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6月4日③


 俺のスパイクが赤城のレシーブを弾き飛ばす。


 得点。


 赤城のスパイクが信濃のブロックに叩き落される。


 得点。


 赤城のサーブが俺に拾われカウンターを食らう。


 得点。


 信濃のスパイクサーブが触れることすら許さず赤城の真横に着弾する。


 ――得点。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!?」


 俺や信濃の所属クラスであるB組と、赤城のいるD組との試合が始まっておよそ二十分が経過した。


 一セット目はこちらが快勝し、現在二セット目の終盤。


 スコアはB組23点に対しD組はわずか6点。理由は単純で、こちらの攻撃はほぼすべて決まり、向こうの――赤城の攻撃が機能していないからだ。


「ほっ、と」

「くそっ……!?」


 信濃が赤城のブロックの上からスパイクを撃ち込み、きゃーっ、と女子の黄色い歓声。得点表がめくられる。これで二十四点目。


「あれあれ? 案外たいしたことないね、バレー部のエース君も」


「ああ!?」


「もしかして手を抜いてくれてるの? やだー、そんなことしてくれなくてもボクらが勝つのにぃ。ほら、そろそろ本気出さないと負けちゃうよ?」


「てめぇ……」


 信濃が性格の悪い笑みで赤城を煽っている。普段なら咎めるところだが、今回に限っては何も言うまい。俺も容赦はしないと決めている。


 球技大会のバレーは、25点一セットを二セット先取すれば勝ちとなる。


 今の信濃の得点でこちらのマッチポイントだ。


「あれ? 次のサーブ千里?」

「ああ」


 バレーは得点するとローテーションが回り、サーブ権を与えられる。そのポジションには現在俺が立っていた。信濃は相手チームから戻されたボールを、にやりと笑って俺に放ってくる。


「まさか普通にサービスエース取って終わり、なんて言わないよね」

「当然だ。――ただでは済まさん」


 笛が鳴る。俺はゆるい回転をかけてサーブトスを行う。数歩の助走。


 滞空するボールへ、右手を思い切り叩きつけた。


 スパイクサーブ。


「――――――ぅぐあっっ!?」


 それは凄惨な光景だった。狙いたがわず、時速百キロに迫る渾身のサーブが鋭い軌道でD組コートにバウンドし――そのほぼ直上にいた赤城に突き刺さった。


 赤城の股間(・・)に、突き刺さった。


「「「………………うわぁ」」」


 倒れ伏し、ビクンッビクンッと痙攣する赤城。頬を引きつらせる両コートの選手及び観衆。


 試合終了のホイッスルが無慈悲に鳴り響いた。





 股間を押さえたままその場でうずくまる赤城のもとまで歩いていく。


「約束は覚えているな?」


 俺が言うと、赤城は脂汗を垂らしながら俺を睨みつけてきた。


「なんっ、なんだよお前ら……バレー経験者だったのか……!?」


 こいつは何を言っているんだ?


 俺は眉をひそめた。


「バレーは去年、体育の必修科目だったろう」


 うちの高校の体育は、一年生の頃が学年共通。二年以降はコース別で自由選択となっている。一年の冬季には全生徒がバレーボールを経験したはずだが。


 赤城が、ひく、と口元を引きつらせた。


「……はっ? それだけ……?」

「馬鹿を言え。授業外でも、予習復習は欠かさなかったぞ」

「ボクは漫画読んで覚えたよー」


 後ろからついてきていた信濃がそんなことを言ってくる。


 こいつはスポーツに関しては天才型なので、どんな競技でもすぐにコツを掴んでしまう。たとえば俺はスパイクサーブを安定させるのに五本練習する必要があったが、信濃はいきなり成功させていた。


 ……ん?


「信濃。お前はなぜスマホを掲げているんだ」

「んー、内緒。まあ、千里にとっても悪いことじゃないから気にせず続けて?」

「そうか。わかった」


 まあ、信濃がそう言うなら気にしないでおこう。


 再び赤城に向き直る。


「さて、赤城。約束は覚えているな」


 俺はもう一度言った。うずまくったまま視線を逸らした赤城に、淡々と言うべきことを言う。


「こちらが勝った。だからお前は二度と白乃に近付くな。――もし約束を破れば、次はその程度では済まさない」

「……っ、わかったよ! 近づかなきゃいいんだろ!」


 と、赤城は喚いた。


 言質も取ったことだしもういいだろう。


「くれぐれもその言葉を忘れるなよ」


 俺はそう言い捨て、赤城との会話を終了させた。このくらい言っておけばじゅうぶんだろう。


「あんなので済ませてあげるなんて、千里は優しいなあ」

「そうか? ……それなりにきつい灸を据えたつもりなんだが」

「いやあ、まだ甘いよ。ちゃんとトドメ刺しとかないとねえ」


 何か不穏なことを言いながら、信濃が実に楽しそうにスマホをいじっている。


 時折、「試合中の映像はここと、ここ以外カットでいいかな……」などと呟いているが、一体何を企んでいるんだこいつは。


 俺は信濃の言葉に首を傾げながら、クラスメイトたちに合流した。

 お読みいただきありがとうございます。


 感想欄でいくつかご指摘いただいたため、赤城の言動を修正しました。

 ……書いてるときは視野が狭くなるので、不自然さに気付けなかったりするんですよね……正直すごく助かってます。


 何より嬉しいのが、みなさん感想でご指摘をくださる際にも『面白いよ』とか『主人公好きだよ』みたいな、お褒めの言葉もくださるんですよ。


 メンタルスペランカーなので、こういった配慮がすごくありがたいです。なんかずっとお礼言ってますね僕。


 続けてもう一話更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 各区イーですねぇ笑
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