第六話『年越しは皆で』
今回は少し遅くなりましたが年越し回です。
楽しんで読んでいただければ嬉しいです。
年越し前日に凛ちゃんの家から帰ってきたメリーは少し大きな紙袋を持って帰ってきた。
「おかえり、その紙袋どうしたんだ?」
「りんが一緒に年越し着物着て年越ししよって言って貸してくれた」
「そっか、良かったな」
俺はメリーの頭をクシャりと撫でるとメリーは何かもじもじとして何か言いたげな感じだった。
「あの……りんが翔と貞子先輩も一緒にどうって言ってくれた。一緒に来てくれる?」
なんだそんな事か、そんな事だったら全然行っても構わないな。
「ああ、いいぜ。貞子もいいよな?」
台所で夕食の準備をしている貞子にも一応聞いてみる。
「いいんじゃないすか? 年に一回のことなんですし」
そうと決まれば俺はこの家からあれを探し出さないとな。
夕食を済ませ貞子が紙袋の中の着物を眺め眺めている。
「翔、着物の着方わかる?」
「ああ、一応分かるけど自信ないな……貞子は?」
「もちろん余裕ですよ」
「じゃあ、一度着せてみてやったらどうだ?」
それもいいですね、と貞子は快く返事をしてメリー持つ紙袋を受け取った。
俺は部屋を出ていき、メリーと貞子が部屋から出てくるのをこたつの中で待った。
貞子は手際良くパパっと帯を結び、長い髪をお団子にして簪を刺した。
部屋から出てきたメリーを見て少し驚いた。
メリーの銀髪がよく映える黒を基調とし、金の刺繍がされたかなりに立派な着物だった。これを選んだメリーの友達はかなりのセンスだな、めちゃめちゃにあってる。
「うん、いいじゃないか似合ってるよ」
「そうですね。とても可愛いです」
俺と貞子に褒められメリーは照れくさそうにはにかみながら微笑む。
「よし、貞子お前もちょっと待ってろ」
俺はそう言って別の部屋へ向かう。
確かこの部屋に母親が置いていった私物がいくつかあったはず、理由は外国で着物など着る時もないから虫に食われたりしないように、しっかりと片付けている。
「確かここら辺に片付けてたよなぁ」
押し入れをガサガサと漁ると、ようやく和紙で作られた丈夫な箱が出てきた。
「お、あったあった」
箱をリビングに持っていき蓋を開ける。中には赤と黒を基調とした落ち着いた雰囲気を感じる大人な着物が入っていた。
「あの、これは……?」
貞子が少し困った顔で聞いてくる。
「俺は俺の母親のだったんだけど、せっかくだし着てみるか?」
「え、いいんですか?」
「せっかくだしな」
嬉しそうに着物を眺める。
「似合いますかね?」
「似合うだろ、お前の髪とか綺麗な黒だしこの着物にもぴったりだろ」
「綺麗ですか……」
毛先をいじりながら少し顔を赤くしているが何を言ったかまでは聞き取れなかった。
「お前も一度来てみたらどうだ?」
「は、はい。じゃあ、着てきます」
そう言いながら貞子は着物を持って部屋の中へ入っていった。
15分ほど経って部屋から貞子が出てきた。
「着てみましたけど……どう、ですか?」
部屋から少し照れ臭そうに出てきた貞子はいつもとは違う雰囲気でとても似合っていた。
腰まで届いていた長い髪を綺麗に束ねあり、白装束とも言えるような格好の普段とは真逆の黒と赤の着物は普段より大人っぽさを感じさせる。
「似合ってるんじゃないか? すごく綺麗だ」
「そ、そんな本気の顔で言わないでくださいよ……でも、ありがとうございます……」
貞子とメリー、この二人が年越しに神社を歩けばさぞかし人の目を引くだろうな。漆黒の髪に純白の髪、目立って仕方が無い。
今年の年越しは少し賑やかになりそうだ。
そして待ちに待った十二月三一日、俺たちは年越しそばを食べ終え午後10時くらいに神社へ向かった。
幸い俺の家の近くに大きな神社があったおかげで寒い中歩き回る羽目にはならなかったがやはり年越しを神社で使用とする人は多いらしく、あたりはかなり賑わっている。
「あ! メリーちゃーん!」
手を振りながらこちらへ来る着物姿の少女とおっとりとした女性。
なるほど、あの子が凛ちゃんって子か。
「りん、こんばんわ。着物ありがとう」
「全然いいわよ。やっぱりメリーちゃんによく似合ってる!」
これはまた可愛らしいお友達だこと、それにこの女性はいったい?
