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中世ヨーロッパ人『森? 切りませんが何か?』

作者: ネムノキ

 中世ヨーロッパ風を謳っている異世界ものの作品で、森の木はバンバン切られていたり、普通に杉が生えていたりするのが多いですが、ちょっと待って、と言いたいです。


 そもそもヨーロッパ、特に中欧や西ヨーロッパ(ドイツやフランス、イギリスのある辺り)で、木を多く切るようになったのは、大航海時代に、船を造るために必要になったからです(断言)。なので、そうでも無い限りそんなに木は切りません(断言)。例外は農地を造るとき、位かな?


 何故断言出来るかって?

 それは簡単です。ヨーロッパに生えて『いた』木は『オーク』、つまり成長の遅く、頑丈で食料を供給してくれる木だったからです。むしろ杉等の針葉樹はほとんど生えていなかったようです。


 察しの良い人は察してくださったかと思いますが、解説します。


 オーク、日本で近い木だとカシの木(ドングリの生る木)は、とっても成長が遅いです。それは、ヨーロッパの風土(乾燥している、寒い、等)も手伝って、日本よりも遅いです。杉なら五十年程で達する太さに、ヨーロッパのオークだと二百年かかるとか、ザラです。むしろ早いかも。そんな木を中世にバカスカ切っていたのなら、大航海時代の頃には木材が足りない計算になります。


 次に、オークの頑丈さ。

 木造船だと竜骨に使われる程、オークは頑丈です。更に、ヨーロッパは地震が少なく、家を建てても長持ちします。それだけでなく、中世ヨーロッパ(五~十五世紀頃)にまともな煙突は存在しない(今のような煙突が登場したのは十四世紀頃。今のものよりは性能が良くなかった模様)ので、建材に使われたオーク材は定期的に燻されることとなり、虫もつきにくかったようです。パンは領主の窯で焼いていたじゃないか、って? 料理しなくても冬場は暖を取りますよ?


 食料供給源としての面ですが、これは主に生ったドングリを豚の餌として、と言いたいですが、貧村ではそのままドングリを調理して食べていたようです。領主でもパンに混ぜて食べることもあったのだとか。つまり、森の木を切ることが、そのまま自分達の食料を減らすことに繫がっていたのです。

 ついでに、豚にドングリを食べさせるために森に放した際、多くのドングリは豚に踏まれて地面に埋まり、そこから発芽して次代の木になっていたのと、オークは切り株から盛んに萌芽(ぼうが)更新するため中世ヨーロッパのオークの森は現在よりも森林の再生する早さは早かったようです。

 その上、意図していたのかは不明ですが、オークが萌芽更新しやすい性質を使って、薪炭林(薪や炭用の人工林)が早くから整備されていたようなので、薪の使用程度ならば森、特にオークの大木のある原生林にはあまり影響が無かったようなのです。


 ここまでオークを推すと、『じゃあ何で今のヨーロッパの森には針葉樹が多いの?』という意見が出てきそうですが、答えは簡単です。

 大航海時代に、船にするためにオークを切り尽くしてしまったからです。それは、オークが減ってくると、竜骨だけオーク材にする、等の手法を持って続けられました。

 ついでに十六世紀から盛んになった製鉄の炭需要と、産業革命の際の木材需要でトドメを刺されました。

 流石にヨーロッパ人も『オークが無くなるとマズい』と思い、オークの植林を進めたりしましたが、ドイツのユンカー達がオークよりも成長の速いトウヒの林業を成功させました(これが林業、林学の始まりです)。結果、木々を切り倒した山にトウヒを植えることが大流行し、オークは姿を消して行きます。

 また、それは、大航海時代にもたらされた『リン酸質グアノ』を始めとする各種肥料の登場や様々な農法(輪作等)の発明で主食である小麦等の収量が劇的に増加した結果、食料品としてのドングリの価値が低下していったことも拍車をかけました。



 色々述べましたが、覚えておいて欲しいことは、

・中世ヨーロッパ世界の木はオーク(ドングリの木)

・中世ヨーロッパ人はそんなに木を切らなかった

・というより木を切ったら餓死しかねないから切れなかった

・大航海時代は色々凄い

 ということでしょうか。


 どうか、参考にして下さい。

キリスト教会の面々が大木を切り倒していった結果、ヨーロッパの人々は森への信仰を無くし、どんどん木を切るようになっていった、という話も知ってはいますが、それの起こった時期を考えると、それはむしろ対イギリスの造船のために必要だっただけじゃないかと考えたり。それに、木材の値段の変動を考えると、オークが無くなったのはどう考えても大航海時代が原因です。それまでは割と再生可能な範囲での伐採でしたし(一部地域はむしろ森に飲まれた時期もありました。ブルガリアの辺りとか)。

後、製鉄で森に影響が出たのは十六世紀頃でヨーロッパだと近世。

ノーフォーク農法は十八世紀だけど、その前身となる四輪作は十六世紀初頭には発明されていた模様。あんまりオークの実美味しくないから、結構必死だったのかなあ?


ちなみに、イギリスでは船の造り過ぎで中世でもオークの森は小さかった模様。



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― 新着の感想 ―
[良い点] わかりやすい、勉強になリました。 [気になる点] ヨーロッパオークに近い日本の木は樫では無く楢です。 水楢が近いと思います。 これは、誤訳のせいだと言われています。 https://hyp…
[良い点] おもしろかったです! 勉強になりました! (生かせるとは言ってない)
[一言] 林業家です。 オークは樫ではなく、ミズナラに近い木ですよ。どちらもブナ科なので近縁ではありますけれども。
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