第七話『正月バトル』
今年最期の投稿になるので、楽しんで読んでいただければ幸いです。
昨年のお正月から始まった、今日行われるこの戦いに俺は武者震いをしている。
俺たちは初詣を済ませ、麗衣奈さんの家でおせちとお雑煮をご馳走になった。これが店が出せるんじゃないかと思うほどすごく美味かった。
「さてさて、翔くんよ。今日の戦いで決着をつけようか?」
「はっ、何が決着だ。一五〇戦七十六勝で俺のリーチだろ?」
俺は茶をすすりながら笑ってみせる。
そう、俺と賢人は昨年の正月から春夏秋冬で定番の遊びで勝負し続けていた。
正月は羽子板バトルで互いに三十勝で引き分け。春はGWにフリスビーキャッチで互いに二十勝で引き分け。夏はプールでの五十メートル競走は互いに三勝で引き分け。秋はテニスで互いに十勝で引き分け。
そして、冬に雪合戦で十一勝と十勝で俺が勝っていた。
そしてこの戦いのルールは二連勝した方が勝ちということだ。
「ああ? 俺がリーチだろ?」
「はぁ? リーチなのは俺だろ?」
「おいおい、盛り上がってるところ悪いが今年は僕もいることを忘れてもらっちゃ困るよ?」
いがみ合う俺たちに着物から私服に着替えた勇が横槍を入れてきた。
「ほーう、引きこもり体質が俺と翔に付いてこれるとでも?」
「そんな風に見てると足元すくわれっぞ?」
「今日は随分と異性がいいじゃねぇかよ。だったら今までの勝負記録は全部消して俺と賢斗と勇で仕切り直すか?」
俺たちのあいだで火花が見えそうなほどの睨み合いが繰り広げられる。
「そうと決まれば話は早い」
「これは楽しみだ」
「二人とも僕の見た目に足元すくわれないことだね」
「「「表でやがれ!!!」」」
俺たちは叫び家の外に出た。
「一体何が始まるんだろう……」
「りん、私たちも行こ!」
唖然とする凛ちゃんの手を引きメリーも俺たちに続き外へ出る。
一方貞子と奈々夏は麗衣奈さんに料理を教えて貰っていてこっちの会話には見向きもしなかった。
「羽子板バトルを三人用へルール変更した!この円を三等分し自分の陣地に入った羽をどちらか二人に返す。相手が取れなかったら一勝だ。勝利条件は人数が増えたから三連勝だ」
賢斗が声高らかにルールを説明し三人で円を書き三等分した。
先行は賢斗からだ。板の上で羽を何度か打ち上げ高く上げた瞬間、全力のサーブを俺に打ってくる。
打たれた羽は正月の羽子板という言葉から連想されるイメージとは違い尋常じゃなく速い。
俺は打たれた羽を横からバックハンドで打ち無理やり軌道変換し勇へ打つ。
勇は必ず俺たちの羽の速さに度肝を抜かすだろう。なんせ俺たちの羽子板のスピードは学校の野球部、テニス部、バトミントン部の各種目のエースですら板に当てることも出来なかったんだからな。
しかし、勇の口角が微妙に上がる。
「甘い!」
「「なっ!」」
打ち返した羽は賢斗の元へ飛ぶが賢斗は驚きの余り身動きが取れず、羽が地面についてからようやく体が少し反応した。
羽を拾い賢斗は冷や汗を隠しながら不敵に笑う。
「これは……流石に驚いた。俺達も本気でやらねぇと負けるな」
賢斗の言葉に勇はくるくると回していた羽子板を俺たち向ける。
「僕の動体視力を舐めなるなよ? 僕を誰だと思ってる、プロゲーマーのトップランカーだぞ。これくらいのスピード問題ない」
こんなところで思わぬ強敵が現れたな。賢斗だけでも厄介だというのに。だが、勝つのは俺だ。
次のサーブは得点を決めた勇からだ。
賢斗ほどのスピードではないが確実に嫌なところを狙ってくる。
互いに相手の嫌なところへ打ち、体力を削り続ける。
