新たな乗客
バス停を降りて周囲を見渡す男性。コンビニにスーパーマーケットその近くにある総合体育館と図書館この町は変わらないな。久々に帰ってきた生まれ故郷友人が仕事を紹介してくれるという。その友人と今日は一緒に酒を飲む事になっていて、その店に向かって歩く。すると、同じバスから降りた女性が男に話しかけられていた。
「お姉さん風俗で働かない? スタイルいいし稼げると思うよ」
「え…風俗…」
女性は困ってるようだったが、断れずにいた。
「やあ、待ったかい? じゃあ行きましょうか」
俺は彼女の手を握り風俗のスカウトから逃げるように歩だした。
「行くってどこへ?」
「友人との飲み会です」
「そうなの。楽しみ」
「え…スカウトから助け出す為の口実だったんですが本当に来ます?」
「ええ、暇なので是非。事情があって友達いませんし、とても助かります」
こうして謎の男と女は出会った。同じバスに乗り、同じ場所からやってきた二人。
しばらく歩くと目的地に着いた。浜辺で簡易的な屋根があり、6人が座れる長い椅子が三列並べられている。椅子には次々と人が座りどんどん席が埋まっていく。どうやら前のステージでライブが開催されるようだ。
「よく来たな、田所。ライブ料金5000円座席料金5000円です」
「久しぶりだな、鷺沼」
謎の男は田所要、その友達は鷺沼増尾。二人は高校時代からの友人で同窓会も兼ねていた。座席に座っているのも全て高校の同級生だ。
しかし、随分と高い料金だ。謎の男は店のマスターに文句を言った。
「ライブの料金5000円と座席の料金5000円は高くないですか?」
するとマスターはこう答えた。
「当店ではそのような料金は頂いてないですよ」
「さぎぬまー!」
謎の男田所要は鷺沼に掴みかかる。
「わかったよ。金は取らない。人を集めてイベント開いてやったんだ。少しのマージンくらい貰ってもいいだろう。全くケチな野郎だ。これ以上邪魔するならあの事全員は暴露するぞ」
「勝手にしろどうせ殆どの人は知ってる話だ」
どうやら高い料金は全て鷺沼の懐に入る予定だったようだ。まるで悪質な詐欺のようである。
無駄な料金を支払わなくてよくなり、田所要は安心した。せっかく誘ったのに高い料金を支払わせたら申し訳ない。
「ごめんね、何か揉めちゃって。もう話はついたから安心して」
「ええ。ありがとう。あなたの友達は変わってるね。田所要君だっけ? かなめでいい?」
「うん。呼び捨てで構わないよ。君の名は?」
「私は律子。川嶋律子。りっこでいいよ」
謎の女はりっこと名乗り、かなめと握手をした。
「何か酒飲む?」
「じゃあ、とりあえずビールで!」
要と律子は二人で乾杯した。高校の同級生は誰も要に挨拶をする様子もなく、それぞれで会話して盛り上がっている。
要が律子を誘わなければ要はひとりで過ごすことになっていたかも知れない。同級生達は要を避けている感じすらあった。
「はい。皆注目。同級生のスター神谷薫くんの登場です。さあ、歌ってもらいましょうメジャーデビュー曲なんとかのなんとかー」
「ちょ! 曲目知らないんじゃん鷺沼! しかもメジャーデビューじゃなくてインディーズだから! それでは気を取り直して聞いて下さい。友よ罪を犯しても友達だ。です! 田所出所おめでとう! お前の為に新曲作ったぜ!」
神谷薫は良い人間で裏表もないが、天然である。皆が触れずにいた事に触れてしまった。そう田所要は犯罪を犯して刑務所で服役していたのだ。
「かなめ大丈夫。私も服役してたんだ。改めてよろしくね」
なんと律子も服役していたのたった。二人とも同じ日に刑期を終えて同じバスで同じ街に帰ってきたのだった。
神谷薫のミニライブが終わり、沢山の食べ物と酒を飲み終わった頃にステージに鷺沼が現れた。
「皆注目! これから今回のイベントの目的。異世界バスツアーに参加するよ! 参加費はひとり3万5000円だから!」
「30000円だろ! このさぎぬまがー!」
と叫ぶ神谷薫。「また詐欺ろうとしやがってこの詐欺ぬまがー!」同級生達も叫ぶ。鷺沼はなんだかんだで友人が多いがよく人を騙す癖がある。同級生達もどうせ嘘だろうと思っていたが、バス停が光輝きバスが突然現れて顔色が変わった。
こうして、鷺沼の誘いで異世界バスツアーの乗客が大量に増えたのだった。手持ちの金がない者は鷺沼に10日で50%の利息で借りたが、3日以内で返すのが鷺沼ローンの鉄則なので誰ひとり金利を支払った者はいない。
「異世界バスツアーにようこそ。案内人のアザゼルです。以後お見知りおきを。料金はひとり3万円です。このヘッドセットとボディーカメラを装着して下さい」
鷺沼の紹介で異世界バスツアーに来てしまった高校の同級生達は一体どうなるのだろうか。一方、ボッチ組はというと、全員ゾンビ討伐で異世界から帰っていなかった。
「あー!? 買ったばかりのクレアモアが折れたー!」
ボッチ組の事件と言えばこれくらいのものだった。山田太郎には商才はあっても金運は無いらしい。




