錬金術師との出会い
山田太郎はゴブリン3匹との戦いでどうなるかと思たが、その後は敵との遭遇も無しに山道を歩き続け、錬金術師の家までたどり着いた。
「あのすみません。鈴さんの紹介で来ましたー」
山田太郎は勢いよくドアを開けて錬金術師の家に入った。まるでお店のような雰囲気だったのでお客さん感覚だったのである。
「鈴の紹介? 紹介状見せて。無いなら嘘かも知れないから帰って。あ、帰る前に何か買っていってよね。冷やかしNGあるよー」
錬金術師は28歳程度で髪はロングで少し乱れていて眼鏡を掛けており、身長は椅子に腰かけたままなのでわからない。「あ、はい。紹介状ですね。これです」山田太郎は紹介状を手渡そう前に差し出したが、錬金術師が椅子から立ち上がる気配は微塵も感じられない。
「ん、立ち上がるの面倒だから私の目の前まで持ってきて。そのついでに飲みかけのお茶もテーブルから持ってきてね」
錬金術師は極度の面倒くさがりで、普段は干物生活であると想像するに足りる感じがあった。これは雑用で稼げるかも知れない。山田太郎は密かにビジネスチャンスの匂いを感じて燃えた。「はい。お茶と紹介状です」山田太郎は素早くお茶をテーブルから取ってスマートに紹介状を手渡した。身軽さアピールだ。
「ふーん、本当に鈴の字だね。雑用に使ってあげてとあるけど、とりあえずこれと同じ草を沢山集めてきて。重さはその秤を使ってグラム単位で金を払うわ。薬草集めって本当に面倒で困ってたのよ。歩きたくない動きたくない。勝手に材料が届けばいいのにって毎日思うのよ」
第一印象そのままの錬金術師だった。山田太郎は異世界でどうやって金を稼ごうかと思っていたのでまさに渡りに船状態だった。「それではさっそく薬草探して来ますね」山田太郎は見本の薬草を手に持って山の中に向かった。
「気を付けてね。あ、ついでに赤い果物も取ってきて。私の夕食にするから」
錬金術師は何かとついでに物を頼むのが好きなようだ。「了解であります。気を付けて行ってきます」山田太郎は錬金術師の家を出て家の裏側の森の中に入っていった。何故裏側の森なのか。それは赤い果物は来る道に無かったから。山田太郎は意外と機転が効くし、目ざといのだ。
森の中に入ると山田太郎は先ず右方向にひたすら歩いた。そこで薬草を見つけて、ひたすらバッグに詰めた。そして、開始地点の中央に戻る時に赤い果物を探して上を見る。木々に赤い果物が沢山実っていたので取り放題だ。木にのぼるのは疲れるのでゴブリンを倒して手に入れた槍でつついて果実を落とし、それを片手で見事にキャッチした。中々いい反射神経の鍛練になりそうな動作である。そして、開始地点に戻ってきて、今度は左側を同じ要領で薬草を探す。片手で赤い果物を食べながら。帰り道でまた赤い果物を取って食べたぶんを補充した。
バッグの中身がいっぱいになったので山田太郎は錬金術師の元に戻った。バッグいっぱいに詰まった薬草と赤い果物を錬金術師に見せると喜ぶかな等と考えていたが、背中にゾクっという冷たくざわついた感覚を感じて咄嗟に上を見上げた。すると、プルプルとゼリーのような物体が木の上から降ってきた。
「あぶな! スライムが降ってきたー!」
山田太郎は間一髪でスライムを避けた。その数なんと5匹。とりあえず、槍はある。遠距離から突き刺せば危険もなく倒せるだろうと考えた。
山田太郎の攻撃。見事にスライムを槍で貫いた。が、しかし槍から白い煙が出ている。慌てて槍をスライムから引き抜く山田太郎。
「な、何だこれは!」
槍の刃先が溶けている。鉄がまるでチーズのようだ。これは危険だと岩を拾って投げつける事にした。30センチ程度の岩をスライムに投げつけた。グシャッという音でスライムは潰れたがすぐに復活してしまう。これならどうだと、強化ゴムのパチンコで石を撃ったが、小さな石ではスライムの体に取り込まれて溶けてしまった。
