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異世界バスツアー  作者: ルンルン太郎
9/24

異世界生活3日目

 生き残るという目標は果たせたが動画見放題を見てから眠るという目標を果たせなかった山田太郎。本人は気がついていない。

 充実感があるから見なくても平気だという事を。様々な出会いが映画やドラマよりも刺激を提供してくれている事に。


「今日こそ薬草を集めなければ。腕の筋肉も酷使したし、日中はゆっくり休もう」


 山田太郎はコンビニで弁当と栄養ドリンクと大量の菓子パンを買って、手早く食事を済ませて、後はゆっくりと寝て深夜に目を覚ました。時刻は2時45分遅刻ギリギリだ。慌てて荷物を持ちアパートを出た。バス停に着いた時には丁度バスがやって来た。


「太郎いらっしゃい。昨日は疲れたでしょ。私決めたんだ」


 ゆっけが一番に山田太郎に話しかけてきた。


「太郎くん、こんばんは。ゆっけちゃん決めたって何を?」


 ゆっけが何を決めたのか気になる鈴。


「あのね、鈴さん私決めたんだ。太郎の剣になるって。人を殺せない太郎の為に。昨日は少し感動しちゃった。人の命って大切だなと再実感。太郎の凄い所はね、敵とでも友達になれる所なの。私と違って凄いの! ゴブリンとも友達になってたし! ほんと凄いの! 友達ひとりもいないし、殺してばっかの私と違って…」


 ゆっけは熱烈に語りだしたと思ったら最後は涙ぐんでいた。ゆっけと太郎は既に友達のような存在なのに何故か友達はひとりもいないと悲しむゆっけ。


「はたから見てると太郎くんとゆっけは友達に見えるよ?」


 鈴がゆっけにそう言うとゆっけは顔を真っ赤にした。何やら物凄く興奮して語りだす。


「違うの。友達とは何も言わなくても通じあって、価値観も一緒で、何をしてても楽しくって、どんな時でも信頼出来て、一緒にいる事が全く負担がなくて、決してお互いを傷つける事ない時にだけ必要な事をしっかりと伝える。そんな人なの!」


 ゆっけの熱弁に鈴はあっけに取られた。


「それって人は親友と呼ぶのでは?」


 ぽかんとしている鈴の代わりにも太郎が答える。


「そうそう。ゆっけちゃん世間ではそれを親友と呼ぶのだよ」


「違うの! だからね?」


 鈴と山田太郎の言葉でもゆっけは曲がらない。止まらない。

それからバスを降りるまでゆっけの友人の定義を必死に語り続けた。

ゆっけの友達のいない理由は一つ。理想が限りなく高いのだった。そしてバスを降りるとゆっけは山田太郎にぴったりとついて歩く。その後を冴子もついていく。


「ゆっけさんが剣になるなら、私は二人の弓になります。ダメですか?」


 冴子の言葉にゆっけは立ち止まる。瞳を輝かせて笑って「いいともー!」と答えた。こうして三人となった。ボッチ組とは何だったのだろう。もう立派なパーティーになっていた。

 そこで問題だ。今までのようにボッチ用の稼ぎかたではなく、薬草集めの後で稼ぐ必要が出てくる。

 錬金術師に薬草を届けて大量の菓子パンを置いて三人は冒険者ギルドに向かった。するとそこに山賊リーダーだったルドルフがいた。


「よう。昨日の兄ちゃん、姉ちゃん仕事を探してるのかい? 実は俺もさ。一人になっちまったもんでな」


「なら一緒に来ないか。俺達も複数でやる仕事を探してるし」


 山田太郎の提案に二つ返事でいいぜと答えたルドルフ。これで四人となった。これで受けられる仕事はかなり増えた。


「四人ならこれがいい!」


 ゆっけが掲示板から凄い勢いで一枚の紙を引きちぎって持ってくる。そこにはゾンビ討伐と書いてあった。何やら村1つが壊滅。55名の元村人の無念を晴らして楽にさせるというものだ。報酬は400ゴールド。


