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6月4日④

 本日二回目の更新です。

 ※2020.1.20信濃の動画の内容、後書きを修正しました。


「なっ……なにこれ」


 一年A組所属の女子生徒、須磨みくりは、スマホをいじっていた手を思わず止めていた。


 内側に巻いたセミロングの茶髪と少し日に焼けた肌が特徴的な少女だ。目鼻立ちは整っているが、どこか親しみやすい雰囲気がある。


 そんな彼女は、スマホを持ったまま隣にいる友人の肩を叩いた。


「白乃ちゃん、ちょっ、これ見てこれっ」


 隣にいるのは、雪の精霊のような、独特な髪と肌の色をした少女だ。


 体の線は細く、顔立ちも驚くほど整っている。


 一週間ほど前、須磨と同じクラスに転校してきた神谷白乃である。


 白乃は須磨が呼び掛けても返事をしない。


 ぼうっ、と遠くを見るように目の焦点をぼやけさせている。


「……」

「……白乃ちゃん?」


 そこでようやく白乃は須磨の呼びかけに気付いたように、


「あ。……な、何ですか? みくりさん」

「見せたいものがあるんだけど……大丈夫? なんかあんまり顔色よくないよ」


 気遣うような須磨の言葉に、白乃は苦笑を浮かべた。


「大丈夫です。少しぼんやりしていただけですから」

「そう? ならいいんだけどさ」


 須磨が言うと、白乃とは反対の隣から声が上がった。


「それで、みくりは何を見つけたわけ? またあのクソつまんない十五秒くらいのダンス動画じゃないでしょうね」

「失礼だね凛は! つまんなくないから!」


 一言で須磨を憤慨させているのは、白乃とは違うタイプではあるが、こちらもはっとするような美人だった。


 腰あたりまでの長い黒髪と切れ長の目つきが特徴的で、やや気の強そうな雰囲気を発している。手足はモデルのようにすらりと長い――というより、実際にスカウトを受けて臨時で仕事をしたこともある。名前は隠岐島(おきしま)凛。


 白乃、須磨、隠岐島の三人はクラスメイトであり、よく一緒に行動する友人同士だった。


「じゃあ何なのよ」

「あ、そうそう。これ見て二人とも!」


 と、須磨は表示させていたTwitterの画面を二人に見せる。


 映像が添付されたツイートだった。そして本文を見て――白乃は目を瞬かせた。


「……『美少女転校生、白乃姫に近付く不届き者の末路』……?」

「白乃姫って、アンタまた恥ずかしい通り名つけられたわね」

「本当に恥ずかしいんですが……」


 投稿者は『信濃Alfred』というアカウント。


 添付されている映像を須磨がタップすると再生が始まり、白乃と隠岐島にそれぞれ衝撃を与えた。


 白乃を狙っている、と下卑た声色で言ういかにも軽薄そうな男。そしてその男に啖呵を切る男子生徒。どちらも顔にモザイクがかかっているし、声も加工されているが、白乃には後者が義理の兄であることが直感できた。


 観客に撮らせたのだろう、バレーの試合のダイジェスト。


 股間を押さえて倒れ伏す相手に向かって、『二度と白乃に近付くな』と宣告する千里(※推定)。


「…………………………………………………………」


 言葉を失う白乃。


「これ、白乃ちゃんのお兄さんでしょ? すごくない!? めちゃくちゃ恰好いいんだけど!」


「鍵アカなのに『いいね』が三桁……リプライには『神谷兄つええええええええ』『もう白乃姫には近づきません』『守護神か?』『つかこれ赤城じゃね』『赤城先輩キモ過ぎて草』か。あー、こりゃもう赤城って人は社会的に死んだわね。絶対この投稿者ドSだわ」


 それぞれ勝手なことを言う二人の友人の前で、白乃は額を押さえた。


「何をしてるんですかあの人は……」


 まさか自分の見ていないところでこんな事態が起こっていたとは。


 千里は白乃のせいで自分に迷惑がかかった、ということを一切言わない。なので、てっきり何事もないのかと思っていたらこれだ。


「ほんとすごいね、白乃ちゃんのお兄さん。バレー部のエース相手にバレーで勝っちゃうなんて」


「運動できなさそうな見た目してるのにね」

 

「……こんなの見たら女の子みんな好きになっちゃうよ、この人のこと」


「アンタも顔赤いわよ、みくり」


「うえっ!? な、ないよ! そんなことないよ! ……かっこいいなあ、とは思うけど」


 そんなことを言い合う須磨と隠岐島のやり取りを聞きながら、白乃はふと思った。


 千里は何も言わないが――まさか、これまでも、千里は陰から自分を守ってくれていたのだろうか。


 愚痴ひとつ言わずに。白乃に対して恩に着せるようなこともなく。


 須磨が尋ねてくる。


「ねえねえ、白乃ちゃん。白乃ちゃんから見てお兄さんってどんな人?」


 白乃は少し考え、わりと本心からこう答えた。


「……変な人ですよ。悪い人ではありませんけど」

 お読みいただきありがとうございます。


※作中で信濃が堂々と晒し行為をしてますが、よい子の読者様は決して真似しないでくださいね! 

 

〇千里スポーツテスト(16歳)

・握力:右72㎏/左69㎏

・上体起こし:42回

・長座体前屈:70cm

・反復横跳び:65回

・シャトルラン:125回

・五十メートル走:6.5秒

・立ち幅跳び::267cm

・ハンドボール投げ:40m

※総合評価:A

※握力を除き、信濃はもう少し高いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても楽しく読ませていただいています。 [気になる点] 信濃は赤城に名誉毀損で訴えられたら勝てないです。 名誉毀損罪の法定刑は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金とされてい…
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