運命の出会いかな!?
山田太郎は深夜2時のバス停の前で待っていた。普段は絶対にバスが来る事がない時間帯。1時間待ってもバスはやってこない。期待が失望に変わり果てていた頃にチラシを眺めているとチラシが輝き、突然バスが目の前現れた。ドアが開いたので山田太郎は慌ててバスに飛び乗った。料金は前払いで3000円を運転手に手渡した。
「お客様おひとりですか。死にますよ」
運転手は物騒な事をズバッと言った。他の客も「あいつソロだって死ぬに5万」とか「可哀想だよぷぷ…」とか口々に山田太郎を嘲笑っていた。そんな中で大きな声で叫ぶ者がいた。
「ソロの人は後ろだよ。こっち来なよ!」
辺りの雑音をかき消す大声。ビリビリとバスの中が揺れたようだった。バスの後ろの席には山田太郎を呼んでくれた足が長くて切れ長な目で二重まぶたの整った目をしたスリム美女。鎧の種類はプレートメイルだろうか。胸元が金属で守られているが、腹はむき出しの状態で腹筋はバキバキに割れて6パックで腰のくびれも物凄い。アニメのキャラのような完璧な容姿の女性。
座席ひとつぶん離れた所に座った小柄で148センチ程度の可愛い系の女性。何故148センチ程度と予想するかと言うと、小学生がおしゃれして化粧をしているようにしか見えない小柄さであるからで、大人だとわかるのはその胸の大きさ。白のワンピース姿だが、大きなメロンが二つある。
窓際からひとりで座席3つぶんは取っている態度が大きい大柄な男が座っていた。とても凄い造形の槍を持っている。槍が3人ぶんのスペースを取っていると言っていい。その槍は真ん中の太くて長い刃90センチと左右の刃60センチと3つも刃があり、その中心には巨大な金色に輝く宝石がはめ込まれており、時折槍から電気が流れていた。鎧は全身真っ黒で黒く輝いている。
山田太郎は空いている女性の間の席に座り荷物を抱えた。何か凄い人たちに挟まれちゃったな。他の乗客とは装備も雰囲気もまるで違っている。
「やあ、来たかい。私は鈴。あんたの隣のチビッ子はゆっけ。こう見えて強いのよ。機嫌を取って一緒に行動して貰うといいよ。私が連れて歩いてあげたいけど忙しくてね。女性騎士団団長で更にギルドマスターなもんでさ。あ、あの態度が3人ぶんデカイのは高志。あいつもソロだけど他人を下に見てて絶対に手を貸してくれないから関わらないようにしておくといいよ。性格最悪だし」
鈴と名乗る腹筋が割れたスレンダー美女はゆっけを紹介してくれた。強い美少女と異世界冒険だと内心喜ぶ山田太郎。
「鈴さん。私は面倒見ないよ。甘やかすつもりはないし、ひとりで生きてきたプライドもある。ボッチ舐めんなし! あ、鈴さんもソロ組だから知ってたね。そこのモブキャラくん。酒場に私が異世界語を覚えるのに使った本があるから使っていいよ。ソロで生き残れたらボッチ仲間として認めてあげるわ。せいぜい頑張ってね」
ゆっけは小さくて可愛い見掛けに反して意外と厳しかった。「あちゃーフラれちゃったね」と鈴が言った。「それじゃあ、仕方ないから錬金術師を紹介してあげるよ。私の紹介だと言えば良くしてくれる。日本語も通じるしね」鈴はサラサラと奇妙な文字を書いて山田太郎に手渡した。
「何で初対面の俺にこんなに良くしてくれるんですか?」
山田太郎は鈴に聞いた。すると太陽のような明るい顔で鈴は答えた。
「君を夢で見たからさ。山田モブ太郎くん」
山田太郎はその理由に納得出来なかったが名前を知ってた事で妙に納得できた。これは運命の出会だと勝手に思うことにした。他の乗客26人とソロ組4人それぞれ別の運命が待ち構えていた。バスが停車した。ツアー客26人が降りて、ゆっけが出口に向かう。「君もここでおりるんだよ。モブ太郎くん」と山田太郎に言うゆっけ。「私は今日は終点まで行って買い物なんだ気をつけて行っておいで」という鈴。
「あ、そうそう山田モブ太郎くん。錬金術師に会うまでに結構モンスター出るから気を付けてね。割りとレベル高いのが出るし。まあ、夢で見た時の君は結構いい装備してたし死ぬことはないと思うけどね。その点は安心してる。他の客と違って死なない未来っていいものだね。あ、話し過ぎた。ほら、行った行った!」
