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異世界バスツアー  作者: ルンルン太郎
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異世界生活13日目

 ゲイルの目的は不明のまま、何か煮えきれない感覚を持つ山田太郎。ゆっけのようにボスに媚びない強さがほしいと真剣に思う。

 山田太郎は昨日使った治癒の力を試そうと自分の腕に切り傷を作った。だが、傷は治らない。何故だ。と気持ちが乱れる。

 こういう時にはゲームだと思い、勉天道のゲームを買ってきた。スマッシュと名付けられたそのゲーム機はそのなの通り、勉天道の主力商品となりスマッシュヒットすべく作られた。見事にヒットし、発売後は店頭に姿を現すことさえなく、予約のみで完売という人気商品である。

 山田太郎はブラック企業でパワハラを受け休みもない状態から抜け出した今ならスマッシュをプレイする余裕があると判断したのだ。

 山田太郎が一番先にプレイすると決めていたゲームがある。近未来のボクシングのゲームだ。


「よし、やるぞ!」


 初期設定を終え、チュートリアルを終えて対戦がスタートした。相手の猛攻を体の移動で避ける山田太郎。相手のパンチの速度に慣れてきた。攻撃を避けながら同時にパンチを繰り出す。カウンターで見事にヒットした。相手の攻撃を避けてカウンターそれの繰り返しで相手はボコボコになり、最後は慌ててラッシュを繰り出す。その無数のパンチの雨さえも避けて、全パンチを全てカウンターで返した。

 異世界の戦闘で磨いたテクニックが見事に光った試合だった。山田太郎の得意技は回避カウンター。相手が狙っている箇所がゾクゾクし、その部分が当たらないように回避する。恐ろしく感覚の鋭い山田太郎だからこそ可能な必殺技とも言えるテクニックである。


「ん…対戦相手からのメッセージが来てる」


「自分、ボクサーですが、あなたのテクニックに惚れました。弟子にして下さい」


 山田太郎は異世界バスのバス停の住所と来る時間を記入し、異世界の修行に耐えられるならいいですよと答えた。


「あなたは異世界バスの乗客でしたか! 憧れてたんですよ。絶対行きます!」


 山田太郎は胸が踊った。空手家やダンサーの特殊武器を鍛冶屋に依頼た時に、ボクサーがもしも現れた時に向けて特注したのだ。メリケンサックに5本の爪のような刃物を付けた装備を。


「相手も乗り気のようだし、武器も昨日届いた。これは今日の冒険が楽しみだ」


 山田太郎は今日は初めて異世界バスツアーに参加してみようと思った。ゆっけや鈴さんと離れるのは不安だったが、どのような状態なのか気なったのだ。ぼっち組の新人の春菜と拓郎はゆっけに任せてダンサー美原、空手家花田の様子を見る。これが今日の予定だった。


「今日は俺は一緒ではないけど、ゆっけに任せてあるので大丈夫です。昨日のあの動きを見ればわかるように、ゆっけは俺の何倍も強いですから」


 春菜と拓郎は部屋探しの最中で色々悩んでいるようだ。都会に住みたいが、異世界バスの停留所から遠いし、深夜にやってくる足はない。必然的に太郎と同じ町しか選択肢は無くなるが、やっぱり都会がいいという感じだった。


「その願い叶えてやろう」


 突然異空間のトンネルから現れたゲイル。異世界バスツアーのチラシを春菜と拓郎に手渡す。


「さらばだ!」


「ありがとうございます!」


 チラシを渡すとすぐに異空間に帰っていくゲイル。もうボスなのか仲間なのかもう、よくわからなくなっていた。


 そんなこんなで深夜になり、ボクサーと会った。


「どうも上杉っす! 師匠! ゲイルさんって人が現れてここに送ってくれたんですが、明日からはチラシを使って好きなバス停から行けるらしいんで、明日は最寄りのバス停から来ようと思います」


 またゲイルか。一体何者で何が目的なのかさっぱりわからなかった。異世界バスに乗り込み、空手家とダンサーを探す。


「昨日武器が出来たよ。美原くん、花田くん。そしてこちらはボクサーの上杉くん。突然だが、3人でチームを組んでほしいんですよ。戦いでもフォーメーションを気にしてほしくて」


