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異世界バスツアー  作者: ルンルン太郎
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異世界生活10日目

 山田太郎がゾンビ討伐から帰ってきて4日経っていた。ダンサーの美原俊と花田次郎を馬車に乗せ、隣の国まで行こうとしていた。二人の特注の武器を鍛冶屋に注文するのと、二人をバイト先に案内する為だ。この馬車も商業都市ヤスイダローの商人から買ったものだ。


 山田太郎は二人をバイト先に送り届けて鍛冶屋の用事を済ませると、商人から聞いた噂の山に向かった。神経の怪我にも効果がある薬草があるという。ゆっけの足が動くようになるまで、密かに時間があれば探しに来ていたのだ。


「あ、これだ。ゆっけ喜ぶかな」


 山の奥で見つけた薬草を摘み取り、帰ろうとしたその時、魔法のゲートが開いた。


「お前は中々面白い気を持ってるな。どれ試してやろう」


 魔法のゲートから出てきたフード姿の者がそう言うと魔方陣から狼とゴブリンとスケルトンを同時に召喚した。

 この組み合わせは厄介だぞと山田太郎は焦った。狼がいるので走って距離を取る事は出来ない。狼が突進して来るのを待って特製の鉄線バットで頭蓋を粉砕したい所だが、狼は突進してこない。ゴブリンには弓矢が装備されており、こちらに狙いを定めている。スケルトンにはロングソードと丸形の盾。


 この中で一番狙いやすく打撃の鉄線バットと相性がいいスケルトンに狙いを絞り、右手の短剣を振り下ろす。するとそれをスケルトンが丸い盾でガードした。盾を使わせている間に左手の鉄線バットでスケルトンの頭蓋骨を砕いた。

 その攻撃の最中にもゴブリンは必ず視野の端に入れておいた。ゴブリンの弓矢が発射される。それを狼と反対側に飛んで避け、右手の短剣をゴブリン目掛けて投げた。短剣は見事にゴブリンの胸を貫き、断末魔の悲鳴をあげた。そして、最後に残った狼は今度は逆に焦って突進してくる。最初の予定通りカウンターで狼の頭蓋骨に鉄線バットを振り下ろした。


「ほう。無傷で倒したか。ならばこれはどうだ」


 フード姿の者は今度は狼を10匹召喚した。山田太郎は逃げ切れないと判断し、傷を受けるのを覚悟で狼と戦った。右腕を噛まれながら鉄線バットを噛みついている狼の頭に振り下ろす。仕留めると今度は背中に激痛が。山田太郎は周囲を見渡して木に背中をぶつける。狼を木に激突させ、その牙が背中から離れると一歩下がって体重を乗せて鉄線バットを振り下ろし倒した。残りは狼8匹。

 倒したスケルトンからロングソードを手に取り、振り回して狼達を牽制し、わざと腕を止めて狼が飛び込んで来るのを待ち構える。


「きた!」


 誘いに乗ってきた3匹の狼をもぐら叩きの要領で左から順に次々と倒した。残りは5匹。

 傷の痛みで意識が遠退いてくる。今度は左右と前後から狼が飛び掛かる。山田太郎は愛用の鉄線バットを手放しロングソードを両手に持ち、回転しながら狼達を斬った。


「まだ力に目覚めぬのか。その狼は特別な魔力の毒を持っている。解毒薬では治らない。力を見せよ。お前の奥底に眠る力を!」


 フード姿の者は狼を50匹召喚した。山田太郎はたまらず馬車に向かって逃げた。だが、狼から逃れられる訳もなく、追いつかれ全身を噛まれた。絶対絶命。50匹の狼が山田太郎に群がった。


 それから数時間が経過した時、山田太郎は目覚めた。腕の傷口が何もなく、痛みも全く感じない。


「なんだ夢か。あー! 怖かった。死んだかと思った」


 山田太郎は夕方になったので、慌ててダンサーと空手家を迎えに行った。もうバイトが終わる時間である。ゆっけも行商に来ていたらしく、バイトが終わるまで二人の働きを見守る山田太郎の背中を叩いた。