鈴は山田太郎の尻をペンっと叩き送り出した。「うわ、柔らかい尻をしてるねモブ太郎くんまるで大きなお餅じゃない」と言う鈴それが気になったのか、ゆっけが戻ってきて山田太郎の尻を揉みしだく。3分くらい揉んで満足したのか、ゆっけがむふぅと言って去っていった。とんだセクハラだったが問題も無かった。男性が女性にセクハラされた事例はほぼ聞いた事がない。
こうして奇妙な出会いをした山田太郎はバスを降りた。ゆっけの姿は既になく、ゆっけに言われた酒場に向かった。酒場の中に入ると、ゆっけが既に来て酒を飲んでいた。つまみは焼いた巨大イカだった。大きさは60センチはあろうかというスルメを食べてガンガン酒をおかわりしている。「ほら、この本だよ。鈴さんが言った錬金術師の家は山のてっぺんの家だからね。わかりやすいの」と本を手渡して説明してくれたゆっけ。その優しさがあるのなら一緒に来てくれたらと思ったが山田太郎は我慢して何も言わなかった。そして、酒場を出て本を読みながら山の頂上の家を目指した。
「鈴さんは美人でゆっけは可愛かったなー」
山田太郎が独り言を言いながら山道を歩いていると背後でガサッという音が微かに聞こえた。だが、山田太郎は気がついてないようだ。すると前方でガサッという音が聞こえた。小さな鬼が現れた。いわゆるゴブリンというやつだ。手には棍棒を持っている者と短剣と盾を持っている者と槍を持っている者の合わせて3匹だ。山田太郎は慌ててカバンの中から特製の鉄線バットと鍋のフタを取り出した。そして装備を終えると何故かゴブリン3匹が頭を抱えて痛そうにしていた。
「何だか知らんがラッキー! そうだよな。もう異世界なんだし装備してなきゃだったのに危なかった」
山田太郎は鉄線バットを棍棒持ちのゴブリンに振り下ろした。すると即座に身を引いてゴブリンが避けた。そして反撃。今度はゴブリンが山田太郎に棍棒を振り下ろす。ガキィンと激しい金属音。鍋のフタで見事に防いだ。だが、その衝撃は凄まじく鍋を持つ手が痺れた。これはたまらないと山田太郎は一旦距離を置く。10メートルは下がったか。そこでバッグから強化ゴムのパチンコを取り出した。だが、両手を使う仕方ないので棍棒を下に置いてついでに石を拾った。すると、またゴブリン3匹が頭を痛そうに触っている。
「またまたラッキー!」
山田太郎は強化ゴムのパチンコを力の限り引いて狙いを定めた。一番厄介な槍を持ったゴブリンに5センチ程の石を撃ち込んだ。
「うわグロ!」
山田太郎は吐きそうになった。ゴブリンの頭が破裂したようになっていたのだ。カランと音を立てて槍が地面に落ちる。それを足でやりを立てて拾った山田太郎は棍棒を持ったゴブリンに突き立てるが横に移動してさけられてしまった。慌てて下がる山田太郎。棍棒持ちのゴブリンは追撃し棍棒を振り下ろす。それを更に距離を取ってギリギリ避けた山田太郎。そのまま反撃し、槍を喉元に突き立てた。今度こそ当たった。
「うわ…なんかごめん」
山田太郎は謝った。が答えようにもゴブリンは喉を貫かれて話せない。そして残るは盾と短剣を持ったゴブリンだ。
「よくも仲間をやってくれたぎゃ!」
うわしゃべった!しかも日本語!山田太郎は驚いた。
「お仲間を殺してしまってごめんなさい。お菓子あげるので許して下さい」
と山田太郎はバッグの中からブラックライトニングを取り出して与えた。凄そうな名前だがチョコレート菓子だ。
「ウマイいんだぎゃ! 嫁と子供にもほしいんだぎゃ!」
と言うゴブリン。めっちゃ大きく喜んでいる。
「はいどうぞ。ほんとごめんね? 許してね」
ゴブリンをブラックライトニングで倒して山田太郎は見事に勝利した。(ゴブリンは上機嫌で去っていった)こうして山田太郎の奇妙な冒険が始まったのだった。戦利品は棍棒と槍。失ったのはチョコレート菓子だ。バッグから装備を出したり隙だらけだった時が2度もあったのに奇跡的に無傷であった。