第五話『クリスマスイブのその後』
今回は前回の話の次の日の話です楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
俺が目が覚めた時にはもう日が昇っていた。
昨日のことははっきり覚えていないが、貞子に何かしようとしてなんとか耐えたことは憶えている。何をしようとしてたかは忘れたが。
「はぁ〜、すっげぇ頭痛い」
のろのろとベッドから起き上がり、部屋から出るとメリーがいそいそとなにか準備をしていた。
「えっと……凛ちゃん? の家に行くんだよな?」
「うん、プレゼント交換するの」
そう言って綺麗にラッピングされた四角い箱を俺に見せてきた。
やはりクリスマスパーティーは昨日ではなく今日だったらしい。
「そっか、昨日は一緒にご飯食べれなくてごめんな」
「ううん、翔は体調悪そうだったから仕方ない」
少し寂しそうな表情をするメリーを見て悪いことをしたな、と思った。
「そうだ、コレはプレゼントだ」
俺はメリーに小さな箱を渡した。一応赤い紙に包み、多少のラッピングはしている。
「翔からのプレゼント嬉しい。開けていい?」
「もちろん」
本当に嬉しそうな笑顔を浮かべてラッピングを外し、箱の中身を取り出す。
「わぁ……綺麗……」
メリーが手に持っているのは真ん中に白色の宝石が入ったブローチだった。
入っている宝石はいったいなんなのか分からないが露店で見つけたもので手に取ってみればいいものだったからプレゼントにしてしまった。
「気に入ってくれたか?」
「うん!」
メリーはトタトタと台所にいる貞子の元へ行き嬉しそうに俺からもらったと言っている。
いつもなら俺に話しかけてくるのに今日は目すら合わせようとしない。
「メリー、そろそろいかないとダメなんじゃないんですか?」
「あ、ほんとだ。これ付けていくね」
メリーは自分が巻いているマフラーにブローチをつけて玄関へ向かう。
「メリーを送ってきますね」
「お、おう。気を付けていけよ」
どうしても返事がぎこちなくなってしまう。
貞子も貞子で俺と本当に目すら合わせずに家を出て行った。
「ねぇ、貞子先輩」
「はい? なんですか?」
「翔と喧嘩したの? 昨日部屋から出てきてからなんだから貞子先輩様子がおかしい」
不安そうな表情をする。
貞子はそっと微笑み、しゃがんで目線をメリーに合わす。
「大丈夫ですよ。だから、メリーは心配しないで楽しんできてください。ほら、お友達が外に迎えに来てくれてますよ」
家から出てきた凛がキョロキョロと辺りを見渡し、メリーの姿に気づき走って迎えに来ていた。
「メリーちゃんこんにちは。えっと……この人は?」
「えっと、この人は……」
「メリーの姉です」
どう説明しようか迷うメリーを見て貞子は笑顔で答えた。
「そ、そうなの。私のお姉ちゃんなの」
「そうなんだ。はじめまして私小坂 凛っていいます」
「ふふふ、丁寧にありがとうございます。メリーと仲良くしてあげてくださいね。それじゃ私は帰りますね」
貞子は手を軽く振りながら来た道を戻って行った。
「メリーちゃん、行きましょ」
凛に手を引かれながら、メリーは凛の家に入っていった。
「ただいまぁー!」
「お、おじゃまします……」
「あらぁ、可愛いお客さんだこと。いらっしゃい」
凛とメリーを迎えたのはおっとりとした表情に栗色でフワッとしたパーマが暖かい雰囲気を醸し出している女性だった。
「お姉ちゃん、こちらが御船メリーちゃんだよ」
「は、はじめまして御船メリーです」
「はい、いらっしゃい。凛のお姉ちゃんの麗衣奈です。凛と仲良くしてくれてありがとね」
麗衣奈は貞子とは少し違った雰囲気の優しい笑顔をメリーに向ける。
「さぁ、まずは手を洗ってらっしゃい。早めのお昼にして、後でケーキを食べましょう」
「「はーい」」
メリーは凛に洗面所の場所を教えてもらい一緒に手を洗った。
ダイニングテーブルにはフライドチキンやフライドポテトにサラダなど、豪勢な料理が並べられていた。
「わぁ……美味しそう」
「お姉ちゃん、料理がとても上手なんだ」
メリーと凛は隣り合うように席に座り、豪華な食事を食べたる。
どれもこれも店を出せるレベルの美味しさで、メリーと凛は次々と食べ物を口へ運ぶ。
貞子は帰る途中に小さくため息をつく。
家に着いた貞子は胸がとても苦しかった。昨日の一軒からまともに翔を見ることが出来ないほど緊張していた。
「はぁ〜昨日のあれは本当になんだったんでしょう。からかってたんですかね」
ブツブツと呟きながら家の中に入る。
「今戻りました」
貞子が帰ってきて、俺の緊張は一気に頂点まで達した。
昨日俺が何をしたのか聞くべきなのか聞かないべきなのか本気で迷っていた。
貞子が部屋に入ってきてコタツに入るが、続く無言。物凄く気まずい。
どうする、なにか話しかけるのが正解なのか?