「初めまして、凛の姉の麗衣奈です。妹がいつもメリーちゃんと仲良くしてもらってて、ありがとうございます」
「あ、いえいえそんな。こちらこそはじめまして。えっと……メリーの……保護者の御船 翔です」
どう名乗るか少し迷ったが保護者ということにしておこう。
保護者? と少し首を傾げる凛ちゃんのお姉さんの麗衣奈さん。
俺に続いて貞子も同じように挨拶をする。
「メリーの姉の貞子です」
へぇ、お前いつからメリーのお姉ちゃんになったんだ。
「はじめまして、小坂 凛って言います!」
凛ちゃんは俺の近くに来て丁寧に挨拶をしてくれる。
「はじめまして、メリーから色々話は聞いてるよ。メリーと仲良くしてくれてありがとな」
優しくほほ笑みかける。
そんなやりとりをひと通り済ませ神社の中へ入っていくと見知った顔ぶれがあった。
出来れば、いや、絶対に今会いたくない奴がいる。
俺はそっとそいつらから距離をおこうとするが時すでに遅し、俺の存在に向こうが気づいた。
「おーい! 翔じゃないか! お前がわざわざ来るなんて珍しいな!」
こっちに向かってくるのは賢斗とその彼女の奈々夏だ。
「あ、奈々夏さん、奈々夏さんも年越しですか?」
「え?」
俺よりも先に貞子が奈々夏に話しかけた。
「貞子じゃーん、貞子も来てたんだね!じゃあ一緒に年越し越そうよ」
「え?」
今度は賢斗が俺と同じような反応をする。もう何が何だか。
「お、おい奈々夏。お前貞子と知り合いなのか」
「貞子、お前奈々夏と知り合いなのか?」
「え? 賢斗くんも貞子と知り合いなの?」
「翔さん、奈々夏さんと知り合いなんですか?」
少しフリーズして三人が同時に貞子の方を見る。
「え、私が説明する感じですか?」
うーん、少し唸ったあと貞子は顔を上げて説明を始める。
「奈々夏さんとは私が良く行くスーパーでバイトしていて買い物の時に会うんですよ」
「そうだったのか」
「ああ、バイト先で仲のいいお客さんって貞子のことだったんだ」
そんな話になっていたのかお前らカップルのあいだで。
「貞子と翔くんはどんな関係なの?」
「どんな関係って私翔さんのいそう……」
そこまで言いかけて貞子は恐る恐る俺の顔を見て本気でビビる。無意識に本気で睨んでいた。
「えっと…その…バ、バイト先が一緒なんですよ!」
なんて苦しい嘘だ。
それでも、一緒に住んでるなんてバレたら…いや待てよ、既に賢斗にバレてんじゃん。ここは賢斗が気を利かすのを信じるしか、
「貞子バイトしてないんじゃなかった?それにお前ら一緒に住むような関係だろ」
俺の願いは無残にも散った。
賢斗の言葉を聞いて一瞬目を丸くした奈々夏はすぐさま表情を変え、ニヤニヤと俺と貞子、特に俺の顔を覗いてくる。
「ああ! もう! ニヤニヤするな!」
俺は手を振り回し、近くにある賢斗と奈々夏の顔を離しワイワイ楽しそうに話しているメリーと凛ちゃんの元へ行った。
二人揃って眺めていたのはお守りだった。
「欲しいのか?」
メリーは後ろから話しかけられ、肩を大きく揺らしすぐさま持っていたお守りを元に戻した。
「う、ううん。見てただけ」
「そっか、お姉さんこのお守り二つちょうだい」
「はい、ありがとうございます。800円なります」
俺は受け取ったお守りをメリーと凛ちゃんに渡した。
「ほら、二人でお揃いの持ってな。学業祈願のお守りだ」
メリーと凛ちゃんは顔を見あわせてにっこり笑い
「「ありがとう!!」」
「あらあら、翔さんすみません。お金渡しますね」
麗衣奈さんは申し訳なさそうに財布をカバンから出す。
「いえいえ、いいんですよ。こういうのは記念ですから」
それでも払おうとするかは無理やり財布を片付けさせた。
「しょーう!」
突如後ろから聞き覚えのある女の子っぽい声が聞こえたかと思えば背中に思いっきり抱きつかれた。
慌てて振り返ると可愛い女の子、ではなく可愛い男の娘だった。って男の娘なんだから可愛いのは当然か。
「おい、勇。急に抱きつくな、色々お前だと誤解されかねん」
「フッフッフッときめいたか?」
「お前が女の子ならな。とっとと離れろ」
離れた勇を見れば驚きの格好だった。
「お前、女物の着物って」
「似合うだろ?」
ひらりと振袖を揺らしてみせる。しかし、悔しいくらい似合っている下手をすればそこらの女子より可愛い。
「翔この人は?」
勇を見てメリーが食いついてきた。
「こいつは同級生だ。ちなみに男な」
「おとこ? え? え?」
わかりやすく困惑している。
ざっくりと説明すると首をかしげながらもなんとなく納得する。
年越しまであと10分程になった。
「そろそろ年越しますね」
みんながワイワイしてるなか、少し端の方で貞子と二人きりになった。
「そうだな。ほんと思い返せば非日常的だったな」
「アハハ、確かにそうですね」
時間が経つにつれてあたりはどんどん騒がしくなってくる。
そろそろカウントダウンが始まりそうだ。
「年越しまで残り10秒!」
どこからか聞こえる声でいっせいにカウントダウンが始まる。
メリーや凛ちゃん、賢斗と奈々夏、勇も叫んでいる。
残り一秒
「いち!」
最後の一声は貞子も大きく叫んだ。
「あけましておめでとうございます!」
「ああ、あけましておめでとう」
去年は面白かったから今年も面白くなるだろうな。
「貞子、今年もよろしくな」
「はい!よろしくお願いします!」
今回も読んでいただきありがとうございます。
今年もあと8日間で終わってしまいますね。
今年も色々ありましたがなんてしみじみ今年を振り返りながら小説のネタを考えている今日この頃です。
年越しまでにもう1話書けたらなと思いますがどうでしょう、書けるように頑張ります、なので次回も読んでいただければ嬉しいです。