうとする白乃に前に立ちふさがり、逃亡を阻止する。白乃は動揺したように俺を見上げる。俺は尋ねた。
「俺の目を見て答えろ白乃。まさか、まだ何か隠し事でもあるのか?」
「え、あ、いや」
まっすぐ目を合わせると、白乃の視線がふらふらと逃げようとする。何だその焦ったような反応は。
「そういうわけでは、ないんですけど」
「だったらなぜ俺を避けようとするんだ」
まさか純粋に嫌われているわけでないと信じたい。
……あまり気は進まないが……
「白乃」
「え、えっ」
あまりに白乃が目を合わせてくれないので、内心緊張しながらも白乃の肩を掴んでまっすぐ前を向かせる。
ちなみに緊張というのはもちろん白乃が男性恐怖症の症状を出さないかという懸念だ。しかし以前白乃が言っていた通り、俺が触れてもわずかに肩をこわばらせるだけで吐き気を催したりしている様子はない。
「千里さん……?」
まだ視線をうろうろさせる白乃に、きちんと語りかけるように。
俺は言った。
「お前に何か心配ごとがあるなら俺に言え。昨日もそうだったろう。ちゃんと守ってやる」
何しろ兄だからな。義妹の悩み事くらいはどうにかしてやりたい。
と、思っていたのだが。
「~~~~~~~~っ!」
「は、白乃?」
いきなり白乃の顔が真っ赤になった。何だその反応は!? お前は何を隠している!?
「な、何でもないです。本当に何でもないのでそっとしておいてください!」
言うが早いか白乃は俺の脇を強引に突破し、ガチャバタンガチャリ! とご丁寧に鍵までかけて家を出て行ってしまった。
取り残された俺は呆然としてしまう。
白乃は一体どうしてしまったんだろう。
まったくわからない。何が起こっているんだ。
どうしてあいつは俺と視線を合わせただけでああも赤面したんだ。
「……」
俺は無言でスマホを取り出しLINEアプリを起動させた。
宛先は信濃。
事態は俺の手に余る。せめて誰かの知恵を借りようというわけだ。信濃なら俺が一人で悩んでいるよりはマシな知恵を出してくれるだろう。
しかし文面はどうするか。
俺は少し迷い、結局思いついたまま打ち込むことにした。メッセージを作成して送信ボタンをタップ。
トーク画面に以下の内容が表示される。
――急募。俺を避けている義妹と仲良くなる方法。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル回収(?)。これがやりたかった。
さて、文字数的にはここまででラノベ一冊ぶんくらいになります。
白乃の過去も明らかになりましたし、一区切りついたと言っていいでしょう。
ということで――
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……区切りとかじゃないと勇気出なくて言えないんですよねこれ。
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作者が泣いて喜びます。
次話予告。
さすがにしんどい話が長かったので、ちょっとラブコメっぽいものを書こうかなと思います。
おそらく白乃視点。




