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職業幽霊の同居人  作者: 方角ノ辰巳
4/21

第四話『忙しいクリスマスイブ』

投稿するのが遅くなりましたが、ちょっと先取りのクリスマスのお話です。

楽しんで読んで頂けたら幸いです。


 十二月、それは全ての人が心待ちにしているイベントが起こる月。イベントの名はクリスマス。しかし、俺は少しこの日が嫌いだ。いや、正しくは少し嫌いになってしまった。


 去年のクリスマス。俺はクリスマスという素晴らしいイベントを給料三〇〇円アップという神(店長)の凄まじい言葉に惑わされ、シフトを入れてしまった。それも午前十一時から午後二十時までの8時間労働と一時間半の休憩という内容だった。

 稼いだ、ものすごく稼げた。ここまでは別に辛くもなんともなかった。クリスマスをぼっちで過ごした理由だって作れたんだから、本当に辛かったのはここからだった。


 午後九時、イルミネーションに照らされた街はカップルや友達同士で笑い合う声が聞こえる。

 右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても誰しもが楽しそうにしている。


 何やってんだろ、と自分に対して猛烈な嫌気がさした。


 だからといって今更どうしようも無く、ケーキだけを買って帰り一人で食べた。

 俺はクリスマスが嫌いになった。でも今年は賑やかだ、クリスマス二日前にして特にメリーは嬉しそうだった。

 

 「明日、りんの家のクリスマスパーティーに誘われた」

 「りんって学校でできた友達か?」

 「うん!」

 

 嬉しそうに頷く。

 

 「パーティー行ってもいい?」

 「ああ、もちろん行ってきな」

 

 メリーの表情がパァっと明るくなる。

 最初の頃はあまり笑顔も見せず嫌われてるのかと思ったがだいぶ懐いてくれたな。

 

 「晩御飯も食べてくるのか?」

 「ううん、お昼ご飯は一緒に食べる」

 「そっか、じゃあ晩ご飯は少し豪華にしようかな。な? 貞子」

 「そうですね、せっかくだから大きなチキンでも買いますか」

 

 俺とメリーは貞子の意見に賛成し明日の晩ご飯はチキンになった。

 よくよく考えればクリスマスイブだけどクリスマスパーティーなんだなって子供のパーティーにそんな細かい事なんてどうでもいいか。


 次の日、今日は冬休み最後の冬期講習。

 学校ではこのあとの予定の話で持ちきりだった。そう、なんと言っても今日はクリスマスイブだ。

 

 「なぁ、翔は今日どんな予定だ?」

 

 賢斗はいつも通り俺の机の上に座り、モンスターとオセロのソーシャルゲームをしながら何気なく聞いてくる。

 

 「チキンとケーキ食うくらいかな」

 「貞子さんとメリーちゃんと?」

 「ああ、メリーは友達とクリスマスパーティーらしいが」

 

 賢斗にはメリーと貞子の事はちゃんと話した。

 あの日の誤解を残したままなんて洒落にならないからな。もちろん貞子とメリーが幽霊であることも全てだ。

 

 「俺はどこ行こうかなぁ」

 「奈々夏と一緒に過ごさないのか?」

 「奈々夏とどこに行こうかなって話だよ」

 「ああ、そうですか」

 

 くそ、俺だって彼女が出来たらクリスマスをもっと高校生らしく青春してるからな!

 

 「相変わらず一緒にいるな、お前らは」

 

 突然後ろから話しかけてきたのクラスメイトの水沢(みずさわ)(ゆう)は俺たちとよくつるんでいる。

 勇は髪の毛が少し長く、俺や賢斗、いや、場合によっては女子と比べても華奢だ。それに顔立ちも整っている。わかりやすく言えば男の娘だ。

 

 「勇、お前は今日の予定は?」

 

 賢斗は俺に聞いた時と同じように勇に聞く。

 

 「予定? そうだなぁ。ネトゲのクリスマスイブイベントを徹底的にやり込むかな」

 

 そう、こいつは見た目はほぼ女の子で声は中性的、女子(男も)からモテないわけがない。

 特に年上の人からよくモテる。しかし、こいつはネトゲ大好きの引きこもり体質だ。

 まぁ、こんな趣味はまだまだ全然いいんだが問題なのがもう一つの趣味だ。

 