十戦目を超えたあたりから高速のラリーは八分以上続くようになり、俺も賢斗と勇も方で息をしだし、賢斗に至ってはタンクトップ姿になっている。
メリーと凛ちゃんは俺たちの壮絶すぎる戦いに終始唖然としている。
「はぁ……はぁ……お前らやるじゃねぇか」
「なんだ?翔も勇ももう体力切れか?」
「はっ、何言ってんの……? 僕はまだまだ行けるぜ」
「そうだ。そう言う賢斗こそ、そろそろやばいんじゃねぇのか?」
互いに馬鹿みたいに強がり延々とラリーを続ける。
飛び交う羽の速さは変わらず全神経を集中させないと簡単に決められてしまう。
「なんだか、楽しそうなことしてますね」
「あ、ホントだ。私達も混ぜてよ」
「ふふふ、こういうのもいいものですね」
家から出てきた貞子たちが言ってきたが戦いの途中であり誰一人返事をしなかった。
「うわぁ……羽子板の画じゃありませんね」
貞子の言葉に「いつもの事よ」と呆れ気味に言葉を漏らしたところでラリーが途切れ、休憩がてら男対女の3対3の試合をすることになった。
「翔さん、手加減なんてしなくていいですよ?」
「賢斗くん、私も本気で行くからね」
やる気満々の二人とその後ろでサーブをしようとしている麗衣奈さんはうふふと優しく笑っている。
適当に手加減をしようという話になっていだが俺たち三人は敵の戦力を完全に見誤っていた。
麗衣奈さんは羽を高々と上げ、打たれたサーブは異常なまでのスピード。その速さは賢斗以上だった。
「「「へっ…?」」」
俺達は同時にすっとんきょうな声を出した。羽が地面に突き刺さっている。
「ちょっと集合」
賢斗に呼ばれ俺と勇は賢斗方へ行く。
「これはやばくないか?」
「賢斗そう思うよな? 俺達も本気で行くか?」
「でも強いのは麗衣奈さんだけかもしれない……」
「いえーい!」と仲良くハイタッチをしている三人を見て決めた作戦はとしては貞子と奈々夏を狙う予定だったんだが、
「それ!」
「えい!」
バシュン! ピシュン! と貞子と奈々夏にも凄まじい速度で返された。
「よし、集合」
再び賢斗の元へ集まる。
「ダメだ。これは全力で行かねぇと負けるぞ」
「よし、本気で行こう」
「今回の勝負はお預けで目の前の敵を僕達で倒そう」
そこからというもの凄まじい羽のスピードになんとか食らいつき返しつづけるも、
「うそ……だろ?」
「俺達が負け……た」
「僕の動体視力が追いつかない…?」
結果は37対3と惨敗。
俺達があまりの結果に声も出ないでいると貞子と奈々夏が優しい声で話しかけてきた。
「皆さん、羽子板はまだ終わってませんよ?」
「そうそう、羽子板はここからが本番でしょ?」
二人の言葉に意味が分からず俺たちは顔をあげると墨と書かれた黒い瓶を持った麗衣奈さんと嬉しそうに筆を一本ずつ持つメリーと凛ちゃん。
「本番って……」
「おい、嘘だろ?!」
「まさか、僕にも!?」
俺たちは逃げようとした瞬間、奈々夏が後ろに回り込み結束バンドで両手足を縛られた。
「お、おい! 奈々夏! やめろ!」
「おいおい、貞子それはねぇだろ?」
「あぁ……あぁ……」
俺たちの反応を楽しそうに見ながら貞子は墨をつけた筆を向ける。
「安心してください。服にはつけませんし、ちゃんとれるやつです」
「ちが! そうじゃなくて!」
ダメだ。もう既に筆は俺たち三人の目の前にある。
「「「ギャァァァァァア!!」」」
正月の澄んだ空気に三人の断末魔が響いた。
最後まで読んでいただき有難うございます。
今年も色々ありましたがしっかりと年明け前に投稿できて満足と言いますかなんというか。
来年からも頑張って投稿していくので次の話も楽しみに待っていただければ嬉しいです。
それでは良いお年を。