「スライムつえー! お手上げじゃないか!」
山田太郎はゲームで最弱扱いされるスライムに恐怖した。が、しかしバッグの小物入れにスプレーとライターを入れておいたのを思い出して、それを取り出す。
「これでも食らえ!」
スプレーのガスをライターで燃やし火炎放射機のように使うと、スライムは熱で溶けた。復活はないようだ。仲間の死に焦ったスライムは残りの4体で突撃作戦に出た。次々に体当たりしてくる。山田太郎は避けるので精一杯。まるで夏休みに友人と花火をして10連発の花火をして向けられて避けている時のように弾の数が切れるのを待っているような状態だった。
転機が訪れたのはほんの少しのテンポの乱れからだった。先頭のスライムが一番先に体当たりし、避けると次のスライムがという流れで4連続体当たり、そのまま背後に回られる形になるので慌てて振り向いてまた4回連続で避けるという無限ループ。その状態が何故か崩れた。体当たりを避けて後ろに回られた状態の時に大きな岩でスライムが潰されていたのだ。しかも、4体同時に。
「チャンス!」
山田太郎は潰れて弾けたスライムが元に戻る瞬間を狙ってスプレーファイアーを食らわせた。そして、そのまま横一列に燃やし尽くしスライム4体を倒すことに成功した。するとスライムの焼け跡から青い石と赤い石を拾った。
「やった…勝ったぞ…普通死んでる所を生き延びた…」
1時間にも及ぶスライム達との死闘に勝利した山田太郎は疲れきっていた。先が溶けた槍を杖の代わりにして錬金術師の家にやっとの思いで辿り着くと山田太郎は力なく扉を開いた。
「お帰り。凄く疲れた顔をしてるね。帰り道にスライムの襲撃にあったでしょ。アイツらは油断した帰り道を襲う習性があるのよね。長く歩けば歩くほど仲間を集めるから厄介なのよ。」
山田太郎はそれがわかってるなら注意してくれよと思ったが、これから社長のようなポジションになる錬金術師と険悪な雰囲気になりたくない為、黙って耐えた。
「約束の薬草と赤い果物です。どうぞ」
錬金術師は山田太郎から荷物を受けとると真剣な顔で品定めし、山田太郎に金貨1枚と銀貨5枚と銅貨20枚を手渡した。
「今日は本当にありがとう。貴方が無事に生き残ったら契約するという話だったけど大丈夫みたいね。私の名前はオリヴィア。オリーブでいいわ。貴方の名前はなあに?」
錬金術師の名前を聞いて山田太郎は号泣していた。「俺は山田太郎です。これから宜しくお願いします」深々と頭を下げた。床に頭がつくくらいに。まるで柔軟体操の姿勢のようだった。
「でも、どの武器でスライムを倒したの? 槍は溶けるし、鉄の糸みたいのを巻いたこの棒も効かないし。まあ、いいわ。魔法くらい使えるわよね。鈴の紹介だし。あ、ついでに合成してあげるわ。普段は200ゴールドなんだけど苦労してくれたから特別に無料で」
錬金術師オリーブは呪文を唱えて棍棒と特製鉄線バットを融合させた。これが合成。これにより、先端が重くなって根本が折れやすくなっていた弱点が解消されたのだった。特製鉄線バットがプラス1になった。ついでに山田太郎もレベルが上がったのだろう。あれだけの死闘だ。
「あ、オリーブさんこれ、食べますか? 僕の弁当だったんですが食欲無くなって。それに果物だけが夕食だと体に良くないし」
山田太郎はサーモンサンドと卵サンドをオリーブに手渡した。錬金術師は「ありがとう」と大きな声でいうと、サンドイッチをむさぼり食った。案の秒喉にパンを詰まらせたので山田太郎は飲み物も与えた。そして、背中も優しくさすった。
これが山田太郎と錬金術師オリーブの出会いだった。