 「なぁなぁ、聞いてくれよ! いつもの掲示板見てたらこんなの出てて思わず買っちまったよ!」

 

 勇が見せてきたのはチョコレートのようなお菓子だった。

 

 「なんだこれ?」

 「惚れチョコ」

 

 俺の耳が悪くなったのか変な名前が聞こえたな。惚れチョコ?へぇーそんなんが今どきあるんだ。

 俺は話題をそらそうとしたが、

 

 「食べてみてよ」

 

 遅かった。


 こいつの一番厄介な趣味は変な掲示板で売られているいかにも怪しい商品を購入し自分が使ったり食べたりする前に必ず俺たちを実験台にすることだ。

 

 「嫌に決まってるだろ。賢斗が食えよ」

 「俺だって嫌だよ」

 

 俺達が言い争っているあいだにも勇は嬉しそうに商品の説明をしだした。

 

 「このチョコは自分が誰に想いを寄せてるかわかるチョコらしいんだよ。でも、反応した=好きって訳じゃなさそうなんだ。だからどうなるか試してよ!」

 「へぇ、だったら彼女のいる俺が食っても意味の無い商品だな。翔! 食え!」

 「ふざけんな! モガっ!」

 

 振り返った瞬間、口の中にチョコレートを押し込まれた。

 最悪だ食べちまった。

 俺が飲み込むのを確認すると、二人はどうだと興味津々で聞いてくる。しかし、体になんの変化もない。女子を見渡しても一向に苦しくならない。しかし、アルコールが入っているのか体が少しホカホカする。

 

 「特に何も無いな」

 「むぅ、つまんないなぁ。ここで翔が我を失って女子を襲ってくれれば面白かったのに。なんなら、俺を襲ってくれてもいいんだぜ?」

 

 ふざけるなと思いながら時計の針を見れば午後四時半を指していた。

 そろそろメリーも家に帰ってくる頃だろうし帰るか。

 俺は荷物をまとめて教室を出た。賢斗は奈々夏と帰るということで解散し、勇は俺と反対方向の家のため正門で別れた。

 体が凄くホカホカするな、あんまし寒くないや。

 周りがコートに身を包んでいるのにも関わらず俺はブレザーすら脱いでいた。

 いつもの帰り道。普段なら夏でもない限り汗をかくことなんてない緩やかな道なのにチョコのせいなのか少しだけ汗ばんでいる。


 「はぁ〜ただいまぁ」

 「おかえり」

 「貞子は?」

 「貞子先輩はチキン買いに行ってる」

 「そっか」

 

 家に入り買ってきたケーキを冷蔵庫に入れ、メリーのいるリビングのこたつに潜り込んだ。

 

 「ふあぁぁ〜あったけぇ」

 

 体がホカホカしていると言ってもやはりこたつの温かさは狂気的だ。

 

 「翔、はいこれ」

 

 メリーは剥いたみかんを一房俺に向けてきた。

 

 「お、サンキュー」

 

 メリーがくれたみかんをくわえた時、ふとメリーと目が合った。普段ならそんなこと些細なことで目が合う事なんてしょっちゅうある。それなのに、ドクン、と大きく心臓が鳴った思えば、何度も何度もなり続ける。

 普段よりも明確にはっきりと心臓の音がわかる。

 なんだよ、これ。息苦しくて、体がさっきより暑い。

 

 「翔? どうしたの? 顔赤いけど熱ある?」

 

 メリーが心配そうに俺に擦り寄ってくる。

 

 「う……うわぁ…」

 

 熱を測るためか俺の額に自分の額を当てる。もちろん、幼くも可愛らしい少女の顔が目の前にある。

 心拍数はどんどん上昇していき、どんどん息が荒れていく。

 まさか、惚れチョコの効果か? 嘘だろ俺これじゃロリコンじゃん!

