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異世界アイテム無双生活  作者: 遊座
第八章 やがて神へ至る獣
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第24話 たとえあなたが私を重たく思ったとしても



「……どうせお前は都合良く利用されているだけだ ! 以前は奴隷として…… ! 今は戦闘員として…… ! 戦いが終わったらお前は捨てられる ! 」


 全身が白い硬質な鱗で覆われた女は、まるで純白の鎧を纏っているかのようだった。


 茶色がかった黄金の瞳は、彼女が人間とのミックスであることを示している。


「……ミツカイサマハ……ソ……ソンナコト……シ……シナイ……ソ……ソレニ……モシソンナコト……シタラ……ミツカイサマヲ……コロシテ……ボクモ……シヌカラ……ナニモ……モンダイ……ナイ……」


 当人にとっては問題ないのかもしれないが、相手にとって、そして倫理的に問題大ありなことを平然と言いながら、ライノは構えを崩さない。


 その鱗は以前の深い海のような青から、どうしてか赤寄りの紫となっていた。


「ケッ ! 身体だけじゃなくて中味も重てえ野郎だったか ! 」


 試しに仕掛けた精神的揺さぶりがまるで功を奏さなかったことから、ビーネは舌打ち。


「……ソッチコソ……リヨウ……サレテル……ダケジャ……ナイノ…… ? 」


「あ ? 何言ってやがる ? そんなわけねえだろ ! バートのオッサンと私は…………切っても切れない腐れ縁だからな ! 」


 そしてまた爪撃の打ち合いが始まった。




「……なんて固さだ !? おかしいだろ ! 」


 時空を司る悪魔を封じた魔石の力によって極限まで加速された弾丸は、少し前までバートであった蟲人の外骨格によって、いとも簡単に弾き返された。


 それはまるでその男の歪んだ信念の固さそのものであった。


 額から生える一本の角。


 まるで面頬(めんほお)のような外骨格に覆われた顔。


 そこから覗く目だけがどこまでも黒く、暗い。


 身体はどこか戦国武者の鎧を思わせるフォルム。


 色は濃いダークブラウン。


 どうやらカブトムシの蟲人のようだ。


「ククク…… ! 女神の神具の力はその程度か !? そんなことではワシに傷一つ付けることはできんぞ !! 」


 両開きの顎から体液を汚らしく飛ばしながら、蟲人は嘲笑する。


「……まだ会話もできるのか。知性が無くなるってのは嘘だったのか ? 」


「さっきワシが使った『種』は特別性じゃ ! 今知性を無くしてしまっては解放を続けることができなくなるからな ! 全てが終わってから、ワシ自身も……ビーネも解放されるのじゃ ! 」


 蟲人は両手を大きく広げ、挑発的にコウを見る。


(少なくともこの戦闘中に知性を無くすことはないか……あの男に戦闘センスはほぼない。それでもスペックが高すぎる。敏捷性以外、あっちが上と考えた方がいい。……今まで俺が戦ってきた相手もこんな風に思ってたのかもな……)


 今までとは逆で、コウが頼れるのは自身の戦闘経験。


 それだけが明確にバートよりも勝っていた。


 コウは無言でウエストバッグ型のアイテムボックスから一つ魔石を取り出し、胸に嵌めた。


 そして彼以外の時の流れは緩やかになる。


 額に埋め込んだ時空を司る悪魔を封印した魔石の力で。


 振りかぶった右腕は炎と稲妻を纏う。


 そして彼は流星のように飛ぶ。


 音速を超える速度を、バートの複眼はしっかりと捉えていた。


 そして迎撃のために構えを取る。


 それは撃たれた砲弾を殴ることで防ごうとでもする滑稽さがあった。


 ただの殴打なのに、空気が震える。


 流星はそれ見こしていたかのようにわずかに角度を変えた。


 何かが破裂するような音と、舞う金色の外装。


 頬を掠めたバートの拳によって、コウの顔が露わになる。


 それでも彼は止まらない。


 身体を半回転させながら、低く落し、そして先ほどまでとは違い、左腕を伸ばし、バートの右脚に搦める。


(ここだ…… ! )


 胸の白い魔石四つと、青緑色の魔石一つが、輝きを増す。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおお !! 」


