表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界アイテム無双生活  作者: 遊座
第三章 街道
57/174

異世界アイテム無双生活 第57話 二つの光



 街道上空。



「相手は人狼族か。派手にやってるわね……」。


 街道の両脇に広がる森を炎がどんどん焼いて行く。


「これ以上の延焼を防ぐために周囲の木を切り倒しておいた方がいいかしら ? でも……」。


 ラナはちらりと膠着(こうちゃく)している地上の戦闘状況と隣にいる光妖精(ウィスプ)のゾネを見やる。


「ラナ、行ってください。下の方は(わたくし)が加勢いたしますわ」。


 ゾネが胸を張って、(りん)とした声で言った。


「え ? 」。


 ラナは思わず間の抜けた顔となる。


 闇夜では無力となり、モンスターでもない梟にすら餌にされかけた光妖精(ウィスプ)がそれを忘れたかのような発言をしたのだから、当然だ。


「フフ、なんて顔をしてますの ? 大丈夫ですわ ! 今の(わたくし)ならば夜でも戦えます ! 」。


 満月から降り注ぐ静かな光を浴びて、ゾネは銀色に輝き出す。


「……すごい ! でもどうして !? 光妖精(ウィスプ)は夜に光の精霊魔法を使えたの !? 」。


 今度は驚愕の表情となるラナ。


「今夜、あなたに救われて気づいたんです ! 太陽だけが光じゃないって。夜空にも(わたくし)を照らしてくれる光があるって ! そう心が、魂が気づいたら……闇夜でも月の光を受けて光の精霊魔法を行使できるようになっていたんですわ ! 」。


 ゾネは興奮気味の口調とは裏腹に、静かに笑った。


 ()の落ちる前にラナが見た凄絶(せいぜつ)な笑顔とは違って、穏やかで美しい微笑みだった。


(ああ、わかってたけど……(かな)わないなぁ。きっと(かな)わない……私の想いは)。


 妖精族は、おしなべて美しい。


 しかしその中でも光妖精(ウィスプ)は別格であった。


 ラナは小さく嘆息(たんそく)して首を振った。


(……いけない。今はそんなことより行動しなきゃ。それに……コウが私の命の恩人で……妖精族にとって重要な人だってことは変わらないんだから……)。


「……なんて顔をしてるんですか ? 」。


 呆れたようにゾネが言った。


「え ? 」。


「あなたに少しだけ良いことを教えてあげますわ。あなたもコウ様から恩寵(おんちょう)の杯を(たまわ)ったでしょう。限界まで飲んだと思いますけど、その上でさらに無理やりでももう一杯飲んでごらんなさい。そうすると光妖精(ウィスプ)以外の妖精でも『成長』して人間族サイズになることができますわ」。


「そ、そんなことがありえるの ? 」。


 ラナはニ十センチほどの自らの身体を見やる。


「ええ。それから……これはここだけの話なんですけれど……過去に四月の女神様から見初(みそ)められた光妖精(ウィスプ)の中には、そのお誘いを断った者もいるのです」。


 何か国家機密でも暴露するように、その(じつ)、ただ女が言い寄った男に振られたというだけの話をゾネは小声で言った。


「その光妖精(ウィスプ)はどうなったの ? 神罰でも下ったり……」。


 ゾネは首を横に振る。


「いいえ。何もありませんわ。元からの恋人と一緒になったそうです。……ですからコウ様が四月の女神様を拒絶すれば……あなたとも……」。


「ちょっと待って ! いきなり何の話をしだすの !? ……それに、あなた自身はどうなのよ…… ? 」。


「ラナがあまりに落ち込んだ顔をしているので……元気が出るかと思いましたの……。それに(わたくし)は……自分の気持ちがよくわからなくなってしまいました……」。


「どういうこと ? 」。


「コウ様を想う気持ちは確かにありますわ。でも……それと同じくらいラナの悲しむ顔を見たくないって思うのです。……だってあなたは(わたくし)の……大切な……な、仲間というか……いえ……と、と、友達……ですから……」。