 3人に武器を手渡すと瞳を輝かして今にも武器を試しに使ってみたいと大喜びだ。


「って事でゆっけ、今日だけ異世界バスツアーに参加してみる」


「うん。行ってらっしゃい。新人の世話はこのゆっけ先輩に任せなさい。いつも通り錬金術師の所から気楽に始めておくわ」


 初の異世界バスツアーに参加という事でヘッドセットとボディカメラが案内人のアザゼルから手渡されたので試しにつけてみた。


「ゲイルのお気に入りだからと調子に乗らないで下さいね」


 ヘッドセットから低い女性の声が聞こえた。


「ツアー参加の皆様にご報告します。本日は死神ゲイルフォレストの討伐です」


「ふざけるな! みんな死ぬぞ!」


 高志が一番後ろの座席から叫んだ。鈴さんは立ち上がり、アザゼルの所まで行き詰め寄る。


「残念ながらツアーのキャンセルは基本的に出来ません。どうしてもという場合はキャンセル料金3000万円となります」


 異世界バスは騒然となった。


「仕方ない俺もツアーに参加する」


 高志がツアーに参加すると表明した。ヘッドセットとボディカメラを装置し、作動するかチェックしている。


「私も参加するわ。みすみす人を死なせる訳にはいかない。ゆっけあなたの力も貸して」


「うん、いいよー! でも、ゲイルってそんな悪い人に見えないよ?」


 鈴がゆっけを諭すように穏やかにゆっくりと語り掛ける。


「そうね、アザゼルよりゲイルのほうが、よっぽど良い人間だと思う。でもね、アザゼルがいるからゲイルも本気になる。ゲイルでもモンスターを完璧に操れる訳ではない。単純な命令しか出せない。つまり、自分の身を守る為にモンスターを召喚するしかないとはいえ、大惨事となるのよ」


 結局全員がバスツアーに参加する事になった。一体どうなってしまうのだろう。新人も沢山いるのに、恐ろしい敵の討伐なんて。しかも何故か憎めないゲイルの討伐。この行為はまるで噴火しない山にダイナマイトを放り込むような気がしてならなかった。


 こうして地獄の異世界13日目が始まった。俺たちは皆、この日を忘れる事はないだろう。


「平原で戦うわよ。いいわね、アザゼル!」


「仕方ありませんね。私は今ここでと思ってましたが。さあ、ツアー参加の皆様。平原に行きますか」


 鈴が先頭となり、一番最後は高志となりバスツアーの参加者は一列に並んで進んだ。鈴、神谷薫、鷺沼、要、律子のカップル、大学生四人組の静香、明日香、将暉、静男、ダンサー美原、空手家花田、ボクサー上杉、20人いたアーチャー部隊の生き残り3人組の冴子、愛、杏理。そして太郎、ゆっけ、高志の順番に並んで歩く。合計18人だ。


「平原に到着しましたよ。皆様戦闘準備して下さいね」


 アザゼルの指示に皆が武器を装備した。


「指示はそれだけ? 相変わらず人の命には無頓着ね! 皆聞いて。これは今までで一番悲惨な戦いになる。自分と大切な人達が生き残る事だけ考えて。ゲイルは私達が倒す。いい、考えてはダメ。決して生きる事を諦めないで。本能に身を任せて」


 鈴の声は優しくそして強かった。皆は鈴の指示で団結し、おのおの各自で雄叫びを上げた。


「私を倒すのですか。鈴よ。悲しい事です」


 異空間からゲイルが現れた。いつものようにフードをかぶり、ローブには無数の宝石が輝く。水晶が無数に連なったネックレスも印象的だ。


「アザゼルのご命令で、仕方なくね! 覚悟ゲイルフォレスト!」


 鈴の攻撃を半透明の魔力の盾を作り防ぐゲイル。鈴とゲイルが睨み会う。30秒程力比べし、鈴が弾き飛ばされた。


「鈴、何を遊んでいる!」


 今度は高志が飛び込んだ。


「その槍は防ぎきれませんね。あなたはコイツらの相手をしてもらいましょう」


 ゲイルは魔方陣から巨人を呼び出した。5メートルのオークが10人はいる。


「ゆっけ挟み撃ちよ!」


 鈴とゆっけが前後からゲイルを攻める。鈴の攻撃を受け止めて魔力の盾を使っている為にゲイルの背後は無防備。ゆっけの短剣がゲイルの魔法障壁を貫き、怪我を追わせた。ゆっけの魔力をおびた短剣が炎で傷口を焼く。


「小さき者よ。私の全身を守る魔法障壁を貫くとはやりますね。あなたもやっかいなので、あちらに行っていてもらいましょう」


 ゲイルはそう言うと少し離れた所に魔方陣を描き、無数の狼が現れた。500匹はいるだろうか。

 狼はゆっけに向かってやってくる。


「太郎。私の背中を触って。一緒にこの場を離れるわよ」


 太郎がゆっけの背中を触りながら平原を走った。無数の狼の群れが皆から離れていく。ゆっけは太郎が背中を触りやすいように、背中の空いた服を着てきたのだ。そして、皆が見えなくなった頃に立ち止まり、狼を迎え撃つ。