 金色の身体が凄まじい勢いで回転した。


 彼がしっかりと両腕でホールドしたままの蟲人の右脚と共に。


 加速した時の中で、破砕音と何かが千切れる生理的嫌悪感を伴う音がゆっくりと聞こえた。


 比較的弱い関節部がその回転に耐えられなかったのだ。


 その一連の動きの代償に、高速道路で脱輪したタイヤの如くどこまでも回転しながら転がっていったコウはようやく体勢を整える。


 彼の視線の先には、右脚を失い、左足だけで不安定に立つバート。


「……やりおるわい。だが右脚が再び生えるまで凌げばいいだけのことじゃ !! 貴様もわかっておるじゃろ !? 貴様の攻撃力ではワシの命には届かないことを !? 」


「取り合えず四肢をもぎとってから考えてやる…… ! そのまま埋めてもいいな ! それにしてもワニ型モンスターのただ勢い良く回転するだけの能力を持つ魔石が役に立つとは思わなかったぜ ! 地球に帰ったらこれを使って世界初の六回転ジャンプを決めるフィギュアスケーターにでもなってやるか ! 」


 ワニ型モンスターが獲物に噛みつき、その後回転してその肉を噛みちぎるデスロール。


 それだけを凄まじいパワーと回転で行うための魔石。


 そんな人間が使い様のないはずの魔石を有効的に使い、一時的に彼は優位に立つ。




(……勝った)


 ライノとビーネは膠着状態にあった。


 それはお互いにとって最悪のケースが、自分がやられて残った味方が二対一の状況になるということであったからだし、互いに味方が一対一の状況であれば負けることはないと信じていたからである。


 今、ちょうどライノの位置からコウの背が見えた。


 そして彼が戦闘中に多弁になっている時は、何かの準備をしているということも知っていた。


 コウがさりげなく背後に回した右腕の形状がどんどん変化してく。


 そして右腕に嵌められた四つの魔石が瞬時に入れ替わる。


 彼が戦闘中にわざわざ手動で魔石を交換しているのは、この時のためであった。


 本当はウエストバッグ型のアイテムボックスの力で、意識するだけで瞬時に魔石を入れ替えることができるのに。


  バートは関節への攻撃に気をとられつつ、また同じ攻撃が、自分が散々防いだ炎と雷の攻撃がくると思っている。


 ライノはそれでも表情を変えることはない。


 緊張も解かない。


 それでも対峙するビーネは不穏な何かを感じとったのか、戦闘中にも関わらず、素早く後ろを向く。


 そして何かを叫ぼうとして果たせなかった。


 ライノがその隙を逃すはずもなく、「重力操作」によってビーネに向かって脚から落ちてきて、蹴り飛ばすこともなくそのまま彼女の腹部に脚を当てたまま、運んでいく、遠ざけていく。


 ビーネが今最も行かねばならぬ場所から。


 ライノが今最も行かせてはならぬ場所から。


「やめろおおぉぉぉおおお !! この脚をどけろ !! このパープル野郎 !! 」


 ビーネが腹部にあてがわれた脚をその爪で振り払おうとしても、ライノがそうはさせじと自らの爪でそれを防ぎ、火花が散る。


(こいつ…… !! 本当にやっかいだ !! 実力もだけど……何よりあの男に絶対の忠誠を持っているところが…… !! あの時……花蜜農家で殺しておけば……あの男と出会うこともなかったのに…… !! )


 ビーネの脳内に、一回り小さく、本来は深い海のような綺麗なブルーの鱗を汚らしく汚し、首に「隷属の首輪」をつけた竜人(ドラゴニュート)の少年が思い出された。


「私達は解放の旅を続けなきゃならねえんだ !! 苦しみに喘いでる奴らを救ってやるんだ !! どうしてそれがわからない !? 」


「……ソ、ソレハ……ミツカイサマガ……コウガ……ヤ、ヤッテクレル……。シンパイ……シナクテ……イイ……。ボクモ……カイホウサレテ……ホントウノ……ボクニ……ナレル…… ! 」


 今は紫色となっている少年の鱗はどうしてか一段と赤みを増した。


「お前…… !? そうかお前は忠誠心じゃなくて……恋心であいつに従ってるのか !? 気色の悪い野郎だ ! 私とオッサンのような健全な関係とは大違いだぜ ! 」


 ビーネも先ほどから「重力操作」を発動させて、ライノの両脚から逃れようとしてはいるのだが、ライノはその方向を脚から感じ取り、まるでサーフボードに乗るようにうまく彼女から転落することを避けていた。


(あいつの右腕……とんでもなくヤバい感じがした…… ! 早くオッサンの所へ行かないと…… ! )


 そんな緊急の状況なのに、どうしてか、彼女の心は彼女の意志に反して過去へ飛ぶ。


「……お前が我が友、メリー・ミルフォードの忘れ形見の一人じゃな」



ここまで読んでいただいてありがとうございます !


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