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6月4日(球技大会)


 今日は球技大会だ。


「暑いな……」


 自宅の庭で、バレーボールを抱えて俺は呟いた。


 六月とは思えない暑さだ。ニュースによれば、今日の最高気温は八月半ばに匹敵するとか。……球技大会は基本的に屋外スポーツが多いので、熱中症で何人倒れるか今から心配なんだが。


 かくいう俺も、あまりの蒸し暑さに無駄に早起きしていた。


 現在時刻は朝七時過ぎ。登校するにも早いので、参加種目であるバレーの練習でもしておくかと、庭でボールをいじっている状況だ。


 というか、出てきたはいいが一人でバレーの練習ってできることがなさ過ぎるな。


「ずいぶん楽しそうなことをしていますね」

「白乃。早いな」

「庭からぽんぽん変な音がしたので見に来ただけです。一人でやってて楽しいんですかそれ」


 呆れたような顔で言う白乃は、体操着にハーフパンツといういで立ちだ。


 ちなみに俺も同様。


 うちの高校は、球技大会や体育祭の時は体操着で登校していいことになっている。


 白乃の姿を見て、俺はふと疑問に思う。


「……制服のときはあんな暑そうな靴下まで履くのに、今日はジャージじゃないんだな」


 体操着の下はハーフパンツと長ズボンのジャージがあり、別にどちらを履いてもいいが、何となく白乃が露出の多いほうを着ていることに違和感がある。暑いからだろうか?


「購買で買おうと思ったら、品切れだったんです。取り寄せましたが今日には間に合いませんでした」


「なるほど。ああ、心配するな。短パンもよく似合っているぞ」


「聞いてませんし見ないでください。不愉快です」


「そうか。すまん」


「……もはやこのくらいの罵倒では動じなくなってきましたね」


 人間何事も慣れるものだ。


「白乃。時間はあるか」

「友だちと待ち合わせているので、あまり」


 ああ、そういえば最近白乃は近所に住むクラスメイトと一緒に登校しているんだったか。


 中途半端な時期に転入した白乃だったが、クラスにはちゃんと友達がいるらしい。そういうことならあまり白乃を引き留めるのもまずいか?


「なんでそんなことを聞いたんですか」

「いや、ちょっとパスの練習相手をしてもらえないかと思ってな」

「……練習」

「球技大会はかなり盛り上がるし、ミスをしてチームの足を引っ張ると雰囲気が悪くなる。多少ウォームアップをしていきたかったんだが……」

「……雰囲気が悪くなる……」


 不意に、白乃が立ち上がった。


「ちょっとだけ付き合います」

「いいのか?」

「はい。危機感が芽生えました」


 よくわからないが、まあ、そういうことなら。


「行くぞ白乃」


 オーバーハンドパスで白乃のいるほうにボールを飛ばす。


 すると白乃は迷いない足取りでボールの落下地点に入った。


 ほう、なかなか悪くない動きだと――



「……あう」



 ぼごっ、とボールは白乃の掲げた手の間を貫通して白乃の額に直撃した。白乃はバランスを崩し、その場に尻もちをつく。少し離れた場所にバレーボールが空しく落下した。


「は、白乃? 大丈夫か……?」


 とりあえず白乃のもとへと駆け寄ってみる。


 すると白乃は恥ずかしかったのか少し顔を赤くしたまま、立ち上がって尻から埃を払った。


「……大丈夫です」

「白乃。もしかしてお前、運動が……」


 むぐ、と白乃は一瞬言葉に詰まりつつ、


「なんですか。ボールの扱いが苦手だったら何かいけませんか。こんなの社会に出たら使わないじゃないですか。私は勉強のほうが好きなんです」


 いつもの氷のような罵倒ではなく、どこか拗ねたような顔でまくしたてる白乃だった。


 何というか、微笑ましい気分になる。


「白乃。オーバーハンドパスにはコツがあってな」


「なんで教える雰囲気になってるんですか。聞いてません」


「クラスメイトの足を引っ張ってもいいのか? 言っておくが、うちの球技大会はトーナメント制だから負けたら即終了だぞ。去年戦犯になったやつは、それはもう肩身が狭そうで」


「…………やっぱりちょっとだけ教えてください」


 背に腹は代えられない、みたいな顔で言われた。


 そんなわけで、白乃が友人との待ち合わせている時間ギリギリまで、俺は白乃にバレーのアドバイスをすることになった。

 お読みいただきありがとうございます。


〇白乃スポーツテスト(15歳)

・握力:右12㎏/左9㎏

・上体起こし:4回

・長座体前屈:45cm

・反復横跳び:18回

・シャトルラン:15回

・五十メートル走:11秒台

・立ち幅跳び:105cm

・ハンドボール投げ:10m

※総合評価:E

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