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異世界アイテム無双生活  作者: 遊座
第三章 街道
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異世界アイテム無双生活 第50話 男の弱さ


 冷たい月明(げつめい)の下、コウは(まと)った外套(がいとう)型アイテム「フライングコート」によって飛ぶ。


「……一つわかったことがある」。


「……なんですか ? 」。


 ヒモ男の棒(ストリング・ロッド)の糸による拘束を無理やり解くために火魔法であぶられ、黒い金属製のボディに焦げの黒が重ねてデコレートされたウエストバッグ型のアイテムボックスが不機嫌そうに彼の腰から(こた)えた。


「俺は……弱い…… ! 女からの押しに……。どうしようもないほど…… ! 」。


 コウの顔が悲痛に歪んだ。


「……なに自分の弱さを見つめて成長する空気を出してんですか !? まだあなたが女性じゃなくて良かったですよ。もし女だったら言い寄ってくる者全てに(また)を開くとんでもないヤリマン、いえ最早(もはや)ヤリマントルとでも呼ばれるような存在になっていたでしょうからね」。


「なんだその星の地殻(ちかく)を股に沈みこませる宇宙規模の化け物みたいな蔑称(べっしょう)は !? 」。


「さっきも性のプレートテクトニクスを引き起こしそうになってたくせに…… ! 」。


「意味わかんねえよ ! 」。


「あなたなんて魚と一緒ですよ」。


「なんで !? 」。


痴情(ちじょう)で死ぬからです。本当、次あんなことがあったら殺しますよ」。


「……地上と痴情をかけたのか……。全然うまくねえよ…… ! それに元はと言えばお前のせいでこの世界に転移してきたんだぞ ! なんで殺されなきゃならないんだ !? 」。


「そんなの知りません ! プイッ !! 」。


 「ポケット」がそっぽを向いたのを音声で表現して、一旦言い争いは終わった。


 彼らは飛ぶ。


 横に三つ並んだオレンジ色の光に向かって。


 たまたま外に出ていたセレステが見つけた冒険者達の間では「救援求む ! 」のサインを意味するそれに向かって。


 冒険者が何かモンスターにでも襲われているのだろうか。


 人間を救助するのに、人間に敵意を持つ妖精達を働かせるわけにはいかない。


 異変を報告しにきて部屋の中の二人を見たために赤面するセレステに対しコウは人間に好意的な数名だけを光の下に(おもむ)かせるように指示を出して、一足早く飛び出したのだ。


「……あんな場面を見られたけど……冷静に対処したからセレステの俺に対する印象はプラスマイナスゼロだな」。


 コウが全くできていない現状認識を吐露(とろ)している間に、妖精のサラが後ろから彼を追い越していった。


「先に行くから !! 何か胸騒ぎがするの !! 」。


 言葉を残して、すさまじい速さで飛んでいく。




 街道。


 三つの魔法によって作り出された光へと昼間に歩んだ道を走って戻るエルフのセレステと水妖精(ウンディーネ)のスー、そして土妖精(ノーム)のドナ。


 先頭にはジャイアントハーフのチェリーがハルバードを肩に担いだ大きな身体で駆けている。


 このまま走れば、後五分もかからずに目的の場所へとたどり着けそうだ。


「……それにしても良く冒険者の救援要請のサインなんて知ってたわね」。


 チェリーが肩越しに後ろを振り向いてセレステに言った。


「はい ! 冒険者のお客さんが冒険(たん)を話してくれた時に聞いたんです ! たまたま外に出た時に実物を見てびっくりしました ! 」。


 セレステは元気よく返す。


「そ、そう……」。


 「お客さん」という言葉によって彼女が身を寄せていた場所を思い出したチェリーは思わず赤面した。


「な、なんでまた外に出てたの ? 」。


 動揺のせいか、このまま会話を打ち切っては良くないと思ったのか、どうでもいいことを聞いてしまう。


「……月を見ようと思ったのよ。今日は満月でしょ ? そんなことよりあんた実は人狼族の血も入ってるんじゃないの ? 満月の夜に興奮して御使(みつか)いと破廉恥(はれんち)なことしちゃって…… ! 」。


 走るセレステの隣を飛ぶスーが代わりに嫌味付きで答えた。


「……種族を超えた関係って素敵ですよね ! 私、応援しちゃいます ! 」。


 グッと両こぶしを掲げてみせるセレステ。


「あ、ありがと……」。


 さらに赤面して前を向くチェリー。


 さりげなく目配せするセレステとスー。


 会話内容に興味しんしんなドナ。


 そんな彼女達が通り過ぎた後の樹上、一羽の大きな(ふくろう)が音もなく飛ぶ。


 上空に獲物を見つけて。



 光妖精(ウィスプ)のゾネは頼りなく夜空を飛んでいた。


 セレステからコウの指示を受けたわけではない。


 サラとラナに伝えられる所をたまたま陰で聞いたのだ。


「……もっとコウ様の役に立てば……そうすればきっと分霊様も(わたくし)のことを認めてくださるはず……」。


 (うつ)ろな瞳で飛ぶゾネ。


 それは最悪の選択であった。


 なぜなら昼間は最強の光妖精(ウィスプ)も太陽の明るさの無い夜間は光魔法を行使できないからだ。


 今の彼女はただの蝶のようなもの。


 月下を飛ぶ黄金色の彼女に大きな猛禽(もうきん)類が静かに迫っていた。


 人間から見れば可愛らしさのイデアの表れであるかのように思える子猫もネズミからすれば恐ろしいモンスター。


 それと同じく今のゾネにとっては、愛好家も多い梟が恐るべき化け物であった。


「ヒッ…… ! 」。


 片翼の長さだけでも彼女の身長の数倍の長さを持つ猛禽類の接近にようやく気付いたゾネは短い悲鳴をあげて、回避しようとする。


 巨大な脚の爪が彼女のすぐ上で空を切った。


 もし(つか)まれれば、身体はグシャグシャに潰され、その後は彼女からすれば巨大な(くちばし)についばまれ、肉をむしられて餌として食される運命。


 必死で逃げるが、振り切れない。


「嫌 ! せっかくこれからだっていうのに…… ! いやああああああああああああ !!!!!!!!!!!!!!」。


 小さな絶叫が、蒼く冷たい月光の中、響いた。




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