異世界生活11日目
山田太郎はステーキハウスを出て、アパートに向かって車を走らせた。帰りは高速道路を使用して時間を短縮した。
ネットカフェ難民の二人は後部座席で眠ってしまっている。腹も満たされて眠くなったのだろう。
山田太郎は考えていた。ゲイルフォレストから受けた恐怖を。まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚。思い出すと震えてくる。
「あの、着きましたよ。アパートで少し休んだら異世界に行きましょうか」
「あ、はーい。よろしくお願いします」
また二人の声がシンクロした。前橋春菜と宮守卓郎は付き合ってしまえばいいのにと山田太郎は思った。が、それも時間の問題だろう。
アパートに入ると太郎は二人にコーヒを出してそのまま仮眠した。そして、数時間後、山田太郎が起きると二人はブルブルと体を震わせている。
「ゲイルさんから伝言です。目覚めし者よ。愛しい小さき者の命が惜しければ新人の世話などをせず、常に一緒にいることだ」
「卓郎くん、あ、なんだよ、寝てるのかよ。ちぇ! が抜けてるよ」
「ああ、そうそう。忘れてた。以上伝言終わりです」
「大変な事があったんだね。伝言ありがとう」
山田太郎がお礼を言うと、春菜があ、と何かに気がついたようだ。
「何やら太郎さんは今求めている力を具現化させるどうのこうの言ってました」
「それって割りと重要なんじゃ?」
「あ、そう言えば私は風魔法の素質が高いって言ってました」
「俺は能力強化系と言われました」
「あ、そう言えば、お前達は潜在能力が低く力も弱いため、簡単なので今目覚めさせると肩に手を置かれて能力を開花させて貰いました」
「そろって、めっちゃ重要な事じゃない!? 何で忘れたの?」
山田太郎は大いに驚いた。二人が魔法を使えるようになった事に驚いた。凄いスキルを持って異世界にってアニメか漫画みたいじゃんと思った。
ネットカフェで二人に会えたのは幸運だったなと太郎は心底思った。そして、深夜3時が近づいて来てるので三人はバス停に向かった。
バス停に到着し、コンビニの完成具合を観察していると異世界バスが来た。
「いきなりバスが…ぷぷ…さっきのステーキハウスかってね!」
笑う二人に太郎は思った。それ、驚く所ね。
「さ、乗るよ。今日はバス代は払っておくから」
「あ、太郎さんありがとうございます! 明日死のうと思ってたので300円くらいしかなくて」
「何それ、めっちゃギリギリじゃん? 生きて! 死ぬな! 生きろ! 拓郎!」
「そうだよ、たっちゃん私がいるから死んではダメ、絶対! デス! シャキーン」
「春ちゃんカッコいいー! ひゅーひゅー」
山田太郎は二人の独特な雰囲気に多少疲れたが楽しいなと思った。
「太郎がカップル連れてきた。ん、太郎いらっしゃい」
「私達カップルに見えるんだって、たっちゃん付き合っちゃう?」
「そうだね。付き合っちゃうか。はるちゃん」
春だからって異世界バスはカップル出来すぎだろう。と太郎は内心思ったが、他人の幸せを見るのも悪くないと思った。
「太郎くん、プレゼントがあるんだ。フルアーマーの鎧だよ」
鈴が太郎に大きな箱を手渡す。
「私だってプレゼントあるし! 太郎一緒に武器屋に行くわよ! クレイモア買ってあげる。それから錬金術で折れたクレイモアを新品に合成するのよ」
「それ、最高! ありがとうゆっけ、鈴さん」
「ふふふ…出遅れたけど、また一歩リード」
「やるわね、ゆっけ」
何やら後部座席は色々複雑だった。バスを降りて折れたクレイモアを有効活用し新たな強化クレイモアを手に入れた山田太郎。フルアーマーの鎧の重量も含めて30キロは重くなった。
それなので太郎の足腰の強化の為に平原にやってきた。太郎はひたすら歩き、時折走るを繰り返し平原を何度も往復していた。
ゆっけはと言うと、春菜と拓郎に短剣の扱い方を教え、ギルドで受けた野獣ウサギ討伐50匹をこなしていく。ゆっけが40匹とほとんどを倒した。春菜5匹、拓郎5匹という内訳だ。報酬は酒場と肉屋が支払い50ゴールドだ。夕方になり、帰ろうとしたその時、空間に歪みが生じた。
「あ、ゲイルさんちーす!」
拓郎と春菜が声を合わせて気さくな挨拶をした。
「あ、どうも」
と挨拶を返すゲイル。
「さあ、試練の時だ。耐えられるか小さき者よ!」
「ちっさくない! 怪我してるから試練とか無理!」
ゆっけはゲイルを話術で倒した。
「あ、でも太郎が治癒の力に目覚めたし、試練に耐えないと能力に目覚めないよ?」
「太郎何か疲れてるし、気分じゃないから明日ね」
「いやでもさ、一応死神と呼ばれてるし、普通拒否とかしなくない?」
「うっさい! 帰れ」
「それでは、明日また来るぞ!」
ゆっけは死神ゲイルを追い返した。そして、帰りにゆっけのおごりで酒場に行き、たらふく食べてたらふく飲んだ。明日のゲイル戦を前にして英気を養っているのだ。




