現代案内
月之丞さんはむすっと腕組みしていたが、ゆっくりと私を見た。
「……雪。月之丞、でよい。そう呼べ」
「あ……うん。わかった」
彼は子供のようにきょろきょろと車内を見回し、つり革や網棚を触っている。和服姿が目立つのか、車内の乗客の目が集まる。
「あの、おとなしく座りましょうか」
二人並んで座るとすぐ、電車が発車した。
「わぁ!」
その瞬間月之丞が私の腕をにぎり、体を縮めた。一瞬、気のせいか髪の毛が逆立っているように見えた。
「大丈夫、すぐ慣れるから。ほら、外を見て」
月之丞はおそるおそる窓へ顔を向ける。なんだかかわいい。
「おお、なんと。速いな。ほとんど揺れぬし、それになんとも気分が良い」
彼は窓枠に手を置くと、頬を上気させて外を眺め始めた。嬉しそうな顔を見ると、私もなんだか胸の奥が温かくなった。
「東京に行くともっと色んな物があるよ。ね、一緒に行ってみようよ。山みたいに高い建物とか、ジェットコースターとか」
「トウキョウ? それは街の名か?」
「うん。昔で言う、都があるところだよ。月之丞が見たことがない物が沢山あるから、きっと驚くと思うし、でも楽しいと思うよ!」
「……そうか。雪がそう言うなら、そうなのだろう。ぜひ行ってみたいものだ」
「じゃ、約束だね」
「ああ、約束、だ」
月之丞は薄く微笑んだ後、再び窓の外に顔を向けた。その横顔を見ていたら、また昨日の夢を思い出した。月之丞と抱き合っていたあのシーン。私じゃなくて、二百年前にいた、雪さんが。
……抱き合うってことは、二人はそういう関係だったってことだよね。
蔵の地下室で会ってたのは、周りに知られないようにしてたってこと?
うわあ……ロミオとジュリエットみたい。
自分のことじゃないのに、また月之丞の胸の温かさを思い出して、顔が熱くなってきた。
ああ……でも。そうだ。
――よくも……よくも俺を……裏切ったな。雪――
裏切ったって言ってた。一体、何があったんだろう。
月之丞と私は反対方向の電車に乗り換えて戻ってくると、蔵への坂道を登り始めた。




