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6月13日


「ん?」


 郵便受けを開けて俺はふとそんな声を出した。


 毎日学校に行く前、いつも俺は家の周囲をランニングする習慣がある。長距離走のタイムを縮めたいとかではなく、目的は純粋な健康維持だ。


 その帰り際にいつも新聞を回収していくのだが、今日は何やら妙なものが混ざっている。


 手紙。

 それも企業や役所が送ってくるようなものではなく、手書きで宛名の書かれた封筒に入ったものだった。


 新聞とともにそれを手に取りながら両面を確認する。


(宛先は……白乃か)


 封筒には差出人の名前はない。特に分厚かったりもしないので中に入っているのはせいぜい便せん一枚か二枚くらいだろう。となると白乃の個人的な知り合いからのものかもしれない。


 とりあえず本人に渡すのがいいだろう。


 そんなことを考えながら家の中に入っていく。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「うお、いたのか白乃」


 玄関をくぐるとすぐ先の廊下に白乃が立っていた。いつもの水色のエプロンを身に着けている。


「朝ごはん、すぐにできますからシャワー浴びたら食べちゃってください」

「ああ。いつもありがとう」

「いえ」


 そう言いつつ白乃が手を差し出してきた。もちろん握手の誘いなどではなく、新聞を寄越せと言っているのだ。ちょうどよかったので俺は新聞と一緒にもっていた白乃宛の手紙を渡した。


 新聞と一緒に封筒を受け取った白乃はきょとんとした顔になった。


「何ですかこれ。……私に手紙?」

「前の学校の友達とかじゃないのか」


 白乃はこの春うちの高校に転入している。前の学校に仲の良かった友人なんかがいたのかもしれない。


「友達なら普通にLINEでもしてくるような気がしますが」

「それもそうか。今時手紙というのは珍しいな」

「千里さんならやりそうですけどね」

「それは俺が機械音痴であることを揶揄しているのか」


 さすがにLINEくらいは使い方を覚えているぞ。


「というかこの字……」


 白乃は封筒に書かれた文字を見て眉根を寄せる。心当たりがあるのだろうか。


 糊付けされた封筒を開け、白乃は中身を取り出した。飾り気のない一枚の便せんだ。やはり個人的な手紙だろう。


 うっかり内容を見てしまうのも悪いので、俺はシャワーを浴びるために白乃の横を通って浴室に向かおうとして――


「――っ」


 その寸前、白乃が息をのんだ気配に気付いて振り向いた。


 白乃は便せんを握りしめたまま目を大きく見開いていた。わずかに開いた口からかすれたような声が漏れるが、内容までは聞き取れない。


「……白乃?」


 様子がおかしい。

 そう思って声をかけると、白乃ははっとして便せんを封筒の中に戻した。


「すみません。少し意外な人からの手紙だったので」

「意外な人、というのは誰なんだ?」

「……千里さんには関係ないでしょう」


 確かに白乃の言う通り、個人あての手紙について俺が細かく尋ねるのは無礼もいいところだろう。しかし白乃の態度に妙なものを感じるのも事実だ。


「何か嫌なことでも書いてあったのか」

「……」


 俺が聞くと、白乃はぐっと息を詰めて――それから、にこりと笑みを浮かべた。


 完璧な優等生のような笑顔だった。他の人間なら何の違和感も覚えないだろうが、俺にははっきりわかる。これは学校や、父さんや香澄さんの前で見せる余所行きの表情だ。


 今まで俺に見せることのなかった表情だ。


「千里さん、これは私宛のプライベートな手紙ですよ。内容については言えません」

「だが、」

「もう一度言ったほうがいいですか?」

「……いや、いい」


 駄目だ。明らかに白乃は取り合う気がない。いくら食い下がっても無駄だろう。


 そんな俺を見て白乃は苦笑した。


「心配しないでください。ただの……そうですね、知り合いからの手紙ですから」

「む……白乃がそう言うならこれ以上は何も言わないが」

「助かります。それと母さんや充さんにも内緒でお願いします。あくまで個人的な手紙なので」


 そう言われては俺も頷くしかない。


 俺が了承すると、白乃はどこか作り物めいた笑みで「ありがとうございます」と言って居間に入っていった。

 お読みいただきありがとうございます。


 年内に区切りまで行くとか言っていましたが無理でした! ごめんなさい! ですが数日中には必ず上げます!


 もう一話投稿します。

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