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飴色

「……どういうこと? 魂の力が強くなるって……」


月之丞は影のように暗い笑みを浮かべ、私を見ていた。


「……その香には。霊力を弱める力があるのだ。雪」

「だって……雪さんもつけて……」

「俺の霊力が雪を傷つけないよう、俺が頼んだのだ」


寂しい、昏い眼差しを微笑の中に隠して、私を見つめる。


「気づいていたのだろう? 俺が、本当は人間ではないと」


 白檀の香りの中で、涙が冷たく頬をつたう。

 真っ赤な血だまりの中。ぼろ雑巾のようになった、小さな飴色の毛のかたまり。一面の血の赤の中、そこだけぼんやりと光っていた。


涙を拭っても拭っても溢れてくる。呼吸が乱れ、声が出ない。そう……どこかでわかっていたはずだ。月之丞が、何であるか。彼の体は、もう白檀の白い煙と同じくらい薄く、霞んでいた。


「……噓をついたの? 騙したの?」

「なに、昔から狐は人を騙すもの、と相場が決まっているじゃないか」


軽やかで、儚い、笑い声。

細くて艶やかな長い黒髪に混じり、黄金色の長い毛が耳の形になって現れる。……あの、夢の中の子供と同じ、ぼんやりと光る耳。


「このままではきっと、お前まで不幸にしてしまう。こうするのが一番良いのだ」


月之丞の眼が三日月のように細められたかと思うと、その姿は、煙が空気にとけ込むように薄くなり、やがて、消えた。白檀の香りだけを残して。


「月之丞……」


 目を閉じ、その甘い香りを吸い込む。


再び目を開いた時、私は陽に照らされた地面の上で、蔵の壁を背にうずくまっていた。腕の中には、何か温かいものを抱いている。私の前にかがんだ男の手が差し出される。


「いずれ悪さをするんだ、さ、雪、いい子だから渡しなさい」

「……いやだ」


 私の腕の中で小さく震える子狐は、綺麗な飴色をしていた。

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