 

 「翔……苦しそう……」

 

 俺は心配そうに俺の顔を覗き込むメリーの柔らかな肌が触れる。俺は慌てて華奢な両肩を掴み、グッと突き放した。

 いやいや、惚れている人に反応するとは限らないって言ってたし大丈夫だ。

 

 「翔?」

 

 可愛らしく、困った表情で首を傾げる。


 「はぁ……はぁ……」

 

 しかし、なんだ。こういう言い方がいいとは思えないが…すっげぇムラムラする。

 ダメだ!このままじゃ我慢出来ずにどうにかなっちまいそうだ。

 

 「とりあえず……風邪だとまずいから俺は部屋で寝てくるな……貞子にはそう伝えといてくれ……」

 「う、うん」

 

 ふらふらと立ち上がり、寝室に入った。

 危なかった。ちくしょう勇の野郎とんでもないもん食わしてくれたな。

 数分して、荒れていた息は少しずつ落ち着いてきたが、心拍数はあまり下がらなかった。

 

 「はぁ……これじゃ去年より最悪のクリスマスだよ……あいつらには落とし前つけてもらわないとな……」

 

 朦朧(もうろう)とした意識のなか、そんなことを呟いた。

 

 「今帰りましたぁ〜」

 

 リビングの方から貞子の声が聞こえた。

 頼むから部屋に来ないでくれよ。

 そんな俺の願いも虚しく、メリーが俺の事情を話している声とそれに驚いている声が聞こえる。

 ドアノブが回り、扉が開き、貞子が部屋に入ってきた。

 

 「翔さん!? 大丈夫ですか!?」

 「ああ、貞子。おかえり」

 

 貞子はすぐさま俺の頬に手を当てた。今帰ってきたばかりだから冷えきった手がとても気持ちよかった。

 

 「すごい熱……」

 

 朦朧としていた意識のなか、俺は貞子の顔を見てしまった。

 整った顔立ちで吸い込まれそうなほど黒く美しい瞳が再び俺の心拍数を上げ、次第に息が荒れだした。

 

 「貞子……」

 

 意思より先に体が動いた。

 起き上がり、手を貞子の頬にそっと当てた。貞子は少し恥ずかしそうに、困惑しながら俺の目を見つめてくる。

 どんどん心拍数が上がって行く。メリーの時とは比にならないくらい胸が苦しくなった。

 

 「しょ、翔……さん?」

 「もう……無理だ……」

 「え……無理って? きゃっ……!」

 

 困惑する貞子を思いっきり抱き寄せて、ベッドの上で仰向けになるように置いた。

 

 「ちょ、翔さん? それは不味いんじゃないでしょうか?」

 「はぁ……はぁ……」

 

 何度も何度も脳はやめろと言っているのに体が動く、貞子の左手を押さえつけ、ゆっくりと唇を寄せる。

 

 「しょ、翔さん……! ダメ、ですよ……! メリーもいるのに……」

 

 貞子は顔を真っ赤にして押さえつけられている左腕に少し力を込める。

 ダメだ! いい加減やめないと聖なる夜が性なる夜になっちまう!

 なんでもっと抵抗しないんだよ。空いてる右手で俺を殴れよ!

 そんな俺の思いは届かず、貞子は顔を真っ赤にしたまま、少しキョロキョロと辺りを見渡し、ゆっくりと目を閉じた。


 その目には少し涙が浮かんでいた。しかし、その涙が何を意味するかは俺には分からなかった。

 

 「この馬鹿が……!」

 

 俺は命令を無視し続けて動く体に必死で抵抗した。

 こんな形でこんな事したくない!

 なんとか踏みとどまる。しかし、意識がどんどん薄れていく、抵抗すればするほど視界が暗くなっていく。

 

 「もう……だめだ……」

 「え……?」

 

 数分前と似たような言葉を放ち、俺はバタりと倒れ、貞子顔の真横に俺の顔が落ちて、ベッドに埋もれた。

 結果的に貞子に覆いかぶさる形となったがこれは大目に見よう。

 

 「え! わっ! ちょっと翔さん!」

 

 突然かかる体重に驚いて目を開けると俺が倒れている。

 

 「え……? 翔さん?」

 

 気絶した俺をゆする。しかし、無反応。

 

 「な、な、何なんだったんですかァーー!」

 

 聖なる夜の前夜祭に一人の少女のいろんな感情が入り交じった叫び声が響いた。

 

最後まで読んで頂きありがとうございます。

最近投稿が遅くて申し訳ないかぎりです。

最近めっきり寒くなってきて朝起きるのが辛いです。そんな寒さにカタカタと揺れる顎を食いしばりながら次はどんな話を書こうかなと考える毎日です。

それでは、次回もよければ読んでください

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