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見知らぬ男


ドンドン……ドドドドドーン。


「いったぁ……い」


 痛みで地面に這いつくばったまま、上を見上げると、小さな四角い穴と、細い階段が見えた。どうやらそこを落ちてきたようだ。

 痛む背中や腕をさすりながら立ち上がり、懐中電灯を拾って周囲を照らす。六畳くらいの、土壁に空気穴のついた小さな地下室のような場所だ。


 その時、視界の隅で動くものがあった。

身構えて灯りを向けると、白い羽織と藍色の袴、細身だけど背の高い男の人が立ち上がる。つやのある黒髪を後ろで束ね、切れ長の眼につんととがった鼻。光が透けるような真っ白い肌。


 こんな、ずっと開けてなかった所に人なんているはずがない。

あ、でも、もしかしてホームレスが住み着いている、とか? 

じゃ、あの格好は何? 

田舎のホームレスは和服なの? 


……そんなわけがない。


と、いうことは……


たどり着きたくない結論は、その姿を見た時からずっと、頭に浮かんでいた。


これって、幽霊? ……だよね。


彼は私に視線を向けると、まるで、それこそ幽霊でも見たみたいに、眼をしばたき、口を半開きにしたまま、動きを止めた。


「……雪」


 その人は、私の名前を、呼んだ。


「え?」


 なぜこの人は私の名前を知ってるんだろう。っていうか、幽霊に遭遇したんだから、今はとにかく逃げなくてはならないのでは?


頭の中をぐるぐる疑問と恐怖が渦巻いている中、呆然としていた彼の顔が歪んだかと思うと、鋭い眼で私を睨みつけた。


「よくも……よくも俺を……裏切ったな。雪」


裏切った? 初対面の幽霊を?

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