プロローグ
がちゃり、と音がする。
我が神谷家の鍵を持っているのは、昨日までは俺と父さんの二人だけだったが――今は違う。昨日から、さらに二人が合い鍵を持ち歩いている。
一人は父さんの再婚相手である香澄さん。
だが彼女はまだ仕事中だ。今朝出かける前、帰ってくるのは二十二時より後になると聞いている。父さんの帰宅はさらに遅い。
となれば帰宅した人物は彼女に決まっていた。
「おかえり」
「……はい」
俺が台所でコーヒーを淹れつつ振り返ると、そこにいたのは昨日づけで俺の義理の妹となった白乃だ。
雪の結晶のような少女だった。
日本人とは思えないような色素の薄いショートヘア。セーラー服の襟から除く白い肌。身長は十五歳の女子としては小さいというほどでもないが、とにかく華奢なので触れれば溶けて消えそうに思えてしまう。
旧姓・春宮白乃。
俺の父さんと彼女の母親が再婚したことで、現在俺の義理の妹ということになっている。
「今日が転入日だったよな。学校、どうだった?」
「……」
白乃は彼女の母親と一緒に、昨日この家に引っ越してきた。そして今日から俺と同じ高校に転校してきている。学年は俺よりひとつ下の一年生。
「いちおうお前より一年長く通っている身だ。何かわからないことがあれば聞いてくれ」
「……」
「……コーヒー飲むか?」
俺がポットを揺らしながら尋ねると、白乃はようやく口を開く。
「馴れ馴れしく話しかけないでもらえますか、千里さん」
背筋を凍らせるような声色だった。
「私は母さんの再婚を邪魔したくないので、母さんや充さんの前ではあなたとも普通に話します。ですが、二人がいない時までそうするつもりはありません」
「……」
「私、男の人が大嫌いですから」
失礼します、と言い捨てて白乃は居間を通過していった。俺とはいっさい目を合わせないまま。
「……手ごわいな」
俺は淹れたばかりの苦い液体を啜った。
白乃と初めて出会ったのは一か月ほど前のこと。
両親がいる場ではそれなりに会話してくれる。だが二人きりになるとこうだ。俺との間に壁を三枚ほど挟んだような距離感で接してくる。
つまるところ――、白乃はまったく俺と仲良くなる気がないようだった。
ラブコメを書くのはほぼ初めてなので新鮮かつ緊張しています。
当作品はツンドラ系義妹を溶かしてデレさせていく系のお話になります。
初日なのでもう寝るまでにもう一話くらい投稿したいのですが、見切り発車なのでどうなるかわかりません。ストックないんですよね……駄目だったら起きてから書きます。