「太郎はフルアーマーの鎧を着てるから大丈夫だね。何とか耐えてよね! 私も頑張るから!」


 太郎とゆっけの500匹の狼との死闘が始まった。その頃、ゲイルはアザゼルと戦っていた。


 アザゼルの炎の爆裂魔法に苦戦するゲイル。爆裂魔法を防ぐと火の玉が無数に弾け飛ぶ。それが異世界バスツアーの乗客の元に飛んでいくのだ。なので、盾で防ぐ事は出来ず、体を焼かれながらゆっくりとその体に魔力に変換した爆裂魔法を吸収していく。


「さすがゲイル。爆裂魔法を生まれる前の魔力の状態に戻して防ぐか。ならば今度はこれでどうだ!」


 アザゼルが炎の槍を投げる。


「女性騎士団長! 炎の槍で動きを止めている。背後から突き刺して仕留めろ!」


 ゲイルはそうはさせないと魔方陣からモンスターを呼び出した。無数のスケルトンが現れた。その数800体。それが異世界バスツアーの乗客に向かっていく。


「すまない鈴。あなたなら守り抜けるはず」


 ゲイルはそう言い残すと空中に飛び立った。


「待て! ゲイル!」


 アザゼルはゲイルを追って飛び去った。


 空中で魔方陣が輝き、ドラゴンが現れた。


「これで形勢逆転だ。2対1ですよ」


 ゲイルとアザゼルの死闘は地上に大きな被害を出した。主にアザゼルの爆裂魔法が原因だが。森に落ちた爆裂魔法の炎を水魔法で消火するゲイル。


「相変わらず甘い!」


 その隙を狙って炎の槍を投げつけるアザゼル。それを間一髪で回避するゲイル。今度は異世界バスツアー客に爆裂魔法を投げるアザゼル。


「いけない! 竜よ!」


 ドラゴンが異世界バスツアー客の前に立ちふさがり、爆裂魔法を代わりに受けた。ドラゴンの断末魔の悲鳴がとどろいた。


「これで互角」


 アザゼルの嫌らしい微笑み。吐き気を押さえるのに必死なゲイル。


「貴様ー! 貴様だけは殺す!」


 その頃、鈴の指示で町に向かって走るバスツアーの乗客。ドラゴンが盾になってくれたが、戦いの邪魔になる。だからこの場所から離れる必要があった。だが、スケルトンも乗客についてきてしまった。スケルトンは足が遅い。走って距離を取り、立ち止まって迎撃の繰り返し。この作戦ではスケルトン相手に弓は効果がないため、太郎達の援護に向かわせた。

 ここで大活躍したのが、拓郎の強化魔法。格闘技が得意なメンバーを強化した。空手の花田とボクサーとダンサーだ。鉄の拳がスケルトンを砕き、ダンサーの靴は鉄板が仕込んである。刃は効かなくても、鉄板の蹴りはよく効いた。スケルトンの首を蹴り飛ばす。ボクサーも刃は聞かないがメリケンサックのうな形状なので打撃が強化されていた。

 その3人だけでなく、他のメンバーも活躍出来ていた。その理由はスケルトンが武具を装備していなかったからだ。スケルトンの数が500体になった頃、太郎達が応援に駆けつけた。太郎はクレイモアの刃使わずハンマーがわりにしてスケルトンを叩き潰して吹き飛ばす。ゆっけは竜巻のような回し蹴りを繰り出し次々とスケルトンの首を飛ばす。太郎から借りたアーチャー部隊は灯油入りの水鉄砲で狙い打ちし、超強力噴射のスプレーで焼き尽くす。そして、ネットカフェ難民の春菜が太郎の指示でその炎を風魔法で煽り大きな炎とした。


「おや、10人は死ぬかと思いましたが全員が生き残りましたか。私も終わりました。8000ルビーゲットでございます。あなた方の報酬は8000ゴールドにでもしますかね」


 アザゼルが戻ってきて、13日目の戦いは終わった。何度も自分達を守ってくれたゲイル。手加減していたとしか思えない魔物の召喚。そして何よりも強いアザゼルへの不信感。それが異世界バスの乗客の口を閉じさせていた。その日は結局全員が疲れ果てて泥のように眠った。そして、朝を迎え異世界バスツアーへの参加を続けるかどうかを迷っていた。メンバー全員がである。


 


 



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