5月28日③
「献立は何にするつもりなんだ?」
「炊き込みご飯とキャベツと豚肉の炒め物、あとは何か汁物でしょうか。豆腐の消費期限が近いのでお味噌汁がよさそうですね」
「和食か。俺も父さんも好みだぞ」
「あなたの好みは聞いていません――が、充さんが嫌いではないのはよかったです」
ちなみに充というのは俺の父親の名前だ。
香澄さんと同じくいつも夜遅くまで仕事なので、白乃が温めて食べやすいメニューを選んだのはそのあたりを気にしたんだろう。
このあたりの配慮はもともと境遇が似ていただけにお手の物のようだ。
さて。
料理している姿を見ていて気付いたが、白乃の手際が相当にいい。
まず煮干しの頭と腹わたを取り、昆布と一緒に水を張った鍋に入れ味噌汁のだしの準備。
続いて炊き込みご飯の具材をものの数分で用意し、鶏肉には熱湯と塩で余分な臭みや油を落とす下処理も忘れない。
あっという間に材料と米を炊飯器に入れてスイッチを押し、次の料理に取り掛かる。
見ていて感心してしまった。
「手慣れているな、白乃」
「気が散るので話しかけないでください」
どうやら俺に業務連絡以外で白乃に話しかける権利はないようだ。
その後しばらく白乃の調理風景を無言で眺めていたら、それまで順調に調理していた白乃が何やらあちこちの戸棚を漁り始めた。
何かを探しているのか?
「白乃、どうかしたのか」
「炒め物を盛り付ける大皿がなかったので……」
「ああ、それなら食器棚の上のほうだな」
「上、ですか」
食器棚の前で上部の棚に視線を向けたまま白乃の動きが止まった。……ああ。
「悪いが入るぞ」
「あ」
いちおう断りを入れてから台所に入り、立ち尽くす白乃の横から手を伸ばして大皿を取る。
白乃は目測で身長百五十センチ台前半くらいと女子にしても小柄だ。食器棚の一番上の段にある大皿には手が届かないんだろう。今後はこのあたりも調整する必要があるな。
「ほら」
大皿を渡すと白乃は複雑そうな表情でそれを受け取った。
「……助けてほしいなんて言っていません」
「そうだな。俺が勝手にやっただけだ」
俺の言葉に白乃はさらに不服そうにしながら、何事か口を開きかける。
「………………あ、」
「どうした?」
「……何でもありません。それより三メートル以内です。砥石投げますよ」
威嚇する猫の目で見られたので即座に距離を取る。
ところで白乃はさっき何か言いかけていなかったか?
何を言おうとしていたのか聞こうと思ったが、白乃はすでに調理を再開しており俺など眼中になさそうだったので諦るしかなかった。
お読みいただきありがとうございます。
いい加減五月二十八日にを終わらせたい。次でラストになる予定です。
書けたら投稿します。