 頬を真っ赤に染めて、ゾネは言った。


「ゾネ……」。


「それから……もう一つ気づいたんですわ。あなたやコウ様は(わたくし)にとって光のような存在。でも(わたくし)も光に温められたり、照らされたりしているだけじゃダメだって。(わたくし)自身が光となって妖精族を導いて行かなきゃって。……きっとそれが(わたくし)の……妖精族の王種たる光妖精(ウィスプ)の本分なんですわ ! 」。


 まだ朱の余韻が残る顔で、ゾネは笑う。


 穏やかだけれども、強い、輝くような笑顔だった。


 ラナはすっと彼女の方へ飛ぶ。


 そしてゾネのたおやかな手をとった。


「……あなた一人が全てを背負うことはないのよ。私達はきっとお互いを照らし合って……より強い光になれるはずよ。ううん、私達だけじゃない。妖精族の皆が互いのことを想って温め合って、輝かせ合えば……絶対に負けはしない…… ! 」。


「……ラナ……」。


 綺麗な月と、満天の綺羅(きら)星の光が降り注ぐ中、二人は見つめ合う。


 ふいに地上から、まるで嬌声(きょうせい)のような、なまめかしい獣の咆哮が聞こえた。


 二人はその発声源を見て、苦笑して離れる。


 そして風妖精(シルフ)光妖精(ウィスプ)は動き出した。




 漆黒の人狼の(あぎと)が開き、真紅の竜人の首筋に噛みつく。


 しかしの牙は今までのように竜人の外骨格に食い込むことはない。


 おそらくコウが「ドラゴニュートスーツ」を脱いだ状態でもちょっと痛いくらいの威力。


「……甘噛(あまが)みするんじゃねえええええええ !! 痛くねえけど、なんか気持ち悪いんだよおおお !! 」。


 今の二人は正面からコウが獣人を抱きしめる体勢。


 再び力を込めた両腕の下で、月の光を浴びて回復しつつあった人狼の肋骨がまたしても砕けた。


 そして甘味を帯びた鳴き声が一帯に響き渡る。


 満月の夜、人狼族は不死となる。


 そして九月の女神からより多く恩寵を授かった人狼は痛覚が消えるだけではなく快感となるため、傷つくことへの恐れも消えるのだ。


 肉体への痛みによって戦いへの忌避(きひ)感を起こさせて戦闘放棄させるコウの作戦は不発に終わり、次に発動したのは常に痛覚=快感を与え続けて動きを封じ、朝を待つという作戦。


 それはコウの魔力と精神力を消費しつつ、今の所はうまくいっているようだ。


「コ、コウ !! こいつオシッコを漏らして…… !! 『ドラゴニュートスーツ』にもかかってますよ !! 」。


 ウエストバッグ型のアイテムボックスに宿(やど)った四月の女神の分霊「ポケット」が悲鳴のような音声を発した。


「飼い犬が『うれしょん』をするのは服従心の表れだ !! 問題無い !! 」。


「無いわけ無いでしょう !! スーツを私の中に収納する前に綺麗にしてくださいよ !! 絶対に !! 」。


 憤慨(ふんがい)する「ポケット」。


「……わ、私のことを飼い犬なんて……言わないで…… ! 」。


 抱きしめ殺され続けながら、黒色の尻尾を激しく振り、人狼が抗議の声をあげた。


「ん ? 」。


 その声にコウは違和感を抱く。


「……お前……なんか口調変わってないか…… ? 」。


「だって……部下達の前で……男以上に男らしく振舞わないと……言うことを聞いてくれないから……」。


 潤んだ赤い瞳がコウを見つめた。


「コウ…… ! あなた女性になんて(ひど)いことを…… ! 」。


 「ポケット」が非難めいた音声を発した。


「お、お前 ! 共犯者のくせに、なに無関係の第三者を(よそお)ってんだ !? 」。


 動揺のためか、思わず両腕の拘束が(ゆる)む。


 すると逆に人狼の漆黒の腕がコウの背に回った。


「……放さないで !! 朝までずっと私を抱きしめていなければ、どんな手段を使ってもその竜人の鎧を剥いで、あなたを殺す…… !! 」。


 快楽に狂った瞳が任務も、仲間も全て忘れて、そこにコウだけを映している。


「ひぃぃいい !! 」。


 コウの情けない声がした。


 もはやどちらが優位に立っているのか、わからなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