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6月13日②

※本日二度目の更新です。ご注意を!


「白乃の様子がおかしい」


 学校の休み時間。

 俺がそんなことを言うと、聞き役を務めてくれている信濃が訊き返してくる。


「へえ。どうおかしいの?」

「どう、と言われても難しいんだが……朝話した時に少し他人行儀な気がしてな」


 話題に上げているのは今朝の白乃の様子についてだ。


 本人は否定していたが、明らかに白乃の俺への受け答えはいつもよりよそよそしかった。最近では少しずつ仲良くなれていた気がしただけに正直ショックだ。


「千里何かしたんじゃないの?」


 もっともな疑問だが、俺は首を横に振った。


「何もしてない。というか原因は手紙だと思う」

「手紙?」

「今朝郵便受けに入ってたんだ。宛名は白乃で差出人は不明。それを見てから白乃の態度が変わった」

「なんだ、原因それで決定じゃん」

「俺もそう思う……が、肝心の手紙の内容がわからない」


 信濃の言う通り、タイミングからして白乃の態度の変化はあの手紙が原因で間違いない。


 だが、俺への接し方を変えるような手紙の内容とは何だ? 


 白乃はあの手紙を俺に見せたくないような素振りをしていたが……


「個人あての手紙なら白乃ちゃんの知り合いってことになるねえ。前の学校の知り合いとか?」

「俺もそう思ったんだが、それなら別に差出人を言うのを渋る必要はないだろう」

「そうだね。千里が女の子と見るや声をかけようとするナンパ野郎なら頷けるけど、その反対側にいるって言っていいようなキャラだし」

「白乃にもさすがにそんなふうには思われていないと思うが……」


 今まで俺は白乃の前で女に見境がないような雰囲気は出していないはずだ。というかそんな事実はない。


「うーん。これは他の人の意見を聞いてもいいかもね」

「他の人の意見?」

「まあ、ボクたち所詮は男子だし。女の子の気持ちは女の子に聞くのがいいと思わない?」

「一理あるな」


 少なくとも俺には女心などまったくわからない。信濃は俺よりずっと察しがいいだろうが、女子の気持ちは女子に聞く方が確実だろう。


 そんなことを話していると、ふと俺たちの席に誰かが近づいてくる気配がした。


 信濃がそちらを見て声をかける。


「あ、委員長だ」

「委員長じゃないか。俺たちに何か用か?」


 俺たちが言うとやってきた人物、つまり委員長は微妙に嫌そうな顔をした。


「委員長って呼ばれるのなんか馬鹿にされてるみたいで嫌なんだけど……馬鹿にしてないわよね?」


 とんでもない。俺たちが首を横に振ると、委員長――日野(はるか)は「それならいいけど」と肩をすくめた。


 日野は我が二年B組のクラス委員長だ。信濃と同じく去年もクラスが一緒で、去年もずっと委員長をやっていた気がする。茶髪をくくったポニーテールがよく似合っていて、さばけた性格から男女問わず人望がある。


 俺や信濃はクラスメイトとしてそれなりに日野とは話すが、休み時間にわざわざやってくるとは珍しい。俺は尋ねた。


「俺たちに何か話でもあるのか」

「あなたたちっていうか、神谷君にね」

「俺?」

「そう。何日か前に私の代わりに居残ってプリント整理してくれたでしょ? あのお礼まだ言ってなかったから」

「ああ、そのことか」


 そういえば台風の日、家が遠い日野のプリント整理を代わったんだった。あの日は色々あってすっかり忘れていた。


「気にしなくていい。困ったときはお互い様だろう」

「神谷君らしいわね」

「あと、あの時は信濃も手伝ってくれた」

「そうなの? じゃあ信濃君もありがとう」

「えーボクは別にいいよ。千里に傘貸してほしくてやっただけだし」


 ひらひら手を振りそんなことを言う信濃だったが、ふと思いついたように日野に尋ねた。


「そうだ日野さん。日野さんの女子力を見込んで聞きたいんだけど」

「……なかなか答えにくい前フリをしてくれるわね」


 微妙に嫌そうな顔をする日野。


 信濃の口ぶりからするに白乃の手紙について意見をもらうつもりのようだ。日野はれっきとした女子なわけだし俺たちよりは白乃の心情に近い発想を出してくれることだろう。


 日野が嫌そうな顔をするのにも構わず信濃は訊いた。


「まあまあ。で、日野さん。女子が誰からもらったのか明かしたくないような手紙ってどんなのがあると思う?」

「ラブレターに決まってるじゃない」

「…………!?」


 なん、だと……?


「信濃君。神谷君が何だか愕然としてるように見えるんだけど」

「あー。受け入れたくない現実を想像してショートしたかな」

「そんなロボットみたいな……」


 今日野は何と言った? ラブレター? 恋文? それが白乃に?


 確かにそれなら差出人を俺に対して言えなかったのも納得できる。白乃はあれだけの美人だし男に好意を抱かれている可能性もじゅうぶんに考えられる。特に不自然なことはないはずなのになんだこの胸の奥にわだかまる感情は。そうか。これは――


「これが娘を嫁に出す父親の心境か……」

「千里、戻ってきて。思考が未来に飛び過ぎてるから」

「あ、ああ。すまん」


 いかん。予想外の意見に混乱してしまった。


「……神谷君ってやっぱり変わってるわよね」

「バカなんだよ。頭いいのに」


 日野と信濃が勝手なことを言い合っている。心外な評価だ。俺は二人に向き直って確認するように言った。


「それで、やはりあれはラブレターだったということなのだろうか」

「そう思うけど。っていうか何の話なのこれ?」

「ボクは納得したけどなー」

「ふーむ」


 そんな言葉を返してくる二人に俺は首を傾げてしまう。


 今朝の白乃の様子はラブレターを受け取ったことによる気まずさとはまた違うような気がするのだが。


「そういえば信濃君。今日までの進路希望調査票出てないわよ」

「あー、忘れてた。今度出すね」

「今度じゃ意味ないから。どうしていつも一緒にいるのに神谷君と違って不真面目なのかしら……」


 しかし日野と信濃はすでに別の話を始めてしまっている。


 そのうち話題は逸れていき、俺の疑問が解消されることはなかった。

 お読みいただきありがとうございます。


 ……また長くなりそうな気配が。

 できれば今日もう一度更新するつもりですが、できなければ明日になると思います。更新できなかった時に備えてご挨拶を。


 今年は本作にお付き合いいただきありがとうございました! 来年もぜひご贔屓に!

 それでは皆様よいお年を!!!!!!!!

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