ゆっけは救世主!? 天使!? それとも女神!?
山田太郎は家を出てバス停に向かった。深夜の田舎は人がいない。静寂が心地いい。ずっと真夜中だったらいいのに。そんな事を思う。
バス停に着いた。時刻は2時20分。バックから勉天道DAを取り出し携帯ゲームを目指せハイスコアだと真剣にプレイしていた。ハイスコアを更新した頃バスがバス停に到着した。扉が開き、山田太郎は運転手に少し待ってもらってバスの側面の荷物収納スペースに槍とリュックを積み込んだ。
「おう、新人くん生き延びて何よりだ。お前が生き延びたせいで賭けに負けて5万損したんだが、まあ、いい。お詫びに盾をやってくれよ。今日は当てにしてた新人が来なかった。盾がひとりもいないんだ。最強のアーチャー部隊20人との冒険だ。エリートの俺達と組んで貰えるだけありがたい事なんだぜ?」
九頭龍大が偉そうに山田太郎に声を掛けた。
「いや、いい。ツアーに参加する金持ってきてないんだ」
山田太郎が断ると九頭は顔を真っ赤にして怒った。
「この俺様が誘ってやってるのに。てめえは一生ぼっちにさせてやるからな!」
山田太郎は無言でぼっち組の座る一番奥の座席に向かった。鈴と、ゆっけ、高志は昨日と同じ場所で同じように座っている。
「モブ太郎こんばんは」
ゆっけが挨拶してくれた。ゆっけに挨拶を返す山田太郎。今度は鈴が挨拶をした。高志は相変わらず無言で窓の外を見ている。山田太郎に一切の関心がない様子だ。
「さっきの誘いよく断った。偉いよ。モブ太郎はぼっち組向きだよ。ね、鈴さん?」
ゆっけの問いかけに鈴が答える。
「この先はどうかわからないけど、少なくても今はツアー組に参加する時期じゃないね。あっちのリーダーと相性が悪すぎる。まるで水と油。ハブとマングース」
鈴さんの回答は不思議な説得力があって納得できてしまうなと山田太郎は思った。いつかツアーに参加する気でいたが、確かに今ではない。大きな剣か、長い刀のどちらかを買うまではツアーに参加する気はなかったのだ。
「ところでさ、モブ太郎昨日手に入れた魔法石売ってくれない? 武器屋で売るより高く、店頭に置かれた買値より少し安くするからさ!」
「ん、別にいいけど」
ゆっけの商談に山田太郎が乗るとゆっけは喜びのあまり太郎の両手をぎゅっと力強く握った。柔らかで、すべすべしている手の感触に太郎は少し感動していた。過去最強クラスの感触で5本の指に入ると考えていたが、鈴さんはどんな感じなのだろうかと気になった。
「ねえ、モブ太郎。大地行動やってる?」
「いや、やってない。キング討伐ならやってる」
ゆっけは大人気のサバイバルゲームを毎日6時間もやっていた。山田太郎と一緒に遊びたかったのか少しガッカリしているようだった。
「ねえ、モブ太郎お金手に入ったら何買うの?」
「大きな剣がいいなー」
ゆっけの質問に太郎は嬉しそうに答えた。
「大きな剣か…魔法石2個で両方合わせて1200ゴールドしか出せないから後800ゴールド集まれば買えると思うよ。セールまで待てば今のままでも買えそう」
ゆっけから1200枚もゴールドが入った布袋を2つ貰った。取引用に昨日数えて袋に入れておいてくれたのだ。数えたのは200ゴールドの袋だけだったが。ゆっけの部屋には1000ゴールド入りの袋が10個もあった。
「現実世界なら何を買いたい? 何なら200ゴールドを円で支払おうか? うん、そうしてほしいならそうする」
ゆっけに軽い方の200ゴールドの布袋を返して紙幣を受け取った。
「ええー!?」
「うるせえな!」
「ごめんなさい」
山田太郎が驚くと九頭が怒鳴った。驚くのも無理はない。なにせ200枚の1万円札が手に入ったのだから。
「ゆっけ。金が入ったら大きな剣がほしいと言ったがあれは嘘だ。家の前にコンビニがほしい! その後でその隣に猫カフェも作るんだ」
「それいいねー! 完成したらモブ太郎の所で降りて遊びに行くよ」
ゆっけと山田太郎はすっかり仲良しになっていた。1日目に不可能な事が起こっていたのを覚えているだろうか?
山田太郎がバッグから装備を取り出そうとゴブリンの前でかがんだ事を。
複数のスライムが謎の岩4つが降ってきて潰された事を。
そう、その犯人はゆっけである。常に物陰から山田太郎を見守り助けていたのだ。
山田太郎はまだその事に気がついていないけれど。