「うわ! 驚いた。ゆっけも来てたのか。驚かせやがって仕返しだ!」


 山田太郎はゆっけの背中を叩き返した。


「よくもやったなー! 回し蹴りをその餅のようなおしりに叩き込む! おりゃー」


 ズバンと見事な音を立てて見事にゆっけの回し蹴りが太郎の尻に直撃した。


「痛いから! 回し蹴りはないよ!」


 山田太郎は反撃にゆっけの脇をくすぐる。


「きゃー! やめてー! 笑いすぎてもうダメー」


 ゆっけは性感体を攻められて笑いすぎて腹が痛くなっていた。二人がじゃれあっていると、山田太郎が突然くすぐる手を止めた。


「何いきなり手を止めるのもっと…なんでもない」


 山田太郎は突然真剣な顔になり、ゆっけに顔を近づける。


「ちょ! 何なの太郎発情期ですか? あの、その今日は女の子の日だから別の日にして?」


「ゆっけ…」


 山田太郎は更にゆっけに顔を近づける。ゆっけは静かに両目を閉じた。


「ゆっけ…ゆっけ…」


 山田太郎は何度もゆっけの名を呼ぶ。


「ゆっけ、お前一体どうやって回し蹴りを出したんだ?左足の感覚ないのに」


「あ…そう言えばどうやって? えい! えい!」


 何度試してみても回し蹴りを出せない。それどころが足も上がらない。全く感覚もない。さっきまでは確かにあった感覚が。


「まさかな…あれは夢だ…」


「太郎先輩方ー! バイト終わりましたー! お待たせしてすみません」


 ダンサー美原と空手の花田がやってきた。ふたりとも夕日に汗が照らされ綺麗に輝いていた。


「おう。お疲れ様。さあ、皆で帰ろうぜ」


 ゆっけの馬車を先頭に太郎の馬車が続き、暗くなった所で異世界バスのやってくる所に到着した。馬車の管理をルドルフに任せて、太郎とゆっけはバスに乗り込む。


「お疲れ様です。太郎さんに言われた皆のお世話はバッチリこなしましたよ。本日も死傷者ゼロです」


 冴子が太郎に報告した。冴子、愛、杏理は新人のツアー客の教育と護衛をお願いしたのだ。


「太郎さんに言われた通り、弓矢だけでなく短剣での近距離戦闘も練習したよ」


 今度は愛が太郎に報告した。


「私は危ない所だった人を2人も救ったんですよ。誉めて」


「偉いよ杏理ちゃん」


「えへへー」


「ぶーぶー」


「は?」


 山田太郎が杏理を誉めた。杏理はとても嬉しそうだ。


「なんであいつばっか…俺の方が顔がいいのに…」


 鷺沼が小さな声でひとりぶつぶつ言っている。


「さぎぬま、世の中は顔と金だけじゃねえって事さ」


 インディーズ歌手の神谷が鷺沼の肩をぽんと叩く。田所要はバスツアー組の前衛として一番頑張ったので律子の肩にもたれて寝ている。


「今日はよく頑張ってたね。ありがとう」


 律子はじっと要の寝顔を見つめていたが、愛しそうに要の髪をなでだした。


「かあちゃん。くすぐったいよ。ご飯」


「ふふ、はいはい。家に着いたらすぐ作るから待っていて」


 要の寝言にそのまま返す律子。要のアタックで二人は一緒に暮らす事になったのだ。同じ刑務所で過ごした境遇からなのか、急速に二人の仲が深まっていった。


「明日香、あのカップルいいね」


「そうだね、羨ましいね。静香」


「じゃあ俺達も付き合おう」


「チャラすぎるのはちょっと。今度出直してどうぞ」


 明日香、静香、将暉、静男の大学生達も一緒に冒険して良い関係が築かれつつあるようだ。このようにして、異世界の1日が終わった。皆それぞれの異世界の生活が。その時、鈴と高志が遅れてバスに乗り込む。


「太郎が生きてた。太郎君の命の炎が消えかかってたから心配して少し探したんだよ」


 鈴が太郎を抱き締めた。


「ぶーぶー」


 太郎は固まった。やはりあれは夢ではなかったのか?

 それに鈴さんが命の炎がどうとか。それは一体?


「おい。山田太郎とか言ったか。お前の気が感じられた場所の近くで奴の気を感じたんだが」


「奴ってフードを被った人の事か?」


「そう奴だ! 懸賞金8000ルビーの死神ゲイルフォレストだ!」


「死神…俺は知らない何も…ただ襲われたんだ…気がついたら奴は消えていた。夢かと思ったんだ…」


 山田太郎は自分が生きているか死んでいるかさえわからなくなった。あの時の感覚はまぎれもなく死だった。

 太郎はむせび泣いていた。鈴の胸の谷間に太郎の涙がたまり、ダムのようになっていた。小さなダムに。鈴はその涙を指ですくって舐めた。その手で太郎の頭を撫でる。そしてぽんぽんと太郎の背中を叩いたり、さすったりするゆっけ。

 今日は色々な事がありすぎた。時として異世界バスは大忙しだ。

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