「ゾンビ! 私ゾンビの世界が来るって都市伝説信じて待ちわびてたの! ゾンビの世界に備えて待ってたの! ゾンビ!」


 またしてもゆっけの新たな一面が見られた。ゆっけはゾンビの世界に憧れていたのだ。その憧れは強く何年も前から本気だった。映画やドラマのように生き友人の為にお互いを守り合う。そんな世界に。


「そ、そうか。わかった。俺もゾンビが相手なら戦えそうだし、俺もゾンビ生活に憧れてたし」


 山田太郎もゾンビのドラマを見ていた。ゆっけの半分の情熱しかないが、もしも自分がこの状況に陥ったらどう生きるかと想像して楽しんでいた。仲間の死には敏感で涙と怒りで心を震わせていた。


「それじゃあ、受付してくるね。私字が書けるんだ!」


 ゆっけが上機嫌で書類に記入している間に山田太郎は冴子とルドルフに聞いた。


「二人はゾンビの討伐でよかったのか? あの勢いでは止められないと思うけどさ」


「ああ、無理だな」


「ですね。私は諦めました」


 何とか話はまとまったようだ。ゆっけが戻るとゾンビ討伐に旅立った。道のりは10キロと長い。2時間歩いてようやくたどり着いた。村に着くと早速ゾンビ達のお出迎えだ。村人の服を着たゾンビ達がこちらに気がつくと一斉に襲ってきた。


「私が何人か仕留めます! 残りをお願い!」


30メートルほど離れた距離から冴子が弓を射つ。見事にゾンビの頭を貫き天に導いた。そして次々とヘッドショットを繰り返す。5体は仕止めた。


「太郎私の横に。元山賊は真ん中、三人で壁になるよ。冴子は元山賊の隙間から狙い射って」


 こうしてゆっけの指示の下で隊列が組まれた。

山田太郎とゆっけは二刀流。横に回り込まれても容易に対処可能。群がってくるゾンビを次々と倒していく。群がっていた20体を倒した所で今度は室内のゾンビを倒しに掛かる。

その間に冴子は屋根の上に。遠くに弓矢で貫かれたまま、動き続けるゾンビを見つけた。

 誰か他に冒険者が来ていたのだろうか。不思議に思うも屋根の上から8体のゾンビの頭を見事に撃ち抜く。


 一方家の中に入った太郎は驚いていた。見慣れた顔がそこにいたのだ。変わり果てた姿のバスツアーの乗客だった。顔色は紫に変色し、目は真っ赤に充血し、あー、うーと動物のようにうなる事しか出来ない。太郎は心を鬼にして鉄線バットで頭を叩き潰した。部屋が静寂に包まれた後で太郎は吐いた。


「さっきまで同じバスに乗っていたのに…」


 一方他の部屋に入った元山賊のルドルフはバスツアーの元乗客を次々と倒し、最後の家の前にいた。

そこで女性の悲鳴を聞いた。慌てて家の中に突入するルドルフ。


「毒消しよこせぇ! 俺はゾンビになりたくねぇー! リナのようになりたくねぇー」


 ルドルフが到着した頃には九頭にゆっけが首を絞められている所だった。そして、開かれた窓からゆっけを落とした。


「きゃあー!」


 甲高い悲鳴がゾンビの村に響いた。ゆっけは地面に背中を強く打ち付けた。


「貴様ー! 昨日背後から一斉に大量の矢を放って俺の仲間を殺した弓部隊のリーダーだな! 死ね!」


 ルドルフは電光石火の勢いで5回九頭龍大を斬りつけ、最後に首を飛ばした。


「仇は取ったぞお前ら…」


 ルドルフは号泣し大粒の涙を床に惜しげもなく落とした。涙の水溜まりが出来た頃、山田太郎が叫んだ。


「大変だ。ゆっけの足が! ゆっけの左足がー!」


 ルドルフが慌ててゆっけの元に駆けつけると、既に冴子も来ていた。


「あれ、おかしいな。左足が全く動かないや。感覚もない。ごめんね。太郎の剣になるって偉そうに言ったのに。片足じゃなれそうもないや」


 山田太郎は無言でゆっけを抱き締めた。


「そんな事ない。片足でも十分さ。それにここは異世界。治せる魔法もきっとあるさ」


 こうして、片足の少女と鉄糸を巻いた棍棒の男の伝説が始まったのだった。 


 

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