「な、なぁ貞子?」
「は、はい!?」
話しかけられて貞子もビクりと肩を動かし反応する。
「そ、その、昨日の事なんだけどさ。悪かったな、友達に食わされたものが悪くてあんな風になっちまったんだ。それに、俺あんまり昨日のこと覚えてなくて……ごめん……」
「そ、そんな! 謝らないでください! わ、私も……その……少し雰囲気に流させれてしまいましたし……」
貞子の顔は驚くほど真っ赤になっていた。
普段俺に一緒に寝ようとか行ってくる割にはこういうのには弱いのか?
「その、やっぱり翔さんには私に対してそういう気持ちは一切無かったんですか?」
「へっ!?」
あまりに突飛な質問に俺は変な声を出してしまった。そしてこの言葉が引き金となって自分が何をしたか思い出した。
そういう気持ちってどういうことだ?!俺が貞子に惚れてるのかってことなのか、それとも俺が俺の意思で襲おうとしたのかってことなのか?多分後者だよな。
「あ、ああ。そういう気持ちは……な、無い……と、思う」
と、思うのところは小さい声で言いすぎてほとんど聞き取れる音になっていなかった。
「そ、そうですか……」
え、なんでちょっとしょげてるんだよ。分かんねぇ、でもこのままは不味いなにか話題を変えないと、そうだ。
「貞子、これ本当は昨日渡すつもりだったんだけど渡さなかったから」
俺は貞子に紙袋を渡した。
「私に、ですか……? でも私は翔さんにクリスマスは料理しか振舞ってませんよ?それに、翔さん食べれませんでしたし」
「気にするな、さっき残ってたの食べたしそれで俺には充分すぎるプレゼントだ」
「翔さん……ありがとございます」
貞子は紙袋を開け、中身を取り出した。
「マフラー?」
「ああ、お前持ってなかっただろ?」
「ありがとう……ございます……!とても、とても嬉しいです」
貞子はきゅっマフラーを抱きしめながら喜んだ。
こんなに喜んでもらえたなら慣れないプレゼント選びを頑張ったかいがあるな。
俺が満足していると、貞子は俺の横でぴったり肩が当たるくらいまで寄ってきた。
「その、朝はすみませんでした……私どう接していいか分からなくて」
「そんなこと気にするな。俺だってどうしたらいいか分からなかったから」
嬉しそうにマフラーを眺めたり、テレビに映るクリスマスの特番を見たりと忙しそうに貞子は首を動かしていた。
貞子のこういう仕草は俺の胸をいちいち苦しくする。
この心拍数はあのチョコの効果がまだ続いてるんだな。気を付けないと今度こそ取り返しのつかないことになりそうだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の話はもう少しメリーの話を増やしても良かったかなと思ったんでが、こういう形でまとまりました。
それにしても、最近本当に寒くなってきまして、私の住んでるところでは気温がマイナスいくとかいかないとか。
それでは今回はこのくらいにしておきます。次回も読んで頂けたら嬉しいです。