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5月28日


『……で、何でそれでボクに連絡してくるんだい千里』

「そう言わないでくれ、信濃(しなの)。お前くらいしか相談できそうな相手がいないんだ」


 俺はスマホの通話相手にそう弁明する。


 場所は二階の自室。


 広さは六畳で、壁際にベッド、反対側の壁には勉強机。あとは本棚くらいしかない、我ながら殺風景な部屋だ。参考書しか入っていない本棚を見た友人には、『千里って勉強以外に趣味ないの?』と呆れられた。


 その友人、信濃がスマホの向こうで言った。


『相談っていうのは、つまりその千里を嫌っている白乃ちゃんとどうやったら仲良くなれるかって話?』

「その通りだ」

『別にそこまで焦らなくてもよくない? まだ一緒に暮らし始めたばかりなんだし』


 信濃の言うことにも一理ある。


 何しろ白乃は二日前にこの家に来たばかりだ。

 もちろん顔合わせは事前に何度もしていたが……家族として馴染んでいくには時間もかかるだろう。


 とはいえ俺にも言い分はあるのだ。


「信濃。お前はうちの事情は知っているだろう」

『……そりゃ、まあ』


 やや声のトーンを落とした信濃に対して俺は苦笑する。


「すまない、そんなに深く考えないでくれ。要するに俺は父さんの再婚を嬉しく思っているし、それを円満に保てるようできる限りのことをしたいわけだ」


 連れ子同士がぎすぎすしていては、父さんたちも気まずいだろう。


 そうならないためにも白乃と打ち解けておきたいところだ。


『なるほど。家族思いの千里らしいねえ』

「普通だと思うが。……とはいえ自分で考えても行き詰まってしまってな。何か知恵を貸してくれないか、信濃」


 俺がそう頼み込むと、スマホの奥から頼もしい言葉が返ってくる。


『そう言われたら頷くしかないね。いいとも、それじゃあこの信濃アルフレッドが知恵を授けよう!』


 今更だが信濃は日本人とイギリス人のハーフだ。


「ああ。頼もしい限りだ。早速で悪いが、何か案はないか」

『そうだなあ……』


 信濃は数秒考えたのち、大真面目な声でこう言った。


『やっぱり笑ってもらうのがいいんじゃないかな』

「笑ってもらう?」

『うん。千里が渾身の一発ギャグをぶつければきっと打ち解けられるに違いないよ』

「なるほど名案だ。行ってくる」


 思えば白乃が俺の前で本心から笑ってくれたことはない気がする。


 白乃が少しでも笑ってくれるようになれば、それは現状から一歩踏み出せたことになるだろう。


 さすが信濃だ。

 俺が思いつかないことを平然と言ってのける。そこが頼れるし憧れる。



 五分後。



「信濃。白乃に虫を見るような目で見られたんだが」

『あ、本当にやったの? 馬鹿なの?』

「冗談だったのか……!?」


 ひどい裏切りだ。こっちはトラウマになるほど冷徹な視線を仲良くなりたい相手から浴びせられてきたというのに。


『ごめんごめん。ところで千里、どんなギャグで滑ってきたの? よかったら明日見せてほしいんだけど』

「さてはお前完全に面白がっているな」


 この男を一瞬でも頼りになると判断したのが間違いだった。


『悪かったったって。真面目にやるよ』

「頼むぞ、本当に」

『まあ、事務連絡からでもコミュニケーション取れば? 白乃ちゃん、引っ越してきたばっかりならまだ色々決めることあるでしょ。家事の割り振りとか』

「……おお」


 目から鱗だ。家事の割り振り……その手があったか。


 曲がりなりにもこれから一緒に暮らしていく以上、その話題は白乃も無視できまい。


「ありがとう信濃。助かった」

『はいはい。何か面白いことあったら教えてね』


 そんなやり取りを最後に信濃との通話を終了させた。

 お読みいただきありがとうございます。

 

 もう一話続けて投稿します。

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